152、高校の寮 〜大精霊の使徒、レベル不明
俺は、再び地上に戻ってきた。
寮の前の道路だね。まわりには知り合いは誰もいない。通り過ぎた車を運転する人が、俺を見て驚いた顔をしていた。そっか、妖精の姿だからだ。
精霊ルーフィン様は、姿を変える能力を与えるって言っていたよね。どうすればいいのか……と考えると、頭の中に呪文が浮かんだ。
『トランスフォーム!』
すると、俺の髪色は黒くなった。服も、今まで着ていた服に変わってる。人間の姿に変わったみたいだ。
その後、通り過ぎた車の運転者は、びっくりしていない。うん、人間の姿に変化できてるね。元に戻ったか確認したいけど、鏡がないか。でも、おそらく大丈夫なはず。
(ミカト達と合流したいな)
たぶん、駅前にごはんを食べに行ったはずだ。その後は、高校の体育館に行くって言ってたよね。
でも、空を見ると夕焼け空だ。浮き島と地上では、時間の流れが違うんだっけ。もしくは、転移魔法のせいでズレてしまったのかもしれない。
ん? あっ、妖精の痕跡が見えるようになってる。手で触れなくても彼らが通った場所に立てば、チカチカと光るんだ。すごい精度だね。
ミカトとスイトは、この道から寮へと動いたようだ。痕跡が光るだけじゃなくて、姿も、透けた写真のように見える。何、この能力? すごい便利だけど……ちょっとコワイ。
そっか、俺、精霊ルーフィン様の使徒になったんだっけ。ステイタスを確認してみようと腕輪を探したけど……ない!? ええっ? 腕輪が消えてる!
あー、浮き島に戻ったから、消えたのか。じゃあ、スキルも使えないじゃないか。ヤバイ……ってか、俺のステイタスも、もしかして、ガツンと下がってるんじゃないの?
『お呼びですか?』
突然、頭の中に、無機質な声が響いた。
『えっと、誰?』
『精霊の使徒のスキルでございます』
『あれ? いつものスキルとは話し方が違うけど』
『いつものスキルとは? 私は初めてお話させていただきますが』
『そ、そう』
『ご用件は?』
『あっ、えっと、俺のステイタス画面なんて表示できる? 万年樹でもらった腕輪が消えたんだよね』
『地上の人間のステイタス画面ですか?』
『あー、無理ならいいんだけど』
『イメージをいただければ、再現致します。記憶を読ませていただいても構いませんか?』
『あ、うん、どうぞ』
なんだか、すごく丁寧だな。
『数値は、今の能力に修正致しました。レベルは、申し訳ありませんが、わかりません』
目の前に、パッとステイタス画面が現れた。
【名前】 青空 林斗 (あおぞら りんと)
【レベル】 不明
【種族】 フェアリー・キング
【体力:HP】 45,000
【魔力:MP】 395,000
【物理攻撃力】 45,000
【物理防御力】 190,000
【魔法攻撃力】 450,000
【魔法防御力】 200,000
【回復魔法力】 200,000
【補助魔法力】 250,000
【速さ】 55,000
【回避】 101,000
【運】 MAX
【その他】 大精霊の使徒
うわぁ!? 何これ。体力や物理攻撃力は倍になってるし、魔法系は、さらに倍……四倍くらい? 前の数値はイマイチ覚えてないけど……。
大精霊の使徒? 精霊ルーフィン様って、大精霊なんだ。万年樹の精霊の使徒ではなくなったのかな?
『万年樹の精霊との契約は終了しています。一応、確認しておきましょうか?』
『あー、いや、直接行ってみるよ。ステイタスが上がっているのは、ルーフィン様の使徒だからかな?』
『いえ、それは反映させていません。木の精の影響がわずかに及んでいるようですが。スキルの力を使っていただければ、それぞれの数値は数十倍から数千倍になります』
(木の精……こびと達か)
『すごいんだね。発動条件は?』
『特にございません。必要なときに、私をお呼びいただければ、発動いたします。ただ、精霊の力の弱い場所では、数十倍から数百倍程度にしかなりませんのでご注意ください』
『十分すぎます……』
『恐れ入ります』
俺は、ミカトとスイトの痕跡を追って、寮に入った。すると、クラスメイトが俺を見つけて、驚いた顔をしてる。
「リントくん! 帰ったんじゃなかったの?」
「あー、うん、帰ったけど戻ってきたんだ」
「すごい騒ぎになってたよ。テレビの取材も来てたし」
「えっ……そうなんだ。ミカト達、どこにいるか知らない?」
「ムッチーの部屋じゃないかな」
「そっか、ありがとう」
俺は、担任の木戸先生の部屋へ向かった。あれ? 他の王子達が出入りした痕跡もある。それに、なぜか、あの人も?
コンコン
「誰だ〜? ちょっと接客中なんだ」
「先生、青空 林斗で……」
バッと扉が開いた。
(えっえっ?)
扉のすぐ近くに居たらしき誰かが、俺に抱きついてきた。ちょ、ちょっと、えっ? なんか、いい匂いがするんだけど。
「もう、バカっ!」
「えっと……中村さん?」
名前を呼ぶと彼女は、真っ赤な顔をして、パッと離れた。びっくりした。たぶん俺も顔が赤いと思う。頬が熱い。
「リント! 帰ってきたんだ!」
「リント、よかった」
ミカトとスイトは、満面の笑顔で出迎えてくれた。
「うん、地上に戻ることになったよ」
「俺達も、いま、期間が延長されたって聞いたんだ」
「青空 林斗、戻ってきてくれてよかった。大変な騒ぎになっているんだ」
「先生、すみません。さっき、会った人からテレビの取材が来たって聞きました」
「あぁ、おまえがいるから新設が決まった短期大学も、大騒ぎになっていてな。まぁ、勝手な大人達の都合だが」
そう言うと、先生は苦笑いしている。今朝、俺が消えてから大変だったみたいだ。
「アンタ、半人前なのに一方的に解除するなんて、いい度胸ね。許さないからね!」
小さくて見えなかったけど、先生のすぐ横には、仁王立ちの幼女がいた。へぇ、彼女の魔力って、かなり高いんだ。30万を超えている。もっと低いのかと思ってた。
あれ? 俺、知りたいと思ったら、ステイタス見える。うわっ、ミカトやスイトの物理攻撃力って、40万を超えている! こ、これは、秘密にしておかないと……。
「きのこさん、こんなとこで、どうしたんですか?」
「リント、きのこちゃんは俺達に、滞在期間の延長を知らせに来てくれたんだ。三年じゃなくて、三十年になったって」
「えっ? 十倍?」
「うん、リントはなぜ戻って来られたの? まさか、お兄さんとケンカでもした?」
「ミカト、あー、なんか悔しがってるみたいだったけど、ケンカはしてないよ。別れ際、幸運を祈るって言ってたし」
「そっか、よかった。じゃあ、どうしたの?」
「俺、地上の妖精の地位があるから、浮き島と地上の行き来は大丈夫みたい」
先生もいるから、俺の役目の話はしない方がいいよね。
「そうなんだ、よかった」
「よくないわよ! 半人前のくせに、何なのよ、そのチカラ! なぜステイタスを隠せるのよ……まるで、私より上位妖精みたいじゃない」
幼女がなぜか怒ってる。
「きのこちゃん、リントは、さー」
「ミカトくん、言われなくてもわかってるもん。でも地上の妖精としては、私の方が先輩なんだからねっ」
(はぁ、面倒くさいな)
「きのこさん、俺はどうすればいいんですか」
「万年樹の精霊の使徒!」
「えっと、俺、別の精霊の使徒になってて……」
そう言うと、幼女は目を見開いた。そして、チッと舌打ちしてる。ミカトやスイトも気づいたみたいだ。めちゃくちゃびっくりした顔をしている。
「リント、それで、地上に戻ってきたのか」
「うん、スイト、そうだよ」
「なるほど、だから俺達も、期間が延長されたんだな。三十年で収まらなければ再延長かな」
「かもねー」
すると先生が、割り込んできた。
「もしかして、青空達みんなが、当分の間、この地上を守ってくれるということなのか?」
俺はやわらかな笑顔で、その問いに答えた。
「はい、それが大精霊ルーフィン様の願いですから」
次回、エピローグです。
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