130、樹海 〜カゲロウが向かった先には
どこに向かっているのかわからないけど、カゲロウ達がふわふわと飛んで、俺達を先導している。
不思議な魔物だな。体長は3メートル以上ありそうだ。大きな人形みたいに見える。青い髪に青い目。透明感のある青いローブをまとっている。
遠くから見ると綺麗だと思う。でも、このサイズには、びっくりするよね。
海ヘビの魔物なはずだけど、ウロコのようなものはない。つるんとした陶器のような顔をしている。もともとは肌色のヘビだったんだよね。あれは気持ち悪かった。
(しかし、これ、何体いるんだよ?)
尋ねたくても、こびと達は俺の中に入って隠れてしまった。おそらく、俺達の存在が、カルデラか、カルデラが支配する妖怪に知られたんだ。だから、こびと達は隠れたのだと思う。
「リント、この人形みたいな子、何人いるの?」
「ん? ミカト、数えてみてよ。俺には、わからない」
すると、片目の個体が、俺達の前に移動してきた。リーダーに指名したことになった個体だ。
「いま歩いてるのはねー、三千体くらいなのー」
「全部で何体いるの?」
「んとねー、六万体くらいなのー」
「そんなに? 海にいるの?」
「さっきの池で人化できるから、順番待ちなのー」
(人化? サイズが……)
「もしかして、どんどん青い髪の人形の姿に変わってるの?」
「そうなのー、人化してるのー」
「人間は、体長はキミ達の半分くらいしかないよ?」
俺がそう言うと片目の個体は、空中でふわりと一回転した。サイズを小さく変えるのかと思ったら、逆だった。さらに少し大きくなったような気がする。
「体積は、あまり変えられないのー」
なんだか残念そうな顔をしている。人間のサイズになる気はなさそうだ。人間より上位種のつもりらしい。
「大きくなりたいの?」
「そうなのー。でも、人間の倍くらいにしかなれないのー」
彼か彼女かはわからないけど、カゲロウは、大きく見せることで、強さを表しているのかもしれない。
(強いのかな?)
こびと達は、カゲロウを使えば、妖怪を制圧できるかのようなことを言ってたけど?
見た目は、大きな人形だし、戦闘能力はわからない。人工魔物が進化したから、ある程度は強いはずだけど。
あっ、カゲロウの毒を使えばって言っていたっけ。毒を使わなかったら、戦えないのかな。
「リント、目的地は、支配されてる妖怪の里やな?」
紅牙さんが、少し警戒しながら、小声でささやいた。なぜ、小声なんだろう?
「俺、わかってないんですよね」
「は? なんやて?」
思わず叫んで、紅牙さんは、ハッと口をつぐんだ。
(あっ、何か来る)
何かが近づいてくる気配がした。でも、すぐにその気配は消えた。あれ? 気のせいだったのかな?
ザワザワと、木々がざわめいている。
(何? えっ? 人面樹?)
樹海の中を、どこかに向かって歩いているんだけど、急に、周りの木々の幹に、顔が浮かび上がった。
だけど、木の枝が伸びてきても、俺達には当たらない。
(わっ!? 何?)
鋭い槍のようなものがどこからか飛んできて、木の枝を叩き斬った。槍みたいなものは、木の枝を叩き斬ると、地面には落ちず、スッと戻っていく。
「カゲロウか……確か、はがねの皮膚を持っとったはずやけど、爪か?」
「槍みたいに見えましたけど」
「リント、人形の爪が伸びるのを見たよ。伸びたら、槍みたいになるんだ」
ミカトが、手をバタバタさせて実演してくれるんだけど、よくわからない。
「リント、コイツら、制御できているのか? もし、敵対したら、俺達、人工魔物に囲まれているんだぜ?」
スイトは、不安そうな顔をしている。スイトも、カゲロウが爪を伸ばすところを見たみたいだ。
「うん、木の精が、制御できたと言ってたから大丈夫だよ。俺、爪が伸びるとこ、見てないんだよね」
「巨体なのに、移動が速いんだ。木々をすり抜けることもできるみたいだぜ。でも、この人面樹って、もしかして……」
「樹海って、普通の木々が生えているはずなのに、おかしいよね」
「あぁ、そうだな」
スイトも俺と同じことを考えているみたいだ。ミカトと紅牙さんも気づいたようだ。
でも、口には出さない。精霊の名を出すと、きっと襲われる。いや、もう襲われているんだけど。
さらに、俺達は進んで行った。
この先には、妖怪の里があることは間違いないみたいだ。でも、カゲロウは、あの池からまっすぐ妖怪の里に向かったわけではない。途中で、大きく進路を変えたんだ。
こびと達は、俺の中から出てこない。でも、あちこちに分身の気配がする。分身を使って、カゲロウに指示を与えているんだ。
(目的地は、腐木の精霊のすみかだね)
腐木の臭いがしてきた。
『なんだ? おまえ達、この神聖な場所に立ち入る許可を誰に……うん? 見たことのある人間が二人いるな』
カゲロウ達が、立ち止まった。攻撃を受けて、数体が吹き飛ばされたんだ。
(二人? 俺も居たんだけど)
ミカトとスイトの前に、老人が姿を現した。
「爺ちゃん、その二人をいじめちゃだめなのー」
片目の個体が、ミカトとスイトをかばうようにして、二人の前に移動した。
「なんだ? 魔物か?」
「爺ちゃん、腐った臭いがして、くさいのー」
「奇妙な魔物だな。言葉を話すまでに進化したとは」
「爺ちゃん、安倍晴明様の骸を返して、なのー」
「なるほど、あの陰陽師の術式か。あの女狐がおまえには渡すなと言っていたのだがな。女狐の目を盗んで、妙な魔物を寄越したか」
(えっ? カルデラとつるんでる?)
「爺ちゃん、安倍晴明様の骸、返してもらうのー」
(なっ?)
片目の個体がそう言った瞬間、目の前が水の中になった? 青い海の中に入ったかのような感覚だ。
腐木の精霊も慌てている。
でも、水の中に見えるけど、息はできる。これは幻影なのかな?
「爺ちゃん、ありがとう、なのー」
「おまえ! まさか」
腐木の精霊は、腰にさげていた袋を開けた。すると、その中から、スーッと頭蓋骨が外に出てきた。そして、水の中に消えていった。
「あっ! 謀ったな!」
カゲロウは、腐木の精霊を騙して、袋を開けさせたんだ。なんてズル賢い……。こびと達の指示だよね、きっと。
「爺ちゃん、ばいばい、なのー」
リーダーの個体がそう言った瞬間、俺達はワープしていた。腐木の精霊の気配がする方を見ると、そこは、数メートルの水の壁に覆われていた。
「あれは……」
「爺ちゃんは、水が好きみたいだから、すみか全部、水いっぱいにしてあげたのー」
「腐木の精霊は、水は苦手なはずやで……」
「邪魔なのー」
(コイツら、やばいんじゃ)




