127、万年樹の島 〜頼りない主君ですが
「リント、大丈夫なのか? もともとはリンゴの妖精だったといっても、無の怪人は、人間を滅ぼそうとしているんじゃないのか」
スイトは、険しい顔をしている。
「それにも理由があるんだ」
「どんな理由?」
「この2100年が分岐点になってて、この先の未来では滅亡に向かうみたいなんだ。そもそも娯楽で殺すための魔物を人工的に作ったのが間違いなんだ」
「人間が滅亡?」
「この世界すべてだよ。無の怪人は、未来を変えようと頑張ったみたいだけど、彼らにはタイムパラドックスを起こせないんだ。怨霊だからだと思う。何をしても、何も変えられないって。だから、人間を滅ぼすしかないと考えたらしいんだ」
「事実なのか?」
「わからないよ。俺達は過去にしかタイムトラベルできないし。無の怪人のタイムトラベルは未来も行けるんだ。人体実験の副作用らしいよ」
「そっか……」
「うん、だから、スイト、ミカト、ごめん。俺の木の精が、二人を誘導したんだ」
スイトは難しい顔をしている。ミカトは、苦笑いだけど、あの顔はやはりちょっと怒ってるかな。
「リントが指示したのか。フェアリー・キング……新種のフルーツの王になったから」
「えっ……指示というか……。スイト、ごめん、そう思われても仕方ない」
やはり、俺、二人を利用したと思われたよね……。そんなつもりはないのに、でも、二人を傷つけた、よね。どうしよう。もう、俺……。
そのとき、目の前に、こびと達が現れた。
「リント様、人工魔物の制御が完了しました。申し訳ありません。奴らは数が増えすぎて、しかも多様化していたので、イルカ系と海ヘビ系しか、制御できませんでした」
「そっか、うん、ありがとう。二種類だけでも人間を襲わなくなったら助かるよ」
「いえ二種類ではありません。種族数は五種類です。最大数のカゲロウの制御はできました」
「カゲロウ?」
「はい、水陸両方で生きられるように進化した海ヘビです。これを使えば、妖怪を止められるかと」
「ん? 人間との戦争?」
「はい。カゲロウの毒を使えば、両者の動きを止められます」
「ダメだよ。普通の人間だと死んでしまうじゃないか」
思わず声が大きくなってしまった。こびと達は、驚いたのか、気の弱い個体はオロオロしている。リーダー格の個体は、平然としているんだけど。
(あっ、ミカトとスイトの視線が……)
二人は、こびと達を見ていた。スイトが首をひねってる。11体もいるからかな?
「リント、まさか操られてないよな?」
ミカトが心配そうな顔をしてる。
「リントは、管理できてないんじゃないか?」
スイトの指摘は鋭いよね。
「まだ、木の精が生まれてから、あまり時間が経ってないんだ。彼らの能力さえ、把握できてない。でも、俺は彼らを信用してるんだ。俺の考えを理解して動いてくれている」
「リント、なんだか木の精の方が偉いみたいじゃん、あはは」
「ミカト、そうかもね。俺よりも、ずっと長く生きていた先輩だし。だけど万年樹の精霊が、彼らに新たな主君に従うようにと言っていたみたいなんだ。彼らの転生も、なんだか、スキルが促したというか……」
「なるほど……もしかしたら、リントが万年樹の精霊の使徒に選ばれたのも、これが目的だったのかもしれないな」
「ん?」
「無の怪人の、オモリ役だよ」
スイトが変なことを言ってる。でも、紅牙さんも似たような変なことを言ってたよね。
スイトは、こびと達の方を向いた。
「木の精、リントの命令には従うのか?」
「スイカの妖精、当たり前のことを尋ねるなよ」
(わっ、なんだか、強気……)
リーダー格の個体とは別の個体が話してる。彼らに役割分担があるのかな?
「へぇ、その声、あのときの偉そうな軍神だな」
「私はオリジナルだ。タイムトラベルをしているのは分身だから、正確に言えば、声をかけたのは私ではない」
「そのウザイ感じが、そっくりなのだがな」
「分身だからな」
木の精は、妖精より身分が低い種族なのに、コイツ、上から目線だよ。
俺がそう考えると、伝わったのか、その個体は気まずそうな顔をした。わかってるならいいけど。
「おまえら、何、ケンカしとんねん」
「別にケンカじゃないですよ。確認しただけです。紅牙さん、なんだか、ここの様子が変わりましたね。揺れなくなった」
「スイト、さっきな、リントの木の精が、万年樹の底に溜まってた不純物を取り除いたんや。万年樹の力が復活した。もう、外から魔物に入り込まれることはないはずや」
「そうなんですか。きのこさんが頭を抱えていた件ですよね」
「あぁ、もうここは安全や」
紅牙さんは、何か迷っているように感じた。もしかしたら、妖怪の里を、何とかしてほしいんじゃないかな。
さっき、こびと達は、二種類の人工魔物を制御したと言っていた。そのひとつのカゲロウという海ヘビは、陸地に上がれるって言っていたよね。
(こびと達に尋ねてみようか)
「ねぇ、キミ達、人間も妖怪も殺さずに戦争を止めるには、どうすればいいかな?」
すると、数体が、パッと表情を輝かせた。
「リント様、確認します。少しお待ちください」
そう言うと、こびと達は、ピカピカと光り始めた。今までにないほど、激しく点滅している個体もいる。
ミカトとスイトは、俺の顔を見た。なんだか二人とも笑ってるんだけど。
(頼りないって思われてる?)
「リントらしいな」
「ん? 何? ミカト」
「眷属も友達扱いだけど、木の精まで友達扱いしてるとは、驚きだ」
「スイトくん、頼りない主君ですが何か?」
「あはは、いや。なるほどな、そんな調子だから、プライドの高い彼らの主君が務まるのかもしれない。俺には無理だ」
(うーん?)
スイトに褒められたわけではないみたいだけど、まぁ、さっきまでの険しい表情は消えてるから、よかった。
「リント様、確認が完了しました」
「誰も殺さないで戦争を止める方法が見つかった?」
「はい、ただ、誰もというわけにはいかないかもしれませんが……」
「どうすればいい?」
「リント様、樹海へ行きましょう。カゲロウを集めます。リント様のチカラを知らしめましょう」
「ちょ、何をする気?」
「私達の主君が、姫様よりも優れていると知らしめればよいのです。妖怪は、強き者に従う。そして人間は、王に従う」
「えっ……」
「ふっ、おもろそうやないけ。俺も行くで」
「俺達も行くよ。なぁ? スイト」
「あぁ、ダンジョンの外では、精霊の使徒のスキルは使えないからな。俺達が、剣になってやらなきゃな」
(みんな……)




