149、高校の寮 〜よかった、無事で
「遅かったね。テレビ見てたよ。あっ、戻ってるじゃん」
ミカトが借りた転移具を使って移動すると、そこには見知った顔がたくさん居た。すごくホッとする。
俺は、ダンジョンを出たから、スキルは解除されて、人間の姿に戻っていた。
「うん、あの姿は、ダンジョン内でしか見せられないから」
久しぶりに会うクラスメイトは、みんなニコニコしてくれた。よかった、怖がられなくて。
少し離れた場所に、中村さんと早瀬さん、そして眷属の小川さんがいるのが見えた。よかった、みんなが無事で。久しぶりに見る中村さんは、少し大人びた表情に見えた。
「もしかして、クラスメイトみんな寮にいるの?」
ミカトが近くにいた人に尋ねていた。
「ミカトくんは知らないのかな? ウチのクラス全員、明日朝までに、寮に来るようにと連絡がきたよ」
「全員って、知らなかったな。俺達は、家がなくなったから寮に行けって言われたんだよねー」
「青空くん達も家がなくなったのか。何人か同じ状況の人がいるよ」
「そっか。突然の襲撃だったもんね」
「でも、リントくんがあんなに強いなんて驚いたよ。人間の姿のときは、何か制限されてるのかな」
一番痛いところを突かれてる。クラスメイトの視線が俺に集中した。うー、やめてくれ〜。
「あー、あれには、ちょっとしたトリックがあるんだよ。秘密だけど」
ミカトは、冗談っぽい言い方で、切り返してくれた。
「それって、妖精の秘密?」
「うーん、まぁ、そうかもね。リントは、相変わらず、剣術は苦手だよ」
ミカトがそう言うと、みんなは少しホッとした表情をしていた。たぶん、テレビ局で同じことを言ったら、残念がられるんだろうな。
なんだか、みんなに仲間として受け入れられてる感じがして、俺はすごく安心した。ほんと、よかった。
ミカトはお食事ダンジョンに行きたそうだけど、メンテナンス中で、入れないらしい。妖怪の襲撃でダメージを受けたそうだ。
しばらくすると、弁当が配られた。俺達は部屋を振り分けられ、自室で弁当を食べた。一人での食事って、やっぱりなんだか寂しいけど、みんなそれぞれ疲れているもんね。
屋敷に比べると、驚くほど狭い部屋なんだ。まぁ、寮ってこんなものなのかもしれないけど。
机と小さなクローゼットとベッドがあるだけで、部屋はもういっぱいなんだ。ミカトが俺を心配して、一緒に弁当を食べようかと言ってくれたけど、部屋を見てやめたんだ。座るところがないんだよね。
でも、人間って、みんなこんな狭い場所で暮らしているのかな。狭さに驚いたけど、隣の部屋の人のくしゃみが聞こえる。うん、悪くないね。隣人がいると実感できるから、ひとりぼっちじゃない感じがする。
この部屋でミカトと弁当を食べなくてよかったよ。隣人に迷惑になるかもしれないからね。
俺は、慣れない部屋だけど、すぐに眠りについた。随分、久しぶりに眠ったような気がする。
「リント、おはよう〜!」
俺がまだ起きる気がしなくて、まどろんでいるところに、ミカトが満面の笑みで入っていた。なんだか妙に元気だねー。
「お、おはよう。着替えるから、ちょっと待って」
「着替えながらでいいよ。あのさ、お食事ダンジョン、大規模リニューアルするらしいんだよ」
「元気だと思ったら、お食事ダンジョン?」
「俺はいつも元気だよ。でさー、今は星1つ、2つ、3つの扉じゃん? リニューアルで、星4つの高級な店と、星ゼロの店が加わるらしいんだよ」
ミカトは、めちゃくちゃキラキラしている。
「星ゼロって何? 学食より安い店?」
「それがさー、星ゼロは、なんとB級グルメらしいんだ。しかも、超不味い料理も混ざっているんだって。面白そうじゃない?」
「うーん、またミカト、制覇するのが難しくなるね」
「でも、絶対、コンプリートするからね」
「そう言うと思ったよ、ミカトくん」
「ふっふっふ、リントくんも悪よのぉ〜」
「意味不明だし。あはは」
ミカトは、何か言おうとしたけど、口を閉ざした。でも、俺にはミカトの心の声が聞こえてしまった。俺は、今までとは違うんだな……なんだか辛い。
(そっか、でも、たぶん、そうだよね)
ミカトは、俺との別れが近いと考えている。ミカトは、まだ浮き島に戻る条件を満たしていない。たぶん、スイトも戻らない。
だけど、俺は、きっと外に出れば、浮き島が見えるはずだ。いや、今もすでに感じているんだ。浮き島から、兄貴が俺を呼ぶ声が聞こえている。
外に出て、浮き島が見えたら……すぐに帰ることになるのかな。なんだか、そんなの、空を見上げられないよ。
「おはようございます。3年Bクラスの皆さん、ただちに寮管理室へ集合してください。もう集合時間は過ぎています。校長先生も、来られていますよ」
突然、館内放送が流れた。
(えっ? そんな話、聞いてないよ)
「あっ、しまった。俺、スイトに言われてリントを起こしに来たんだった。忘れてたよ」
「ちょ、ミカトくん。それを早く言いたまえ」
「ぷははっ、それ、誰の真似?」
「ん? テキトー」
「あはは、リントもなかなか返しが上手くなってきたじゃん」
「そう? いや、それより寮管理室ってとこに、早く行かなきゃ」
「あはは、確かに〜」
俺達は、寮管理室へと向かった。でも、館内放送をするってことは、まだ来てない人もいるんだよね。
だけど、その予測は甘かった。
「リント、やっと起きたか」
「スイト、おはよう」
「おはよう。一番遅いぜ」
「えっ!? まじ?」
俺が来たのを見て、先生がコホンと咳払いをした。みんなの注目を促してる。うん、確かに……全員いるね。昨夜会わなかったクラスメイトも、みんな来てる。よかった、誰も犠牲にならなくて。
校長先生らしき人が、台の上にあがった。そして、俺を見てコクリと頷いた。初めて会うのに、校長先生は、俺のことを知っているんだな。なんだか落ち着かない変な感じがする。
「皆さん、おはようございます。昨日までの数日間、様々な防衛に尽力ありがとう。特に、青空 林斗さん、ありがとうございます」
校長先生は、みんなに頭を下げた。えっ? 俺達に頭を下げる? みんなも戸惑っているようだ。
「昨夜は、各所で様々な話し合いが行われました。その結果を皆さんにお伝えに来ました」
(また、防衛戦?)
「皆さんは、もうすぐ、国立特殊技能高等学校を卒業しますね。その先の進路をすでに決めておられる方も多くいらっしゃると思います。ですが、Bクラスは全員、新設する短期大学へ進学していただくことに決まりました」
(へ? 進学の話?)




