14、万年樹の島 〜再び1階層のボス部屋、だが……
「え? もう、倒したのかな?」
感じの悪い冒険者が中に入って、まだそんなに時間は経っていないが、石の扉のロックが解除されたようだ。
「実力者だったから、俺達をあざ笑ってたんだね」
「二人とも、お人好しだな。たぶん全滅したんだぜ。クリアしたのなら、ドロップ品を得たり、出口を選択したりするだろう? こんな短時間じゃ無理だよ」
「そうかな?」
スイトはそんなことを言っているが、俺には強そうな冒険者に見えたけど。どっちにしても気を引き締めなきゃ。
俺達は、石の扉のボス部屋に入った。入るとすぐにガタンと扉が閉まり、ただの石壁のようになった。これ、やめてほしい。その音と逃げられないという緊張で動揺してしまう。
ケッケッケ!
「昨日と同じだね」
「リント、バリアよろしく」
「了解〜」
「えっ? リント、そんなことできるのか」
スイトは驚いた顔をしていた。俺は笑顔を返した。浮き島でもバリアは普通に使っていたんだけどな。あまり交流がなかったから知らないんだ。
そういえば、俺もスイトの能力は知らない。人間に変わったから、能力も制限されているかもしれないけど。
『物防バリア!』
俺は、自分を含めて3人にバリアを張った。
やはり、その直後にボスは硬い実を飛ばしてきた。
カン、カン、カン
バリアがボスの攻撃を弾いた。うん、ここまでは昨日と同じだ。
そして、ミカト、スイトが叩いた後に、火魔法を使おうとしたら、ボスはもうドロップ品を残して消えていた。
「えー、俺の出番がなーい」
「あはは、スイトは強いな。昨日は、俺が叩いたら倒れただけだったんだよ。そこにリントが火魔法を使って倒したんだ」
「びっくりしたな。ボスというよりザコじゃないか。でもリントのバリアがなかったら、俺、あの石みたいな攻撃をまともに食らってたよ」
「俺達、最強かも〜。イエイ!」
「イエイ!」
そう言って、ミカトは、スイトと俺にハイタッチをした。スイトも少し戸惑いながら、ハイタッチをしていた。
「なんだか、二人ってお気楽でいいな。あ、悪い意味じゃない。俺はずっと沈んでたからさ」
「スイト、俺もいつも憂鬱な感じだよ。でも、ミカトがそんな俺を引き上げてくれるんだよね」
「リントは、すぐに暗い顔するからね。そうそう、俺、人間の姿になって、変顔がパワーアップしたんだよ」
そう言って、ミカトはスイトに変顔を披露した。スイトは、一瞬、固まっていたが、ブハッと吹き出した。
「あはは、ミカトってムードメーカーの才能すごいな」
「うん、ミカトはすごいんだよ」
「ちょ、おだてて晩ごはんおごれ、ってのはナシだぜ?」
「あはは、そんなこと言わないよな、リント」
「いやいや、スイトくん、これは、ただ飯のチャンスかもしれない」
「プハッ、リントも負けてないな。あははっ」
スイトは楽しそうに笑った。いつも無口な彼がこんな風に笑うのは、初めて見たようた気がする。
「さぁさぁ、ドロップ品をいただいて、次に行こうぜ」
ミカトは、ニカッと笑って小さくガッツポーズをしている。ムードメーカーと言われるのが、嬉しいのかな。いや、たぶん、スイトが楽しそうに笑ったからだろうな。
ドロップ品は、昨日と同じだった。やはり人数分の盾と剣だな。だけど、違うことが一つ起こった。
【同じ装備を入手しました。合成しますか?】
(えっ? ちょっと待って)
「ミカト、合成しますか? って文字が出た!」
「俺、もう合成するを選んだよ」
見ると、ミカトの剣と盾は光っていた。じゃあ俺もそうしよう。合成する! 合成します! な、なんにも起こらない。もう遅いのかな。
【同じ設備を入手しました。合成しますか?】
「します! します! します!」
【合成を開始します】
「よかったぁ〜、もうできないのかと思った」
ドロップ品が手から消え、俺の剣や盾が光った。
「あはは、リントは心配性だな。ダンジョン内で同じ装備品を入手したら、手に持っていると、何度も合成するかって聞いてくるらしいよ。だから、売却目的で集めるなら、さっさと魔法袋などに入れてくださいって」
スイトが不思議そうな顔で解説してくれた。
「そうなの? 知らなかったよ」
「うん? リント、昨日、休憩所に説明が貼ってあったよ。見てたでしょ?」
「いや、俺は、エリアボスのことしか見てない、かも」
「その上に書いてたじゃん」
「見てなかった……」
「リントって、なんでもこなすイメージだったけど、少し印象が変わってきたな」
「えー、スイト、何〜? 俺、変人?」
「あはは、なんか、うまく言えないけど、親しみやすくなったかな。リンゴ王国はバナナ王国と首位争いで、いつもバチバチやってるから、リントも、抜け目ないタイプかと思ってた」
「リントの兄さんも、なんていうか、すごいデキル人だもんね。でもリントは真逆だよね、性格的に」
俺は、なんだか居心地が悪くなってきた。よし、話題を変えよう。
「そんなことより、次の階ってどこから行くんだろう」
「あー、あの転移魔法陣に入ったら、ダンジョンから出ちゃうね。うーむ?」
俺は、部屋の中をキョロキョロ見回したが、他に転移魔法陣はない。どこから2階層に行けばいいのだろう。ボスを倒さないと2階層には降りられないから、この部屋にあるはずだ。いったん外に出て2階層を選択するのかな?
「あのさー、二人とも何やってるんだ? 扉の奥じゃないのか」
「ん? 扉は、入り口でしょ?」
スイトは何を言ってるんだろう。
「あー! 確かに! あの扉だよ、リント」
「だから、扉は入り口でしょ?」
「入ってきたら、入り口の扉は消えて壁になったよね?」
「確かに。いや、ボスを倒したから入り口が現れたんじゃ?」
俺は頭が混乱していた。
「リント、あの扉は、入ってきたときからあったよ。入り口は、その壁だよ。この部屋、方向感覚がわからないけどさ」
「そ、そうなんだ」
「この部屋もトラップかもね。次の階層への道は閉ざされていて知恵が必要な階があるって、今朝エリアボス情報と一緒に聞いたけど」
「ミカト、まぁ、先入観を利用したトラップとも言えるかな。あの扉は、見た目が入り口と全く同じだからな。リントはまだ疑わしそうだな。まぁ、扉を開ければわかるだろう」
そう言うと、スイトは石の扉へと近づいていった。




