140、某テレビ局 〜特番に生出演
俺は、マイクを握り直し、観客の方を向いた。カメラが一斉にこちらに向いたのがわかった。緊張するけど、キチンとしなきゃ。
「皆さん、青空 林斗です。後ろに居るのは、クラスメイトと、同じ島でお世話になっている人です」
(きっと、三人の名前は出さない方がいいよね)
「そして、ふわふわ浮かんでいる青い人形のように見えるのは、人工魔物から派生した海ヘビです。種族名はカゲロウ。俺の木の精が、彼らに霊力を与えて改良した魔物です」
そう言うと、観客はどよめいた。明らかに怯えている。この魔物を使って、俺が地上を支配しようとしているのではないかと考える人もいるね。
(しゃべらせるか)
「観客の皆さんにご挨拶できる?」
そう言って、マイクを片目のカゲロウに向けた。
「できるのーっ」
「じゃあ、ペコリとできる? 難しいかな? 機材がいっぱいあるから壊したら失敗だよ」
「失敗しないのー」
そう言うと、カゲロウは、観客の上をふわふわと飛び回り、あちこちで、ペコリペコリとお辞儀をしている。
緊張していた観客からは、だんだん、かわいい〜という声が聞こえてきた。スーッと、俺のそばに戻ってきたときには、ニコニコしていた。
「できたのーっ」
「すごいね」
パチパチと拍手が起こった。カゲロウは何が起こったかわからず、首を傾げている。
「観客の皆さんも、すごいねって言ってる合図だよ」
俺がそう説明すると、片目のカゲロウは、ニッコニコの笑顔で照れている。
「そうなのー」
何がそうなのかはわからないが、デレデレしているから、まぁ、放っておこう。このまま、おとなしくしていてね。
観客の雰囲気は、少しやわらかくなった。でも、カゲロウを警戒している人も多いね。
「青空さん、続きをお願いします」
司会の人からそう促された。そっか、生放送中だもんね。
「はい。青い人形のような魔物は、ここにいる個体がリーダーです。他の個体は、話せません。彼らは、人間が作り出した人工魔物から進化した種族です」
みんなの雰囲気は、まちまちだけど、人間が作り出したと言うと、感情が動く人が多かった。誇らしいんだ……。
でも、俺が話すのは、人工魔物を生み出した人間への賛美ではない。
「いま、各地で妖怪が暴れています。それを率いているのは、妖狐と呼ばれる狐の妖怪ですね。彼女がなぜ、こんなことを始めたのか……それは、彼女がタイムトラベルができる妖怪だからです」
俺がそう言うと、観客だけじゃなく、ステージにいる人達もザワザワし始めた。それを制するように司会の人がマイクを握った。
「青空さん、タイムトラベルは、一部の千年樹のダンジョンで得られるスキルですよね? あの妖怪が持っているのですか」
「正確にいえば、人工魔物の研究失敗によって殺された者が怨霊化し、副作用的にタイムトラベル能力を得ました。その怨霊に連れられて、妖狐は、未来へもタイムトラベルができるようになったのです」
「無の怪人、ですか」
司会者の問いかけに、俺は頷いた。無の怪人の消滅をみんな知らないみたいだ。ザワザワしている。妖狐の近くに無の怪人がいると怯えているんだな。
「妖狐は、この2100年を分岐点だと言っていました。だから、彼女は、いま、妖怪をそそのかして、このような戦争を始めたようです」
「分岐点とは?」
「この先、近い将来にこの星は滅亡するそうです。人間が作り出した人工魔物が増え、さらに人間は新たな強い人工魔物を、ありえない犠牲のもとに作り出します。その結果、人間と人工魔物との間で戦乱が起こるそうです」
(犠牲者となった人の怨霊が人工魔物を操る話は、伏せておこう)
「人工魔物はすべて、科学者が遺伝子管理をしてますよ。完全に人間の管理下にあります」
ステージ上で、腕を組んでいた髭の男性が、そんなことを言った。科学者なのかな。特番で討論会をしていたのか、数人のスーツの人がいる。
「それでは、この青い人形のような魔物を、科学者が管理できていますか?」
すると、彼は何かの機械を操作している。
「識別コードがない魔物は……」
(コード管理をしているの?)
「識別コードは、何種類あるのですか? 俺の知る限り、いま、人工魔物の種族数は……えっと、350種を越えたようですが」
数字が頭に浮かんだ。こびと達のサポートだね。適当に数百というつもりだったんだけど。
「えっ? まさか……識別コードは112種類だ。そんな数は、にわかには信用できないが……」
だけど、目の前にいるカゲロウのデータもないらしい。俺が改良したからだと言いたそうな目をしている。
でも別の学者っぽい人が、やはり未確認の人工魔物が大量発生しているじゃないかと言っている。問題意識を持つ人もいるんだ。
「話を戻しましょう。青空さん、続きをお願いします」
司会の人が、スーツの人達の口論を中断させた。
「はい、いまお話したことが、妖狐が妖怪を率いて各地を襲撃している理由です。彼女は、人間をすべて滅ぼそうと考えています」
「なんだって? 妖怪は徹底的に排除すべきだ!」
学者っぽい人が声を荒げた。エゴの塊だね。自分さえよければいいわけ?
司会の人が、それを制している。大変だね、司会って。
「俺は、もちろん、人間を滅ぼそうとする彼女を許さない。ですが、彼女を排除しても、人間が変わらなければ、近い将来、滅びが待っているのですよ?」
俺がそう言うと、学者っぽい人達の何人かは、怒りに震えていた。ありえない、そう思っているんだね。
「娯楽のために人工樹のダンジョンを作る、これは俺も理解できます。でも、娯楽で殺すために人工魔物を生み出す……これは、理解できません。人工魔物は、殺されるために生まれるのです。食料用なら生きる糧になる。でも、娯楽で殺すために、命を生み出しているのですよ」
俺は静かに続けた。
「人工魔物の立場と自分を置き換えて考えてみてください。自我を持つ種族がすでに現れています。人工魔物達が、娯楽で殺される運命から、自らの命を守ろうとし始めるのは、自然なことではありませんか」
人々の反応はバラバラだね。人の話を聞く気のない人には、伝わらない。
「妖狐や、無の怪人は、未来を変えようとしたようです。ですが、何をやっても変わらなかった。人間の意識が変わらないからです。だから、最終手段に出たようです」
学者っぽい一人が、口を開いた。
「青空さん、貴方は、妖狐の味方なんですか。その青い魔物を各地に配置し、そのリーダーを連れてきたのは、私達、人間への脅迫ですか」




