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150、高校の寮 〜突然の別れ

「これまで、特殊軍の訓練校だった場所を拡張し、国立特殊技能短期大学として、この4月から開校することになったのです。皆さんには、第一期生として、無試験で入学してもらいます」


 さらに、校長先生の話は続いた。


 俺のテレビ番組での発言から、昨夜一斉調査が行われ、多くの人工魔物が確認されたらしい。


 そして、その増殖スピードが異常なことから、危機感を抱いたみたいだ。科学者の当初の予想の、数万倍のスピードで増えているらしい。


 だから、冒険者には、ダンジョン内のレベル上げ以外に、敵対的な人工魔物の討伐をしてもらう仕組み作りの最中なのだそうだ。


 この短期大学の開校は、敵対的な人工魔物の討伐と、人工魔物を手懐け共存する方法を探ることが目的なのだそうだ。卒業生には、特殊な冒険者の資格を与えるらしい。


「他のクラスの3年生にも、簡単な試験で、入学してもらえるようにする予定です。また、年齢、種族に関係なく、入学を希望する人には、等しく受験してもらえます。皆さん、よろしくお願いします」


 また、校長先生は、俺達に頭を下げた。そして、軍の制服を着た人に急かされるように、立ち去った。忙しそうだね。




「みんな、そういうわけだ。俺も4月からは、短期大学へ配置換えになる。引き続き、よろしく頼むぞ」


 ウチのクラスの担任の木戸先生だ。なぜかムッチーと呼ばれている。先生も大変そうだね。


「ムッチー、他の大学に進学が決まってる人が多いはずだぜ? どうすんだよー」


 クラスメイトの一人が、みんなが聞きたい質問をした。


「あぁ、入試の合格は、短期大学卒業年度まで有効になるらしいぞ。たぶん、3年次に編入できるはずだ」


「それならいいけどさー」


 強制的に進学を決められるなら、それくらいのことをしてもらわないと、困るもんね。みんな、少しホッとした顔をしている。


 確かに、このクラスは、同世代の中でも、特殊技能に優れている。だから、新設の短期大学にそのまま進ませたいんだ。


「もしかして、国は、リントくんを利用して、新設の短期大学に人集めをしようとしてるの?」


 突然、中村さんがそんなことを言った。すると、先生は困った顔をしている。


「リントくんだけじゃないでしょ。スイトくんやミカトくんは、リントくんよりも剣術強いし、妖精の王族だもの。彼らを餌にして釣るなんて、やり方がキタナイよ」


 他のクラスメイトも、そんなこと言ってる。スイトやミカトは苦笑いしていた。


「あー、おまえら、静かにしろ〜。否定はできない。だが、それほどの危機だということだ。国の軍隊だけではどうにもならない。冒険者は自由業だから、報酬が高くないと請け負ってくれないだろ」


 みんなは、ガヤガヤと騒がしくなった。でも、頭の中では理解しているみたいだ。だけど、感情がそれについてこないようだ。


 俺は、もうすぐ浮き島に帰ることになるかもしれない。でも、そんなことを言い出す勇気はなかった。どうしようか。


 それに、俺が浮き島に戻ると、186人の眷属もついてくるよね。クラスには十人ほどの眷属がいるんだ。話さないとマズイかな。


 だけど、タイミングを逃してしまった。そして、そのまま、解散となった。




「リントくん、暗い顔してるけど大丈夫?」


「あっ、中村さん、久しぶり」


 俺は、中村さんが気遣ってくれるのが、なんだかとても嬉しかった。


「うん、そうだね。ねぇ、嫌なら断ればいいんじゃない? なんだか、こういう理不尽なやり方って、許せないよ」


「ふふっ、みくってば、珍しく熱くなってるね」


 早瀬さんは、相変わらずの癒し系オーラを放っている。ミカトをチラッと見て微笑んでるし。ほんと、二人、付き合えばいいのに〜。


「だって、なんだか悔しくない? リントくんも暗い顔をしてるし」


「中村さん、ありがとう。大丈夫だから」


 俺は、なるべく平静を装って、やわらかく微笑んだ。


「そ、そう。それならいいけど!」


 なぜか、中村さんは怒った。あっ……嘘!? えっ? 中村さんの考えが見えてしまった。


(えっと……)


 俺は、その衝撃が、なかなか整理できなかった。知らないふりをすることに、全神経を集中させた。



「とにかく、外に出て朝食にしよう。万年樹のダンジョンも今は入れないし、ごはん食べたら、久しぶりに体育館で手合わせでもしようよ」


 ミカトは、早瀬さん達を誘っていた。


「うん、そうだね。瀬里奈ちゃんもお腹減ったって言ってたもんね〜」


 早瀬さんにそう言われて、眷属の小川さんは、ペロッと小さく舌を出した。なんだか小悪魔な雰囲気だよね。


「スイトもリントも、ほら、行くぞ〜。駅前はバリアで保護されてたから大丈夫だよ。俺、駅近のバーガー店に行きたい」


(店も決まってるんだ)


 ミカトが急かすと、早瀬さんも中村さんと小川さんを急かしている。ほんと、息がピッタリ。でも、ミカトには恋愛感情がないみたいだけど、気に入ってるのは確かなんだ。もう少し時間がかかるのかな。


 俺は……俺も、人のことは言えないか。


 チラッと、中村さんの方に目を移した。彼女の心の声が聞こえてしまったけど、俺は、俺も、もう少し時間がかかりそうな気がする。


 やはり、俺は不安なんだ。今回の件でも過大評価されてしまっていて、すぐに失望させてしまうんじゃないかって……。




 ミカト達と、寮から外に出た。


 すごく気持ちのいい青空だ。


「わぁ〜、なんか、いい天気だね」


 中村さんが少しはしゃいでいる。珍しいな。でも、笑顔の中村さんって、とても綺麗だ。



『早く戻ってこい』


(また、兄貴の声だ)


 俺は空を見上げて……やはり、そうかと、覚悟を決めた。



「ミカト、スイト……」


 俺が立ち止まったことで、二人は振り返った。そして、女子三人も……。


「ごめん、一緒に行けないみたい。昨日から、ずっと兄貴に呼ばれているんだ」


「そっか……でも、もう帰っちゃうの? 俺達は、まだ地上に降りて一年も経ってな……」


 ミカトが途中で、ハッとした顔で言葉を止めた。代わりにスイトが口を開いた。


「リント、元の姿に戻ってるぜ。リンゴ王子……いや、和リンゴの王。ほんとに世話になった、ありがとう」


 あー、確かに、いつのまにか服が変わってる。風になびく髪色も、薄い金髪だ。


 中村さんと早瀬さんは呆然としている。ミカトは、さっきの勢いが消えてしまっていた。


「ミカト、スイト、ありがとう。中村さん、早瀬さん、二人をお願いします」


 空に浮かぶ浮き島から、ひと筋の光が差した。俺はその光に拐われるかのように、地上からスーッと消えた。



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