126、万年樹の島 〜二人に説明する
ちょっと待って。わけがわからない。
海底都市の爆破や、そこから人工魔物を逃したのは、ミカトやスイトがやらかしたって聞いたけど、無の怪人だった彼らが仕組んだことなのか?
彼らは自由にタイムトラブルできるから、時間軸がわからなくなってきた。
俺の、和リンゴの木の精になってから、分身を飛ばして、過去の分岐点に配置をしたってこと?
で、ミカトやスイトに接触して、誘導したってこと? たぶん、分身はタイムパラドックスを起こせないんだ。無の怪人も、何をやっても未来を変えられないって言ってたもんね。
だから、変えることができるミカトやスイトを利用したってこと? でも、そんなことできるのかな。
「キミ達、分身はただの伝達役だよね? なぜ、ミカトやスイトを動かせるの?」
「私達の分身は、伝達役ですが、それで十分なのです。そもそも、私達は、転生前も、戦国時代では姿を現したことはありません。必要とされる武人に、気が向いたら策を与えていただけです」
「あっ……だから軍神って呼ばれていた?」
「はい。それを聞き入れる者だけに恩恵がある、かもしれない程度ですが」
そうか、無の怪人としての知識も能力も、そのままだから……。
(こいつら、ヤバイ)
使い方を間違うと、とんでもないことになる。
「キミ達、任務を追加するって、何をするの?」
「はい、放出した人工魔物を利用します」
「ん?」
「もともとは、ただ、人間に危機感を与えて、姫様が襲撃する前に、防衛準備や迎撃準備をさせるだけのつもりでしたが、リント様が望まれるように任務を追加します」
「どうするの?」
「私達が乗っ取ります」
「えっ?」
「いったん支配し、知能を進化させ、合理的な判断を教えます」
「そんなこと、できるの?」
「もう、すでに始めています。かなり人間への憎しみが強いので、制御できない種もいます。制御できない魔物からは離脱します」
「そ、そう……」
紅牙さんは、たぶん俺と同じことを考えてるよね。こいつら、ヤバイって。難しい顔をしている。
「なるほどな、無の怪人を消滅させられへんのなら、誰かが手綱を取るしかないか。確かに、無の怪人の脅威は去ったかもしれんけど、リントの脅威が爆上がりやで」
「いやいや、紅牙さん、そんな……」
「まぁ、とりあえず、ミカトやスイトと合流しよか」
「はい」
「きのこ、聞いとるやろー。さっさと運べや」
紅牙さんが叫んだ瞬間、俺達はどこかへ移動していた。暑っ、灼熱の4階層かな?
「紅牙さん、一緒にいるのって……」
「あぁ、幽霊や」
「ちょ、紅牙さん、俺、死んでませんから!」
知らない人だと思うけど、この島の人々なんだよね。俺のことを知っているみたいだ。
でも、なぜこんな暑い場所に逃げ込んでるんだろう。もっと環境の良い階層もあるのに。
なんだか、紅牙さんが来たって、騒ぎになってる。みんな、ほっとした顔をしてる。
「わっ、リント〜!」
ミカトが大げさに飛びついてきたよ。スイトは相変わらず冷静だね。でも、なんだかすんごくジッと見てる。というか、呆然としてる?
「ミカト、スイト、久しぶり〜」
「リント、やはり生きていたんだな。よかった」
「うん、やばかったけどね」
二人は、急に黙って頷いた。
「カルデラだよな、あの妖狐」
「スイト、彼女と遭遇したんだ」
「あぁ、昨日、タイムトラベルから戻ってきたら、この島が何もかも吹き飛んでいたからな。外に出たらすぐに万年樹に入れと、きのこちゃんが言っていたから助かった」
「俺も昨日、戻ってきたよ。俺は、貴族のような和服の爺さんと遭遇したけど、すぐにここに入ってこれたから」
「ミカト、それは安倍晴明だよ。カルデラに従わされてるんだ。彼の中には、他の時代の彼の怨霊が入っているみたいなんだ」
俺がそう説明しても、二人は首を傾げた。だよね、わけわからないよね。
「一応、確認するけど、リント、死んでないよな?」
「うん」
「さっき、きのこちゃんが、リントはバケモノ使いになったって言ってて、何かに操られてるかと心配したよ」
「ミカト、なぜそんな?」
すると、二人は、顔を見合わせて頷いてる。そして、スイトが口を開いた。
「俺達、戦国時代に行ってたんだ。俺は上杉家、ミカトは武田家に行ってたんだ。俺達、操られたかもしれない」
「えっ……まさか、川中島で戦ったの?」
「いや、会ってはいないんだけど、同じ声を聞いたんだ。軍神と呼ばれるようになった上杉謙信は、その声を大地の声だと言っていた」
「そ、そう……」
「俺達は聞いた内容を後世に伝えるように、声に従ってカプセルを埋めたんだ。それが、俺達が戻る前日に、実行された」
「海底都市の爆破と、人工魔物を逃がすこと?」
「そうだ。海底都市はもう、人間の手に負えなくなっていたから、爆破すべきなのはわかる。だが、俺は、そこから、海で生きられる人工魔物を放出するように指示してしまったんだ」
スイトは、失敗したと考えてるみたいだ。自分のせいで、海が危険になったと自分を責めているんだ。
「その目的は、聞いてないの?」
「よくわからなかったんだ。放出することで、うまく危機回避ができるとか……。迷ったんだけど、大地の声は正しいと、家臣の何人かに言われたから……」
「スイト、その目的は、カルデラの襲撃前に、この国に防衛準備をさせることだったみたいだよ。そのおかげで、妖怪との突然の戦争にも、なんとかバリアや結界が間に合ったらしい」
俺がそう説明をすると、二人は驚いた顔で俺を見た。あー、うん、俺の仕業だと思うよね。
「スイト、ミカト、落ち着いて聞いてほしいんだけど……」
俺は、腕輪のステイタスを表示して、二人に見せた。
「フェアリー・キングって……何?」
「俺、和リンゴを守護することにしたんだ。そして、木の精を得たんだ」
「えー、すごいじゃん! おめでとう」
「あ、うん、ありがとう。その木の精のせいなんだ。ミカトとスイトが聞いた声は、今は、和リンゴの木の精なんだ」
二人は、また首を傾げた。だよね……。
「今は、って?」
「うん、無の怪人だったバケモノだよ。彼らは、戦国時代では軍神と呼ばれていたらしい」
「えっ?」
「ちょ、怨霊だろ?」
「うん、平安時代で俺をカルデラから守って死んだんだ。ここに戻ってきて、さっき転生させた」
「さっき?」
やはり、二人は混乱してる。わけわかんないよね。
「木の精だけど、自力でタイムトラベルできるんだ。無の怪人だったときの能力は引き継がれてる」




