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135、樹海 〜妖狐カルデラ

 突然、転移してきたカルデラは、鬼の形相だ。ほんと、転移能力がすごい。本人が平安時代で自慢していただけのことはある。


 俺だけじゃなく、紅牙さんでさえ察知できなかったみたいだ。ミカトやスイトも、ギョッとしていた。


 そして、安倍晴明も現れた。同時に転移したんじゃないのかな。カルデラの方が数分到着が早い。



「姫様、別に遊んでいたわけでは……」


 天狗は、引きつった顔で弁解している。でも、笑った瞬間にカルデラが来たもんね。タイミング悪いよな。


「役に立たない者は、嫌いだわ」


 カルデラが腕を動かした瞬間、地面から何かがでてきて天狗を包んだ。あれ? この感じって、木の根? 平安時代で俺が助けられたときに似ている。


 カルデラは、チッと舌打ちをして、俺の方を向いた。


「こうやって、あのとき逃れたのね。妖精の力を甘く見過ぎていたようだわ」


(なんか勘違いしているよ)


 これは、俺がやったんじゃない。こびと達……無の怪人の術だ。俺の中に隠れているオリジナルがやったんだろうな。


 だけど、全く話さないね。他の分身を操ることで手一杯なのかもしれないけど、話すとカルデラに気づかれるのかな。


 ガガガッ


 カルデラが何かをひっかくような動作をすると、木の根は避けた。その中には、完全に怯えた表情の天狗がいる。力関係は、圧倒的にカルデラの方が上のようだ。




「カルデラ、安倍晴明様、もう平安時代へ戻っていただけませんか」


「リントさん、何を甘いことを言っているの? 貴方、自分の状況が理解できていないのかしら」


 安倍晴明は、何か言いたげだけど、カルデラに睨まれて、開きかけた口を閉じた。


 カルデラは、チラッと里の妖怪が転がされている様子を見た。里の妖怪達は、ただただ怯えているようにみえる。


 だが、彼女は、妖怪達よりも、数では圧倒的に海ヘビの魔物カゲロウ達が多いことに気付いているはずだ。


「状況は、貴女に不利でしょう。ここは、俺の時代です。魔法を発動するためのエネルギーのマナもある。それに、俺にはたくさんの味方がいる」


「ふふふっ、青い魔物のことを言っているようね。可愛らしい魔物ねー。私のペットにぴったりだわ」


(えっ? まさか、カゲロウ達を操ってる?)


 自信ありげな彼女の表情に、俺は少し動揺させられた。


 それに、嫌な妖気が漂っている。彼女がこの付近一帯に術をかけたのかもしれない。紅牙さんが何かの魔道具をミカトとスイトに渡した。やはり、この妖気で操るのか。俺も少し、気分が良くない。


(話題を変えよう)



「国会に行って何をしていたんですか」


「あら、覗いていたのかしら。ふふ、明け渡しの最後通告よ。あちこちに、人間がかたまっているでしょう? 妖怪達を使えば、簡単に滅ぼせるわね。バカだわ、人間って」


「散り散りになるより、集まっている方が連携ができる。だから、当然、戦闘力は高くなりますよ」


「カスはいくら集まってもカスよ。明日には、人間はすべて消えることになるわ」


「降伏させようとしているんじゃないのですか? だから、国会に行っていたのでしょう?」


「まさか。返事はどちらでもいいのよ。結果は同じよ」


 カルデラは、ヒヒッといやらしい笑みを浮かべている。困らせて怖がらせて楽しんでいるんだ。人間が降伏しても、すべて殺す気だ。


 やはり、彼女は狂っている。平安時代で俺を殺そうとするまでは、気品高い高貴な公家の姫様っぽさがあった。だが、今の彼女は、皆が妖狐というように、単なる妖怪にしか見えない。



 上を見上げると、片目の個体は、他のカゲロウ達の中に紛れ込んでいてどこにいるかわからなかった。


 カゲロウ達は、相変わらず、カラスを撃ち落とすゲームに夢中になっているように見える。片目の個体も、一緒に遊びたくなったのかな。



「リントさん、青い魔物達は、貴方を助ける気はなさそうね。上を見上げて何を命じても動く気配はないわね」


 カルデラは意地悪な笑みを浮かべている。いや、別に何も命じていないんだけど。俺が上を見上げたから、そう感じたのか。


「貴女は、何のためにこの時代にいるんですか。未来をどう変えても、貴女の時代は変わらない」


「だからよ。私はこの時代に生きることにしたの」


「平安時代では、どこかの公家の姫様なんでしょう? 貴女の父親、翁狐はどうするんですか」


「別にどうもしないわよ。あの時代が恋しくなれば、一時的に戻るわ。私は自由にタイムトラベルができるのよ」


 そのとき、ジッと黙っていた安倍晴明が口を開いた。


「山の神が消滅したのに、ずっと行き来できるわけないだろう。いずれ、あの不思議な模様の陣も、消えるだろう」


「だから、私はこの時代を選ぶしかないのよ」


 カルデラは一瞬悲しそうな顔をしたように見えた。でも、あちこちの時代を行き来していたのか、彼女にとって、無の怪人が消滅したことは、既に過去のこととして整理がついているように感じた。


 確か、カルデラは、平安時代末期に死ぬんだっけ。そして、千年後に復活できていないことをタイムトラベルで知ったから、自分の時代に戻りたくないんだ。


 タイムトラベルをしていれば、元の自分の時代での時間の流れは非常に遅い。転移魔法陣を使っているから、もしかすると全く時間が流れないのかもしれない。


(これが、彼女が選んだ生き方なんだ)


 無の怪人……こびと達は、人間の作り出す人工魔物で、近い未来に消滅すると言っていた。カルデラはそのことを知っている。だから、人間を滅ぼし、この時代に居座ることにしたのだ。


 千年後に復活するはずの妖怪が復活しない理由……おそらく、時の流れを害しているからだ。


 未来は常に変わる。


 カルデラが知る未来は、俺が別のタイムパラドックスを起こしたことで変わるかもしれない。


 なぜかわからないが、そう確信できた。こびと達が俺に、そう教えているのかもしれない。



「カルデラ、貴女が知る未来は、おそらく変わったよ」


「ええ、私が人間を滅ぼしてあげるんだから、変わるに決まっているわ」


「違うよ、俺が変えたんだ。平安時代に行って、戻ってきたことでタイムパラドックスを起こしたはずだ。貴女は、平安時代末期に死ぬのに、千年後に復活できない。それは、貴女が時の流れを害しているからだよ。千年後ではなく、もっと先になるんじゃないか」


「なぜそんな……」


 あれ? 安倍晴明が、何か、ハッとした顔をしている。


(何に驚いてるんだ?)


 彼の視線の先には……安倍晴明が立っていた。



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