139、某テレビ局 〜みんな優秀すぎる
「あっ、リントさん!」
転移の光が消えると、額に赤い石をつけた中年男性が駆け寄ってきた。顔は覚えてないけど、俺の眷属だね。
突然現れた俺達に、その場にいた人達は騒然となってる。いや、違うか。転移魔法を使う人は珍しくない。騒がれているのは、片目のカゲロウが一緒だからだね。
室内だから、大きさが際立っている。
青い人形は、騒がれて照れているのか、ちょっとデレデレしている。変な奴だな。おとなしくしてるのは偉いけど。
ミカト、スイト、そして紅牙さんも、転移してきている。妖怪の里長に挨拶しないで来てしまったな。
「えっと、この青い不思議な子が、カゲロウですか?」
「うん、そうだよ。話は伝わってるんだね」
「はい、木の精から伝言と、提案がありましたので。ケンがスタジオでお待ちしています。カゲロウも見せる方がいいですね」
(ケン?)
「うーん、怖がられないかな?」
「大丈夫だと思います。すでに、あちこちの上空に青い何かが浮かんでいることは、ニュースになっていますから」
「そっか、じゃあ、一緒に行くよ」
「かしこまりました」
彼は、耳につけた通信器のようなもので、いろいろと指示を出している。眷属にテレビ局の人がいたのは、知らなかったな。
彼らに連れられて、俺達はスタジオへと向かった。途中、カゲロウが通れないような扉があったが、スーっとすり抜けていた。そういえば、木々もすり抜けていたよね。
カゲロウがすり抜けると、他のスタッフさんが驚きの声をあげていた。褒められたわけじゃないのに、青い人形は照れているらしい。変な奴だな。
通路ですれ違う人達の視線を集めているけど、怖がられてはいないみたいだ。見た目が大きな青い人形だからかな。
声をかけられるたびに、カゲロウは照れ笑いをしている。かわいいとか綺麗という、好意的な声が多くてよかった。おとなしくしてるし、わりと人懐っこいよね。
「生放送なので、少しここでお待ちください」
大きめな扉の前で立ち止まり、眷属からそう言われた。中の声が少し聞こえる。
透視魔法を使って扉の先を見てみると、大きなステージがある。そして、観客もいるみたいだ。楽器もあるし、歌番組っぽいけど、緊急特番になっているようだ。
アイドルの如月くんもいるね。そっか、如月くんはケンって呼ばれているんだっけ。
「テレビに生出演か? 緊張するやんけ」
「紅牙さん、リントは、ぼっち耐性がないので一緒にいてあげないと、暗くなるんで」
ミカトが変なことを言ってる。戸惑うだけで、暗くなるんじゃないよ。
「おまえらだけで行ってこいや。俺はここで見守っといたるし」
「紅牙さんがいる方がいいですよ。高校生だけでは信用しない大人達もいますからね」
スイトは、紅牙さんに冷たく言い放った。スイトも、ちょっと緊張しているみたいだ。
「皆さん、扉の内側へどうぞ。司会が呼んだらステージへ進んでください」
眷属の男性が、さらりと言うんだけど、俺だって緊張しているんだからね。
ただ、カゲロウがふわふわ飛んでいかないように気をつけているから、他の三人ほどは緊張していないかもしれないけど。
俺達は、扉の内側へと進んだ。カゲロウは、たくさんの照明の光に興味津々なようだ。
あれ? 片目なのに、潰れている方の目をこすっている。もしかすると潰れているように見えるけど、実は見えているのかもしれないね。
「この番組は、音楽番組の一部を特別番組に切り替えたものです。数時間前に、国会に妖狐が現れ、最後通告をしました。その後、各地で妖怪の攻撃が激化したため、どの局も急遽内容を変更しています」
ディレクターの名札を付けた人が、俺達に小声で説明をしてくれた。
俺が説明したいと考えると予測して、眷属達がこの番組への乱入ができるように、交渉してくれたんだね。先回りして情報を与えたのは、こびと達だっけ。ほんと、みんな優秀すぎる。
(あっ、如月くんが)
アイドルオーラ全開の彼が、マイクを持った。そして、こっちを見て微笑んだ。わっ、カメラがこちらに向いたじゃないか。
「ようやく、到着したようです。僕の命を救ってくれた恩人であり、僕を新しい道へと導いてくれた人です」
照明が当たった。観客がどよめいてる。きっと青い人形に驚いているんだね。
スタッフに促されて、俺達は如月くんの近くへと進んだ。
「おい、リント、もっと前に行けよ」
「えっ、でも……」
「彼らは、テレビは初めてだから緊張しているようですねー。リントさん、こちらへお願いします」
はぁ、うん、俺が話したいって言ったんだ。ビビってる場合じゃないよね。スゥハァと深呼吸して、俺は前に進んだ。照明の光が強いから、あまり観客の顔は見えない。
さらに近寄ると、スタッフさんにマイクを渡された。うん、ビビってると如月くんにも悪いよね。堂々としなきゃ。
「青空 林斗さんです。彼は、人間ではありません。浮き島の妖精です」
如月くんがそう説明すると、観客の空気感が少し張り詰めたのがわかった。浮き島の妖精って、やはり罪人がむちゃくちゃしているから、イメージ悪いんだね。
「彼は、普通の地上に降りた妖精ではありません。王族、いえ王様です。みんながよく食べるリンゴチップス、あの原料となる和リンゴを創造した妖精王なんですよ」
(リンゴチップス? ポテチみたいなもの?)
観客がどよめいた。キャーキャーという黄色い声まで聞こえる。和リンゴって、知られるようになったの?
「リントさん、リンゴチップスを知らないですか? 誰か持ってないかな?」
持ってるよー! の声と共に、ポーンとステージに投げ込まれた三角形の袋。それを如月くんが拾って、袋を開けて俺に差し出した。
「まずは、食べてみてください」
俺は頷き、一枚、口に入れてみた。へぇ、甘酸っぱいスナック菓子だ。ポテチのリンゴバージョンだね。
「ポテチみたいだね」
「はい、これが、今回のタイムパラドックスですよ。ポテチと人気を二分しています」
如月くんは、マイクを通さずに説明をしてくれた。和リンゴは滅びず、ちゃんと現代にまで残っていたんだ。あぁ、よかった。
「さて、本題に入りましょう。後ろにふわふわと浮かんでいるお嬢さんの紹介も含めて、リントさん、ご説明をお願いします。あの妖狐が何者なのか、そして妖怪達は何をしようとしているのか」
「わかりました。俺の知る限りのことについて、お話します。説明不足の部分があれば……」
「大丈夫です、僕がフォローします」
如月くんは、やわらかく微笑んだ。




