27、高校の最寄駅 〜福引きダンジョン、レベル119
駅前には大きな樹があった。隣接する商業施設には大勢の人がいるが、樹のまわりにはあまり人が居なかった。人気ないというのは本当みたいだな。
樹に近づくと、係の人に声をかけられた。
「特殊学校の学生さんですか? 学生証は?」
「さっき、編入試験を受けてきたんで、まだ学生じゃないです。有料でいいです」
「そうですか。じゃあ、お一人3,000円になります」
俺達は、それぞれ入場料を支払った。
「出口のガラガラ抽選は、星5個のを引くといいですよ。端数は、くじカードで貯めることができます。カードに入れずにダンジョンから出てしまうと、福引き券は消えちゃいます。気をつけてください」
「わかりました」
俺達は人工樹に触れ、ダンジョン内へと入った。
「さて、攻撃力上げるぞー」
「リント、その袋を装備するみたいだな」
スイトが指差したのは、でっかく『福』マークが描かれた布袋置き場だった。なるほど、魔法袋かな? わずかに魔力を感じる。
「じゃ、頑張りますか〜」
俺達は剣を抜き、モンスターを倒していった。やはり、人工樹のダンジョンのモンスターは画像のように見える。倒すと、ザザッと映像がブレるように消えていく。
ドロップ品は紙だった。拾わなくても、『福』マークの布袋に勝手に吸い込まれていく。これ、便利だな。
「モンスター倒しても経験値が入るね。じわじわ上がってきたよ。ドロップ品の福引きもあって、レベル上げにはほんと、最適っぽい」
ミカトは、ちょこちょこ腕輪を確認している。
「なぁ、ミカト、でも単純作業で飽きてこないか? モンスターも弱いし」
「だから、人気ないのかもね。もうちょっと強くてもいいよね」
「ちょ、二人とも、俺にはギリギリなんだけど〜」
「あはは、じゃあ、仕方ないな。ってか、リントの動き速いな。ちょっと、見習わなきゃね、スイト」
「確かに、リントは速いな。スピードを意識してみるか」
そして、俺達は、俺が疲れてギブアップするまで、モンスターを倒していった。
「じゃあ、そろそろ出ようか。ボス部屋で福引きだな」
「スイト、かなり集めてたよね」
「ミカトもだろ? リントは最初は速かったのにな」
「あはは、リントは体力ないからポーション飲みながらでも良かったのに」
「ハッ! 気づかなかった。ミカト、言ってよ〜」
二人にニヤニヤ笑われながらも、ボス部屋へと進んだ。ポーションを飲んでまでやるには、単純作業すぎて……。人気がないのもわかる。モンスターは3種類しかいなくて、見た目が違うけど特徴も強さも変わらない。俺でも飽きてくる。
「人工樹のダンジョンは、タイプが二つあるって聞いたよ。国の要請で科学者が作ったものと、エンターテインメント性を重視して民間の企業が作ったものだって」
「このダンジョンは、科学者が作ったのかな」
「リント、正解。ちなみに高校の校庭のダンジョンは、高校が民間企業に依頼して作ったらしいよ」
「ワクワクが違うね」
「あはは、リントは子供か。でも、ミカト、科学者が作ったものは無駄がないんじゃないか? とりあえず、福引きだな」
俺達は、ボス部屋に入った。ボスはいない。ガラガラ抽選機が5個並んでいる。その横には、自販機のように見える『くじカード』と書かれた機械があった。
でも、また来る気がないなら、すべて福引きを引くよね。
魔法袋のような『福』マークの布袋に手を触れると、中身が表示された。星のグレードアップは、お食事ダンジョンと同じく10対1のようだ。
グレードアップは、目の前に表示された画面を目線で選べば可能らしい。俺は着々とグレードアップした。星5が1つになった。あとは端数だな。
「リント、星5になった?」
「うん、1回引けるみたい」
「さすがに運が高いだけあるな。俺は、かなり集めたのに2回だぜ」
「俺は1回だよ。あとちょっとで2回なんだけどなぁ。入り口の係の人、また来てもらいたいから星5以外は、くじカードって言ってたのかも」
「ミカト、俺もそう思う。学生証をもらったらまた来るかもしれないけど、有料だと考えてしまうな。モンスターが弱すぎるんだよな」
俺でも飽きたんだから、二人には苦行だったよね。
そして、一応、星5のガラガラ抽選機を回した。俺は上から二つ目の1等が当たった。二人は……イマイチだったみたいだ。
残りは、カードの機械に入れて、くじカードを発行した。これもとりあえず財布かな。
そして、俺は腕輪のステイタスを表示してみた。
【名前】 青空 林斗 (あおぞら りんと)
【レベル】 119
【種族】 ハーフフェアリー
【体力:HP】 4,150
【魔力:MP】 2,010
【物理攻撃力】 1,200
【物理防御力】 1,720
【魔法攻撃力】 1,980
【魔法防御力】 1,860
【回復魔法力】 630
【補助魔法力】 1,120
【速さ】 1,620
【回避】 1,760
【運】 149
【その他】 精霊の使徒(Lv.1)
【指輪情報】
①万年樹……ランク12、第3階層クリア
うーん、イマイチ思ったほど上がってないな。運なんて1しか上がってない。物理攻撃力、10万どころか1万でさえ、果てしなく遠いよ。
人工樹のダンジョンは、指輪がないから、指輪情報も増えてないな。
「リント、レベルいくつ? 150くらいいった?」
「あまり上がってないよ。119だよ」
「えっ? 俺はレベル60越えたよ。スイトは?」
「俺は、レベル69。ガツンと上がったな」
「ええ〜、二人ともすごい。俺たぶん18くらいしか上がってないよ」
「まぁ、リントはヘロヘロだったもんねー」
「もしかすると、100を越えると上がりにくくなるのかもな。学生証もらったら、また来よう」
「だねー。ガツンと上げよう」
二人とも、もう来ないようなことを言ってたのに、コロッと態度が変わるんだから。でも、モンスターが強くないから、俺としてはいい場所かな。
そして、俺達は高校に戻った。またお食事ダンジョンに行くためではない。帰る方法を尋ねるためだ。
体育館には、たくさんの生徒がいた。やはり、あのすんごい魔力持ちの先生が転移魔法を使っていた。
「あれ? おまえら、まだ居たのか? 他の青空くん達はもう帰ったぞ」
「はい、駅前のダンジョンに行ってて」
「うん? まだ学生証ないだろ。行くなら言えよ、仮発行できるんだからな」
「え〜っ! まじっすか」
「あぁ、まぁ、有料でも行くのは褒めてやるべきか。ははっ。さぁ、おまえらは、万年樹でいいな」
俺達が頷くと、やわらかな転移魔法の光に包まれた。




