144、某テレビ局 〜まさかの行動
「姫様の邪魔をする奴は、人間じゃなくても許さない」
魔弾を受けても、立ち上がった妖怪は、まだ十体ほどいる。そのうち、三体は完全に傷口が塞がっているようだ。魔法には強いんだな。
「やっちまえ!」
だけど、俺はスキル「精霊の使徒」を発動中だ。それに、バリアも倍速魔法も使っている。
「ワシが仕留めるぞ、うりゃぁあ〜!」
ザンッ!
大ナタを振り回す妖怪の攻撃を避け、すれ違いざまに、足を狙って剣を振った。
ぎゃああ〜
二体、三体と斬り、床に転がしても、彼らは諦めない。俺に敵わないと気づくと、時間稼ぎのためにと、プライドも捨てて、飛びかかってくる。
(急所を避けてると、キリがないな)
ピンッと、空気感が変わった。
俺がカルデラにたどり着く前に、カルデラの準備ができたらしい。
「ふふっ、リントさん、いくらマナがあっても、この数の妖怪は、さすがにどうにもならなかったようね」
ゆらゆらと強い妖気に包まれて、カルデラは微笑んだ。その目は、完全に狂ってる。きっと、何を言っても彼女に言葉は届かない。
(どうすればいいんだよ)
「さぁ、死になさい。もう、貴方をかばうあの子は居ないわ。あの子を消滅させたことを悔いながら、死になさい!」
ゴォォォォ〜ッ!!
カルデラは、強い炎の妖術を放った。
平安時代に大原で見たものと同じ術だ。地形を変えるほどの膨大なエネルギーだった。
彼女は、もはや正気ではない。生き延びる気もない。各地の妖怪の襲撃を、青い人形が阻止したから、おそらく死に場所を求めてここに来たんだ。
連れてきた妖怪達も同じか。いや、カルデラを信じているんだ。彼女の炎に動揺している者もいる。だけど、逃げない。そのまま道連れにされると気づかないんだ。
それに、壁側に避難しているけど、逃げ遅れた怪我人や、瀕死の人までいる。彼らにはバリアを張ってあるけど、カルデラの妖術は半端ない。
(撃ち返せない)
『ブラック・ホール!』
俺は目の前に、黒く大きな穴を出現させた。初めて使う魔法だから、かなり不安だけど、他に選択肢はない。
ブラック・ホールは、すべてを吸い込み、そして無属性のエネルギーに変換するはずだ。エネルギーの放出予定場所には、木の精が集まってきた。
(こびと達は、抜け目ないな……)
カルデラが放った妖術は、爆発することもなく、ブラック・ホールに吸い込まれていった。そして、黒く大きな穴は、スッと消えた。
変換した無属性のエネルギーは、ダンジョン内に放出するつもりだったけど……木の精が、ほとんどを吸収してしまったようだね。
(よかった、うまくいった)
「なっ、なぜ、何をしたの!?」
「カルデラ、ここは俺の時代だと言ったでしょ。少し落ち着いて。もう、こんなことをする必要はないんだ。絶対に、人間を説得する。約束するから。貴女は、姫様なんでしょ? 平安時代に帰って、穏やかに暮らすべきだよ」
「嫌っ! そんなの、認めない!」
彼女は、やはり聞く耳を持たない。どうしようかな。妖怪達も、俺に敵わないとわかっている。俺を恐れている妖怪もいるけど、でも、逃げない。
シーンとした中で、数人の足音が聞こえてきた。二階層から、誰かが来るみたいだ。ジッと見てみると……えっ? カメラマン?
そっか、このフロアの状況は、二階層のスタジオの壁に映し出されていたっけ。カメラを探すと、何台か見つけた。だけど、魔法でやられたみたいだ。それで、カメラマンが駆け上がってきたのか。
カルデラも、足音に気づいてる。
俺は、足音のする方へと駆け出した。バリアなしで、ここに飛び出して来られたら大変だ。
壁際に避難していた人も、俺の行動の意味に気づいたみたいだ。
「バカヤロー! 来るな! 死ぬぞ」
二階層への通路近くにいた人が、怒鳴った。でも、カメラマンは気にせず、次々と飛び込んできた。
背後に、妖力が集まる気配を感じた。
(マズイ! カルデラは、狩る気だ)
『ウォール!』
俺は、土魔法で、カメラマン達がいる通路を塞いだ。
「壁から離れてください。妖力が集まって……」
ゴォォオ〜!
さっきよりは、圧倒的に少ないエネルギーだが、炎の妖術が、この部屋に広がった。
「えっ……何?」
炎は、ここまでは届いていない。
振り返ると、カルデラは、炎に包まれていた。そして、近くにいた妖怪達も巻き込まれている。いや、違う。わざと、巻き込まれにいってる?
(カルデラ……)
「うわぁ! な、なんだ?」
壁際にいる人が、何かを指差して叫んだ。妖怪達の自害にみんな驚いている。俺も……まさか、こんなことに……。
「俺は視えるんだよ、悪霊だ!」
(えっ? まだ命は尽きていないんじゃ?)
「アイツ、またおかしなことを言ってるぜ……って、うわぁあ!?」
通路の近くにいた人が怯えた表情をしている。さっき、バカヤローって怒鳴っていた人だ。
「どうしました? 大丈夫ですか」
「あ、あれ……」
彼が指差す先には、青白い光に包まれた黒い着物を着た男がいた。あっ、なぜ?
「安倍晴明様……なぜ、ここに?」
「ふふっ、青空殿、彼女達の末路を見物に来たのですよ。すべてが終わらないと、私は戦国時代に戻れませんからな」
「人々が怯えていますが」
「おや、私の姿が見える人間がいるのか。声は聞こえるだろうと思って、ジッと静かにしていたのだがな」
彼を指差していた人達は、俺が、安倍晴明と呼んだことで、別の意味で混乱しているようだ。
その様子を見て、怨霊の安倍晴明は、ニタニタと笑っている。彼の姿が視えると言っていた人が、真っ青になっているんだけど。
「説得をしてみたけど、平安時代には戻ってくれなかったですよ」
「まさかの自害だねぇ。面白くなりそうだ」
「どういうことですか?」
「姫様がなぜ千年後に復活しないのか。その原因は、ここにあったようだな」
「この時代で死ぬから、これから千年後に復活するということですか」
「おや、青空殿は何もご存知ないのか。ふふ、彼らは自害にて命が尽きると、一昼夜後に復活しますよ」
「えっ? なぜそんなことを?」
「おそらく、敵わないと感じたから、最終手段でしょうな。あちこちに漂う多くの死者の魂を喰って、さらに妖力を高めて復活するでしょう」
もしかして、始めからそれが狙いで、妖怪を操って各地で戦乱を引き起こしたってこと?
「カルデラは、どこから仕組んで……」
(パワーアップして蘇るなんて)
俺が焦っていると、怨霊の安倍晴明は、面白そうにニヤニヤしている。
「あっ、そうだ、回復魔法を!」
「残念! 青空殿、もう遅いですよ」




