141、某テレビ局 〜妖精の姿
学者っぽい一人の発言に、司会の人は慌てている。俺を怒らせるとマズイと考えているようだ。
なんだろう。俺が和リンゴを守護することを決めた後くらいから、何もしなくても、人の心の声が聞こえることが増えた気がする。
いや、無の怪人を転生させたためかな。彼らのオリジナルは俺の中に隠れている。こびと達のチカラなのかもしれないな。
(しかし、うーん、どうしよう)
俺は、妖狐カルデラの味方ではない。だけど、彼女の行動に一定の理解はできる。やり方は、狂っていると思うけど、それは無の怪人を失ったショックからだろう。
「図星で何も言えないのか。妖精も妖怪も、人間が繁栄していることが悔しいだけじゃないのか。知能の差だ」
科学者っぽい人が、意図のわからない暴言をはいた。そっか、不安なんだね。自分達の発明品である人工魔物のせいで、滅びに向かっていると俺が言ったから。
科学者達は、そうなるかもしれないと、危惧しているんだな。だから、こんなに激しく反論するんだ。無の怪人が見てきた未来へと、やはり向かっているのか。
「あ、あの、皆さん、落ち着きましょう。先程から、青空さんに対する暴言がひどくなっていますよ」
司会の人は、さらに慌てている。スーツの人達をなだめて回ってる……ちょっと気の毒になってきた。
チラッと、紅牙さんの様子を見ると、めちゃくちゃ不機嫌な顔をしていた。彼は、妖精と妖怪のハーフだもんね。
観客は、いろいろな人がいる。でも、半数くらいは俺の話に耳を傾けてくれていた。
いま、これは生放送されている。カメラの先の人にも理解してほしい。だけど、きっと、観客ほど注目してくれてないよね。
『妖怪はチカラのある者に従う。人間は王に従う』
ふと、そんな言葉がよみがえってきた。そうか、やはり、その線でいくしかないか。否定しても、どうせ疑心暗鬼となった人達には、どんな言葉も、いいわけにしか聞こえないよね。
俺は、ミカトとスイトの方を見た。目が合うと、二人は頷いてくれた。うん、大丈夫、俺は一人じゃない。
『スキル「精霊の使徒」を発動しますか?』
突然、スキルの声が聞こえた。
『えっ? なぜ、しゃべれるの? スキル。ここは、万年樹のダンジョンじゃないよ』
『はい、ここは、くらま千年樹のダンジョンの一部ですが、天然樹なのでスキル利用は可能です』
『えっ? ここってテレビ局だよ?』
『有事に備えて、千年樹の中に設置されているテレビ局です。ダンジョンの二階層にこのスタジオがあります』
『そう、なんだ。でも、なぜスキルを?』
『力を示すのではないのですか? それに、姿が人間ではなくなります』
『あっ、そっか、目立つから見てくれるね』
『はい』
『じゃ、スキル「精霊の使徒」を発動してください』
俺は、淡い光に包まれながら、ステージの少し前へと進んだ。一瞬、シーンと静かになった。
光が消えると、俺の見た目は妖精の顔に変わっていた。でも、やはり髪は銀髪なんだよね。黒い上下に、銀色のローブ。ステージ上だと、照明の光で、とても派手に見える。
カメラが、一気に俺に向いた。怖い顔をしちゃダメだね。俺は、やわらかく微笑んだ。
きゃー! っと、観客からは悲鳴のような声が聞こえてきた。あれ? 怖い? そちらに目を移して、俺は安心した。アイドルみたいに見えてるんだ。派手なローブだからね。
「あ、あの、青空さん……」
司会の人が、恐る恐る俺に近寄ってきた。
「はい、何でしょう?」
「その姿は……」
「偽りがない方がいいでしょう? 俺はこういう顔をしています。人間ではない、妖精ですから」
「き、貴重なお姿を届けることができて……これは、スクープですね!!」
なんだか、よくわからないけど、スタッフがバタバタしている。びっくりさせたかな。
後ろでは、科学者が俺にサーチの光を当てていた。失礼だよね、それ。でも、そのおかげか、彼らは俺に何も言わなくなった。
チラッと振り返ったら、彼らはギクッとしてる。ふぅん、やはり、人間の姿は子供だから舐めていたんだね。もしくは、俺の残念なステイタスを測って安心していたのか。
「先程からのご質問ですが、俺は、フェアリー・キングです。優秀な配下もいる。だから、その気になれば、人間の制圧なんて簡単にできる。いっそ、滅ぼすことも可能です」
チラッと、科学者達の方を見て、俺はそう言った。怖がらせすぎたのか、シーンとしてしまった。
「だけど、俺は、そんなことは望まない。人間と妖怪は共存してきたじゃないですか。目に見えないだろうけど、貴方達のまわりには、精霊もいます。そして妖精もいます。俺は、すべての命ある者が、互いに助け合い、楽しく暮らせる世界であってほしいと願っています」
みんな、少しホッとしたみたいだ。最初の脅しが効きすぎたのか、まだガチガチに怖がっている人もいるけど。
「もう、人体実験はやめてください。これ以上、新しい人工魔物を生み出すことは、滅びに繋がる。そして、見極めてください。人間と同じく、人工魔物には、良い魔物と悪い魔物がいる。どうしてもダンジョンボスが必要なら、敵対的な魔物を使うことです。人間と良好な関係を築きたい魔物を、むやみに殺そうとしないでください」
俺がそう言うと、観客の多くの視線がカゲロウに向いた。だが、奴は何も気づかず、ふわふわと浮かびながら、暇そうにあくびをしている。
その様子に、観客の空気感が和らいだように感じる。
「そ、そんなに力があるなら、妖怪達を追い払えばいいじゃないか。いま、日本は最大の危機に……」
「わかりました」
俺は、食い気味に学者の言葉をさえぎった。誰かが言い出すのを待っていたんだ。
俺はスーッと右手をあげた。片目のカゲロウがこっちを見た。そして、ハッとした顔をしている。こびと達が意思を伝えたんだろう。
片目のカゲロウは、その場でクルクルと回り始めた。この行動の意味はよくわからない。
「人間と妖怪の争いを止めるよ。用意はいい?」
「そうなのー」
俺は、サッと手を振り下ろした。
「せーのっ」
その次の瞬間、どよめきが起こった。各地を中継しているモニター画面が壁に張り付けてあったが、一斉に、青い雨のようなものが降り注いだんだ。
次々と、攻撃している者を捕獲している。あっ……バナトが捕獲されてる。クラスメイトも何人か、捕獲されたみたいだ。あーあ、怒るかなぁ?
「ケンカはやめるのーっ!」
片目のカゲロウの声が、モニターからも大音量で聞こえた。声を各地に飛ばしているのか。




