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142/153

142、某テレビ局 〜やっと、わかってくれたかな

「できたのー」


 青い人形にみえる海ヘビの人工魔物、片目のカゲロウは、ニコニコしながら俺のまわりをふわふわと飛び回っている。


「早かったね、すごいね」


「そうなのー」


「誰も死んでない?」


「失敗しないのー」


 頭の中に、こびと達からの情報が入ってきた。戦乱地域全域の制圧完了。死者なし。カゲロウのマヒ毒を使って捕捉。


 それによって、妖怪達の洗脳は解除されたみたいだ。自らの意志で襲撃した妖怪の方が多いようだけど。


 平安時代から来た妖怪達は、離れた場所にいるから、無視したみたいだね。平安時代からの妖怪は、6体いるようだ。


 スタジオの壁に設置されている、各地の中継画面も、青い人形がふわふわ飛んでいる以外は、動く者はない。戦乱地域は20ヶ所以上あったようだけど、カゲロウ達の数は圧倒的だ。



 俺と同じく、中継画面を見ていたステージ上の司会者や、学者、科学者達は、呆然としている。


「妖狐が別の時代から連れてきた妖怪は、捕まえられていません。離れた場所から指揮していたようですので」


「青い紐に巻かれているが、あれは?」


「この子達の、本来の姿です。海ヘビの魔物ですから。巻きついて捕まえたみたいです。マヒ毒を使ったようですから、妖狐に洗脳されて操られていた妖怪は、洗脳解除されているはずです」


「人間も捕まえているじゃないか!」


「両方を捕まえないと、戦乱は止まりません」


「こんなにいるのか、海ヘビの魔物は」


「約6万体いるようです。この子達は、数は多い方ですが、人工魔物から派生した魔物は、それぞれ、数万体いるんじゃないですかね」


「そ、そんな……350種以上いると言っていたか。我々の知らない未知の魔物が200種類以上……とんでもない危機だ」


「にわかには、信じられないが……そんな魔物が一斉に襲ってきたら、日本はおしまいだ。特殊技能を持つ人間は1万人もいないんだ」


「それどころか、特殊技能を持つ者達が、青い魔物に簡単に捕まっているじゃないか……」


 スーツを着た人達は、やっと現実の危機だと認識したらしい。うすうす勘付いていた科学者は、手のひらを返したように危機感を煽るような発言まで始めた。


 完全に管理していると言っていたのに、妖怪の影響を受けて妙な進化が進んだとか、人工樹ダンジョンの運営管理が悪いからだとか、誰かのせいにしたいんだね。保身に必死だ。


 俺が思わず睨んでしまったのだろう、俺と目が合うとおとなしくなったけど。


「もう、新たな人体実験はしないと約束してください。これ以上増えると、どうにもならなくなる。この2100年が分岐点のようです。今、新たな開発をやめれば、ギリギリ間に合うかもしれません」


 科学者達は、うなだれている。学者は、そんな彼らの様子を見て、複雑な表情だ。でも、俺を恐れているのか反論はしない。




 突然、片目のカゲロウが、そわそわし始めた。


(あ、悪寒がする)


 画面を確認すると、一ヶ所で、ふわふわ浮かんでいたカゲロウ達が、吹き飛ばされている。


 カメラがそちらを映すと、一体のカゲロウの頭が、何かで串刺しにされている。尻尾で首をしめ、爪を突き刺したか。


 その姿を映そうとしたところを、カメラが壊されたみたいだ。


「青い魔物が殺されているじゃないか!」


 わざわざ頭を串刺しにした理由、それは一つしかない。この場所のサーチだ。


 カゲロウ数体が殺された場面を、別のカメラが映し出している。ステージ上も観客も騒然となった。だよね、圧倒的に強いと思っていたカゲロウが、簡単に殺されているんだから。




 俺は、紅牙さんを見た。ミカト、スイトと話をしている。俺と同じことを考えてるんだ。


「リント、来るぞ!」


 俺は、頷いた。


「紅牙さん、この場所って、千年樹のダンジョンなんですよね」


「あぁ、くらま千年樹のダンジョンの二階層ちゃうか」


「テレビ局ってことは、自由に出入りできる?」


「一階層に、出入り口があるはずや。テレビ局は、ダンジョンの一部分なはずやけどな」


「くらま千年樹の精霊は……えっ? くらま? 京都ですか?」



 如月くんが、こちらに駆け寄ってきた。


「リントさん、皆さん、ここは京都の鞍馬です。くらま千年樹は、妖怪と人間の共存に理解があって、もしもの有事の際の為にと、テレビ局と、シェルターを作ってくれています」


「俺、平安時代に、鞍馬の狐の里で、この若木に会っているよ。この若木から、山の神の話を聞いたんだから」



 すると、精霊の声が聞こえてきた。


『青空 林斗、久しぶりどすな。ふぉっほっ、驚いたじゃろ? 姫様がここに向かってはりますぞ』


『はい、あのときの御神木ですね。立派に成長されて』


『ふぉっほっ、それは、ワシのセリフじゃ。まさか、山の神を配下に取り込まはるとはの』


『えっ? わかるのですね、さすがです』


『いや、山の神から接触があったんどす。姫様を誘い出す場所を提供してほしいとな。今日は、冒険者は入れてまへん。じゃが、壊さんといてくださいよ? ワシには、たいしたチカラはありまへんからの』


(こびと達が仕組んだの?)


『かしこまりました。では、テレビ局だけに人がいるんですね?』


『最下層の三層にシェルターがおます。そこには、宿なしの人間や妖怪が暮らしてはる。冒険者がウロウロするダンジョンには、誰も居てはりません』


『わかりました』



「リント、何や? 固まって」


「あ、この千年樹の精霊の声が聞こえてきたので」


「俺も聞こえた。スイトも?」


 スイトは頷いた。


「俺、戦国時代で、この木と話したことがあるんだ」


「へぇ、そうなんだ。縁があるね」


「なんやなんや、説明せいや」


 紅牙さんには聞こえていないんだ。精霊の声は妖精にしか聞こえないよね。


「ここがまもなく襲撃されます。テレビ局とその地下のシェルターには人がいるけど、ダンジョンには冒険者は入れていないそうです」


「ダンジョンに誘い込めってことなんか? あの妖狐、半端ないで?」


「でもリントは、ダンジョン内はスキル使えるから」


「だけど、万年樹じゃないから、威力はかなり下がるんだよね……」



 そのとき、上の方で爆破音が聞こえた。


 キャー!


 観客は騒然となっている。下手に外に出るとマズイ。


 俺は、マイクを握り、観客に語りかけた。


「皆さん、慌てないでください。ここに居てください。バリアを張ります」


『魔防バリア!』

『物防バリア!』


 会場全体がふわりと、やわらかな光に包まれた。


 すると如月くんは、ニコッと笑って、俺からマイクを受け取った。


「リントさんのバリアは、破れませんよ。この場所は、どこよりも安全です」



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