表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/153

145、某テレビ局 〜妖狐の秘術と絶望感

 カルデラ達は、炎に包まれている。弱い妖怪は、すでに命が燃え尽きたのか、火の玉だけになっている者もいる。


(確かに、もう遅い、か)


 怨霊の安倍晴明は、ニヤニヤと笑っている。俺の動揺する姿を見て楽しんでいるみたいだね。怨霊になって、さらに性格悪くなってないか? こびと達の支配下にあるようだけど、彼の態度は相変わらずだ。


 カルデラ達がパワーアップして蘇るのは、一昼夜後、つまり明日のこの時間か。それまでに、応戦準備を整えなければならない。


(クソッ)


 炎の中のカルデラが笑っているように見える。彼女達がパワーアップして蘇り、ダンジョン以外の場所で暴れたら、俺は、俺達は、街を守ることができるのだろうか。


 それをしのげたとしても、また自害をして、さらにパワーアップするなら……。


(無理だよ、そんなの……)


 俺は、妖怪の恐ろしさに身の毛がよだつのを感じた。どうすればいいんだ。絶望感って、こんな感じなんだな……。


 逃げたくなった。


 でも、俺が逃げると確実に、人間は滅ぼされる。そうなると……フルーツを栽培し消費する者がいなくなると、俺達、妖精はチカラを失う。


 逃げることは、俺達の衰弱にもつながる……。


(どうすればいいんだよ、精霊ルーフィン様……)




「誰か、ポーションを持っていないか?」


 まだ、妖怪達が燃える炎が見えるが、一階層にいた人達は動き始めた。彼らの方に目を移すと、重傷者の手当てをしている。


(まずは、これが先だな)


 俺は、考えるのをやめた。そして、スゥハァと深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。



「俺が治療します」


 重傷者に近寄っていくと、テレビ局のスタッフはホッとした顔をした。まだ、助けたわけじゃないのに、そんな安堵した表情をされると辛い。


『キュア!』


 スキル「精霊の使徒」を発動中だ。すべての効果は数十倍から数百倍に増幅される。


「おぉ、す、すごい」


「ありがとうございます! リントさんがいらっしゃれば、何も怖いものはないな」


「いえ……」


 俺は、力なく微笑むことしかできなかった。もう大丈夫ですよとは言えない。明日の今頃、明後日の今頃、しあさっての今頃……。もう、この国から、人間はすべて消し去られているかもしれないんだ。


(俺は、無力だな)


 スキル「精霊の使徒」で無双できても、それはダンジョン内だけのこと。大事な人達を失うことがわかっていて、うまく笑えない。



「リントさん、この壁を……」


「あ、はい。すぐに消しますね」


 俺は、土魔法を解除した。カメラマン達が、俺の方に近寄ろうとしたけど、それを阻止した。


「カメラマンさん、まずは、負傷者を安全な場所に移動させてあげてください。ここは、まだ危険です」


「えっ、あ、あぁ、そうですね、わかりました」


 一人のカメラマンを残し、他の人達は、一階層に取り残されていた人達を運び始めた。


「カメラは、やめておけ。強い怨霊がいる。どうせ映らない」


 バカヤローと叫んだ人が、カメラを回し始めた人に、そう伝えた。俺に配慮してくれたのかもしれない。俺が、きっとひどい顔をしているから。




 一階層に、ミカトとスイトが上がってきた。紅牙さんは居ない。二階層で、カゲロウの監視かな?


「リント、大丈夫? 疲れた?」


「顔色が悪いな」


 俺は二人の顔を見て、一瞬、涙が出そうになるのを必死にこらえた。


「うん、ちょっと、無力感で押し潰されそうになってる」


 俺が力なく呟くと、二人は驚いた顔をした。でも、スイトは知っていたみたいだ。


「アイツら、自害した?」


「うん……明日の今頃には、パワーアップして蘇るみたい」


「カルデラの妖術だな。確か、三回のリミットがあるはずだけど」


(えっ? 永遠に蘇るわけじゃないんだ)


「三回も、蘇るの? ちょっ、マジ?」


 ミカトは知らないみたいだね。でも三回か……。その度にパワーアップするなら、やはり無理かもしれない。


「妖狐の秘術らしいぜ。死者の魂を取り込んで蘇るそうだ。だけど、三回目には人化できなくなるはずだけど」


 スイトは、顔色が悪くなってる。やはり、マズイって思ってるんだ。


「どれくらいパワーアップするんだろう?」


「戦国時代で、カルデラとは別の妖狐が使っていたけど、死者の魂が多ければ多いほど、パワーアップする。あの時代ならではだろうけど、簡単に斬れた妖狐が、蘇ると、俺には全く歯が立たなくなってた」


「スイト、それ、半端ないじゃん。それが、三回もできるなんて、無理すぎない?」


「三回目は、姿を維持できなくなるから、たぶん実質二回が限度だろうけど」


「でも、リントがいれば……って、そっか、どこに出没するかわからないか」


 ミカトも、その表情から笑顔が消えた。




「あの、どうされたんですか?」


 テレビ局の人が、俺達がどんよりしている様子を心配して、声をかけてきた。俺は、どう返事をすればいいかわからない。


「あの妖狐が、妖術を使って自害したんですよ。明日には蘇るみたいです」


 ミカトが説明してくれた。


「さっき、怨霊がそう話していたのを聞いたよ。死者の魂を喰って蘇るって……。事実なのか」


「すぐに、対策が必要です。とんでもなく強くなって蘇るかもしれなくて……」


 ミカトは、スイトが戦国時代で体験した話は伏せていた。だよね、不安をあおるばかりだもんね。


「では、すぐに報道します。いや、まだ何も解決していないから、各地はすでに厳戒体制だ。混乱を招くか……」


 ミカトは、頷いている。何? カゲロウ達が、戦乱を止めたのに?


「ミカト、各地の戦乱は、カゲロウ達が止めたよね? 事後処理の話?」


「いや、違うんだ。それとは別件だよ」


「何かあった?」


「内陸部で、他の人工魔物が襲来してるんだ」


「ええっ!?」


 ちょっと、次から次へと、死者が増えるようなことばかり……。もう、無理だよ。




『隠れスキル「眷属化」を実行しますか?』


 頭の中に、無機質なスキルの声が響いた。


『えっ? スキル、眷属化って……誰を?』


『この場所にいる妖怪22体です』


『そんなこと、できるの?』


『可能になりましたので、お尋ねしています』


『ちょ、ちょっと待って』


 えっ? 眷属化? ちょっと待って、なぜ?



「リント、どうしたんだ? 変な顔」


「ちょ、どうしよう。スキルが、眷属化するかって言ってきたよ」


「どれを眷属化するの?」


「ここにいる妖怪達……」


 二人は、一瞬、思考停止してるみたい。だよね、俺も、大混乱中だよ。


「リント、すぐに実行だ!」


「でも……」


「支配下におけば、カルデラは暴れられないよ、リント」


 俺は……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ