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134、樹海 〜カゲロウ達の遊び

 バサッ!


 上空に飛び上がった天狗のような男は、扇のようなものを振った。すると、上空を埋め尽くすほどに大量の、大きなカラス達が現れた。


 天狗のような男がバサバサッと羽ばたくと、強い風が巻き起こった。そして、その風の勢いを利用するかのように、大きなカラス達が俺達を目がけて、急降下してきた。


「たくさんいるのー」


 すると、カゲロウ達は、何かを飛ばし始めた。片目の個体は指揮をしているのかな。俺達の近くで、満面の笑みを浮かべて、ふわふわと漂っている。


(指鉄砲?)


 射撃をするかのように、指から何かを飛ばしている。でも、全然当たっていないようだ。天狗みたいな男が起こした風が邪魔しているのか。


「羽なのーっ!」


 羽を狙えと言っているのかな? 近づいてきたからか、当たり始めた。カラスに当たると、その羽は消し飛んでいる。


(俺達を守る気はなさそうだね)


 カゲロウ達は、射撃に夢中のようだ。みんな、表情はよくわからないけど、片目の個体は相変わらず楽しそうにしている。カラスと遊んでいる感覚なのだろうな。



 だけど、上空だけではない。たぶんカラスは、おとりだ。周りを取り囲む気配が急速に近づいてきている。


 すると、射撃をしていたカゲロウ達とは別のグループが、俺達のすぐ近くにワープしてきた。


「食べていいのー?」


 片目の個体が、俺に許可を求めている。


「ダメだよ。まわりにいるのは、この先の里の妖怪でしょ」


「ぶー、なのー」


「違った?」


「違わないのー」


(ぶーは、ハズレじゃなくて、ブーイング?)


 殺すなと言っても、聞かない雰囲気だな。片目の個体は、頬をぷっくりと膨らませている。拗ねているのかな。


 天狗のような男が言っていた言葉は、もしかしたら本質をついているのかもしれない。完全に幼児のような反応だな。


 俺の考えを、おそらくこびと達から聞かされてるんだね。ますます膨れっ面だな。


(それなら……)



「ねぇキミ達、まわりにいる妖怪を、全部生け捕りにできる? あー、難しいかな?」


 俺がそう言うと、片目の個体は、興味を持ったみたいだ。


「ゲームなのー?」


「難しいゲームだね。生け捕りより殺す方が簡単だもんね」


「そうなのー」


「じゃあ、やっぱり無理かな? 俺ならできるけど」


「できるのー」


「殺したら失敗だよ?」


「失敗しないのー」


 そう言うと、片目の個体はふわふわと上下し始めた。交信でもしているのだろうか。



「おい、リント、何をさせる気や?」


 紅牙さんは、険しい顔をしている。きっと、妖怪達のことを心配しているんだ。あの里の妖怪達の大半は、カルデラに操られているようだからね。


 周りに近寄ってきた妖怪達は、操られている人達だと思う。そんなに強い人はいない。


 確か、紅牙さんは、操られている里の住人を人質に取られているようなものだと言ってたっけ。強い人達は、きっと自由に動けないんだ。カルデラなら、逆らうと彼らを殺すとか言いそうだからな。


「カラスは、おとりです。里の妖怪達がまわりにいます」


「そんなんわかってる。で、何をさせる気や」


「カゲロウ達には、ゲームだと説明しました。取り囲む妖怪達を捕まえるゲームです」


 俺がそう言うと、紅牙さんは不快そうな顔をした。何がゲームだって思ってるよね。


「捕まえるんか? 皆殺しちゃうやろな?」


「殺すと失敗だと説明してあります。片目のリーダーは、失敗しないと言っていました」


「それならええけど、ゲームって」


「片目のカゲロウは、反抗期の幼児のような感じなんです。だから、きっと命じても、こちらの思うようには動いてくれないと思います」


 紅牙さんは、頭をポリポリとかいている。ちょっと困らせているよね。


「ようわからんから、任すわ。俺らは見学に来ただけやしな」


 俺は頷いた。ミカトやスイトも少し離れた場所で頷いている。なんだか見守られているみたいだな。




 サ〜ッと、砂状の何かが振りまかれた。まわりの妖怪達が仕掛けてきたみたいだ。視界に入るギリギリの場所にいる。


「いっくよ〜っ! せーのっ」


 なぜか片目の個体が、掛け声をかけている。念話で打ち合わせしていたじゃないか。


(あー、アピールかな)


 こっちを見て、ニッコニコだ。やはり、片目の個体は、俺の近くから離れない。片目だから戦えないのかとも思ったけど、もしかしたら俺達を守っているのかもしれないな。



 ブワッと、すごい風圧のようなものを感じた。


 天狗のような男が降りてきたかと思ったら、違った。奴は、上空で、カゲロウ達の標的にされている。


 奴の方が大きな術を使っていて、有利な立場いるように見えるけど、表情は逆だ。カゲロウ達は、無表情だが楽しんでいる。一方、奴は必死だ。


(ということは、今の風圧は?)


「できたのー!」


「えっ?」


 俺達の前に、妖怪達が転がってきた。放り投げてるのか。目を回している人もいる。扱いが雑すぎる。


「失敗しないのー」


 妖怪達は、大きな青い人形に囲まれて、訳がわからないみたいだ。だよね、俺も何が起こったか、見てなかった。


「もうできたの?」


「そうなのー」


「すごいね」


 俺がそう言うと、片目の個体は、ふわふわと上空へ飛んでいった。なぜそうなる? 突然の意味不明な行動に、俺は理解が追いつかない。


(あー、アレも妖怪だね)


 片目のカゲロウは、どこからか長い紐のようなものを出して、一瞬で、天狗のような男を拘束した。


 上空だから、遠視魔法を使わないと見えないけど、紐ではなくて、たぶんカゲロウの身体の一部だね。カゲロウが海ヘビだと納得できた。ヘビが巻きついているような感じだ。


 暴れていた天狗のような男は、ピクンと跳ねると、おとなしくなった。いや、あれは、毒を使ったのか。ピクピクしているじゃないか。



 ズバーン!


(上空から……投やがった)


 俺のすぐそばの草むらに、天狗のような男が放り投げられた。奴は瀕死の状態で、ピクピクしている。


 片目の個体は、上空をふわふわしていて降りてこない。ほんと、自由気ままだな。


「大丈夫か?」


「う、がか……」


(かなりヤバそうだね)


『キュア!』


 俺は、ゆるい回復魔法をかけた。


「ゲハッ、クッ、なんだ、何がしたい……」


「ちょっと、ヤバそうだったからだよ。平安時代に戻れなくなると困るでしょ? 鞍馬には天狗が出ると聞いたけど」


「アハハハハ、いかにも。おま……」


 突然、天狗のような男、じゃなくて天狗の表情が、引きつった。


 俺も、悪寒がした。


 振り返ると、そこには想像したとおりの奴がいた。



「随分と、楽しそうね」



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