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129、樹海 〜カゲロウの姿

「わぁ〜、何? すっごい幻想的じゃん!」


 ミカトが歓声をあげた。俺も驚いてるけど、ミカトほどじゃないかな。なんだか、頭の中に、完成予想図のようなものが浮かんでいるから、景色を見ていられない。ちょっと、これは……。


 池はさらに、青い輝きを増していった。


 もう少し時間がかかるみたいだ。木の精は、この付近に結界のようなものを張り始めた。認識阻害の結界らしい。カルデラや、カルデラの支配下にある妖怪に見つからないようにするためだそうだ。



 そういえば、こびと達は、精霊たまゆらのダンジョンを、俺と初めて遭遇した場所って言ってたけど、俺、無の怪人と会ってないよね?


 あのとき、石室には、カルデラを含む何種類かの魔物しかいなかった。無の怪人に初めて会ったのは、万年樹の島で、顔のない姿だったはず。



「リント様、私は、タイムトラベル時は、姫様と常に一緒にいました」


「えっ? そうなの?」


 リーダー格のこびとがコクリと頷いた。


「なんや? リント、何の話や?」


「紅牙さん、さっきの話が少し疑問だったんです。木の精は、俺と初めて遭遇したのが、精霊たまゆらのダンジョンだと言ったけど、あの場所ではカルデラしか会ってないから」


「だから、無の怪人なんや」


「ん? どういうことですか?」


「死んどるから、大人しくしとると、サーチにも何にも引っかからへん。何も無いんや」


(何も無いから、無の怪人?)


「へぇ、知らなかったです」


「でも、木の精に転生したから、もう隠れられへんで」


 紅牙さんは、やはり、彼らを信用していない感じだね。まぁ、そう簡単に信用を得られるわけないか。


「私達は、姫様のサーチからも逃れることができますよ」


 リーダー格のこびとは、ふふんと生意気な顔をしている。あーあ、もう、知らないからね。



(そろそろ、かな)


 そう思った瞬間、始まった。池から、ぶわっと水が空に吹き上がるかのように、目に映るものはすべて、水しぶきに覆われた。


「わっ! リント、びしょ濡れになったんだけど」


「俺も……」


「あはは、ミカトとスイトは、池を覗いてたからだよ。乾かすね」


 俺は、あたたかい風魔法を二人に放った。ドライ効果があるはずだ。


 その隙を狙ったかのように、完成予想図に一気に近づいた。うわぁ、やっぱり、ちょっとなー。


「ぎゃっ、ちょ、何これ?」


 ミカトは、嫌いだよね。こういうのって。


「リント、俺でもキモイねんけど」


「あはは、ですよねー。もうすぐ完成ですね」


 海ヘビの魔物だと言っていたけど、なぜ、肌色なんだろう? 広い池一面に、肌色の大蛇がうねうねしている。ひしめき合うどころじゃないね。俺も、気持ち悪い。



「リント様、お願いします」


「ん? 何をすればいいの?」


「カゲロウに、姿を与えてください」


 ちょっと全然わからないんだけど。姿を与える? カゲロウってそもそも何なんだよ? そういう虫もいるよね。


 そう考えていると、頭の中に何かが流れ込んできた。カゲロウ達の意識なのかな?


 カゲロウとは、春の穏やかな日射しを受けて、地面からゆらゆらと立ち上る陽炎のように、ゆらめきの存在?


(よくわからない……)


 そして、いま、俺に何かを求めているみたいだ。こびとは、姿を与えろというけど、意味がわからない。


 でも、海ヘビなら、つるんとした雰囲気かな? 青く輝いた池のような幻想的な美しさがあると素敵かもしれない。


(いやいや、何を考えてるんだ?)


 そんな空想じゃなくて、俺が何か、姿を与えられる魔法か術があったっけ? 精霊ルーフィン様なら、姿を与える魔法を使えるのになぁ。俺は……うーん。



「リント様、承知いたしました」


「えっ? ちょ、何?」


 こびと達の一人が、承知してしまったらしいんだけど、何? ちょっと待って。


 だが、肌色の不気味な海ヘビは、輝き始めた。こびと達が、すんごい霊力を注いでいる。


「リント、何を創り出す気だ?」


「スイト、俺にもよくわからないんだよね」


「姿を与える術なんて、精霊しか使えないんじゃないの?」


「ミカト、うん、俺もそう思うんだけど」


 でも、肌色のうねうねが変形していくのがわかった。


「リント、変な召喚魔法ちゃうやろな? 過去に死んだ怨霊なんか使うと厄介なことになるで」


「えーっと、紅牙さん、それは大丈夫かと、たぶん」


「でも、この力は、魔力でも妖力でもない。怨霊が使う霊力ちゃうんか?」


「木の精も、霊力を使いますが……」




 そして、光がおさまった。


 人工魔物が進化して生まれた、海ヘビの魔物カゲロウは、つるんとした人形のような姿へと変わった。


 青い髪、青い目の少女のようにも見える。ただ……。


「めちゃくちゃデカッ」


「リント様、カゲロウの中から、リーダーとなる個体を選んでください」


「ん? そんなこと言われても、みんな同じに見えるんだけど。あっ、この子、片目だ」


「かしこまりました」


(えっ? 何?)


 片目がうまく作られていない個体が、光った。ちょっと、別に選んだわけじゃなくて、リーダーが片目なくていいの?



『選んでくれてありがとう、なの〜』


「えーっと、あの、今の、キミの声?」


『はーい、なの〜』


 ミカトやスイトには聞こえてないみたいだ。こびと達は、ニヤニヤしてる。紅牙さんは、魔道具を取り出した。


「おまえ、リーダーならこれやるわ。念話じゃなくて、話せるようになるで」


 すると、疑いもせず、片目のカゲロウは、その魔道具を受け取った。そして、装着しないで……丸呑みしたんだけど。


 紅牙さんも、ポカンとしてる。だよね、海ヘビの悪い癖が出たんじゃないのかな。


 だけど、しばらくすると、発声練習を始めた。


「魔道具を吸収しよった」


「あはっ、話せるようになったの〜」


「なんや? そのしゃべりは」


「人形みたいにかわいいから、いいんじゃない?」


 ミカトはそう言うけど、サイズが人形じゃないんだよね。普通の人間の倍はある。


「リント様、リーダーの個体は、人間並みの知能があります。そして、他のカゲロウへの絶対命令が可能です」


「絶対命令?」


「はい、姫様の術にはかかりません。準備は整いました。いざ、参りましょう」


 こびと達は、どこへ行くべきかわかっているみたいだ。俺は、全くわからないんだけど。


「わかった、行こう」


 そう言うと、カゲロウ達がふわっと浮かんだ。ちょっ、樹海の木々より上に頭が出てるよ。でも、木々にぶつからない。すり抜けることができるみたいだ。


「上空から見たら、目立ちそうだね」


「リント様、それが良いのです」


 こびと達は、ニヤッと笑って、俺の中にスッと入った。



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