125、万年樹の島 〜リントの願い
「私達の能力は、ほとんど変わっていませんよ」
こびと達は、なんだか変なことを言ってる。木の精は、ただの伝達役なはずだ。
「おまえらのせいやな、リントに、心臓がたくさんあるように見えたんは」
「私達は、常に、主人と共にありますからね。リント様、私達は役目を果たします」
「ん? あ、うん」
(何? 他の木の精に知らせるのかな?)
こびと達は、邪気の池にふわふわと飛んでいった。そして、ピカピカと光ったらと思ったら、突然、池からドッと水が空中へと飛び出した。
その水は、青白く輝いている。そして、すーっと、散っていった。じゃないな、こびと達が吸収したようにも見える。
小さな身体に、こんな大量の水を抱え込むなんて……いや、違うか。エネルギーに変えたんだ。池の中にあった死体を喰って、邪気もエネルギーに変えて、分身に渡したんだ。
「リント、おまえ、何をさせてるんや」
「具体的に何をしているのかは、わかりません。彼らに何も命じていませんから」
「はぁ? 邪気の水を吸い取りよったやないか」
「いえ、彼らは、池の中にいた死体を喰ったんです。そして、エネルギーに転換したようです」
「死体なんて、邪気の池では溶けて消えてるやろ。おまえが見てたんは怨霊やで。怨霊を木の精が喰うんか?」
「怨霊……。きっと、彼らにはエネルギーが必要だったんです。すでに、転換したエネルギーはこの場所にはありませんから」
「どういうことや?」
「彼らの分身に届けたみたいです。彼らはオリジナルですから、転生前の能力を持ってるみたいです。分身は、ただの木の精、伝達役です」
こびと達は、俺のそばに戻ってきた。
「リント様、ご指示をください。各地の海で人工魔物が急激に進化しています。どうすればいいですか」
「そんなもん、すべて……」
「紅牙さん、貴方の意見は不要です」
(わっ、やはり、ちょっと険悪だよね)
人工魔物か……。もともとは人間が作り出した人工樹のダンジョンのボスだよね。娯楽目的で、殺すために、作り出された存在。それが、海底都市の爆破で、海に逃げ出したんだ。
紅牙さんは、すべて始末するべきだと考えていると思う。でも、本当にそれでいいのかな。
「紅牙さん、外の状況を教えてください。俺が不在の二日間で、どう変わったんですか」
「陰陽師と妖狐が、樹海の妖怪の里を治めるようになったのは知ってるか?」
「はい、きのこさんから聞きました」
「そいつらが、人間を滅ぼそうとしてるんや。二日前に、突然、戦争が起こったんや。日本中のあちこちの妖怪が人間を襲い始めた。だから、弱い人間は、バリアやシェルター内に隠れてる。おまえの高校にも、国から要請がくだったみたいや」
「えっ……戦争……。要請って、何ですか」
「妖怪から守らなあかんからな。おまえのクラスは、優等生ばかりや。だから、東京の防衛最前線におるで」
「……そんな」
中村さんや早瀬さんの顔が頭に浮かんだ。それに眷属の小川さん達もいる。そして、他のクラスメイトの顔も次々と浮かんできた。
「ミカトとスイトは、万年樹の中におる。ここは、妖狐に狙われてるんや。たぶん、分断するのが目的やろな。俺も、助けに行かれへん」
カルデラを止めないと……。でも、カルデラを追い払ったところで、戦争を終わらせることができるのかな。
妖怪と人間が、せっかく共存できているのに、戦争によってまた平安時代のように関係が悪化する。
(そんな時代に戻してはいけない)
「あっ、紅牙さん! 木の根が」
「邪気の池が消えたからやな。魔道具は残しとくと同じことになるな」
木の根が、強く光っている。赤やオレンジ色に光る根も現れた。
紅牙さんは、壊れた魔道具を回収していた。何かに包んで魔法袋に入れている。危険なものなんだね。
魔道具が回収されると、この場所の空気感が一気に変わった。霊力が湧き出してくることで、空気が澄んでいってるのかな。
こびと達は、クルクルと飛び回り始めた。ちょっとヘラヘラしている個体もいる。万年樹の霊力に包まれて、嬉しいみたいだ。
「こいつら、霊力を盗んでるんちゃうか?」
「なんか、嬉しそうにしてますね」
俺がそう言うと、我に返ったのか、こびと達は、俺の近くに集まってきた。ふふ、叱られると思ったのか、しょんぼりしている個体もいるね。
「キミ達は、もう人間を滅ぼそうとは思っていないよね?」
「はい、可能であれば」
(そうか、この先の未来か)
彼らが何をやっても、人間は止まらなかったんだ。でも、それは、彼らがバケモノだったからだよね。死者だったからだ。
「俺達浮き島の妖精は、人間が活動してくれないと繁栄できない。それは、わかるよね?」
「はい」
「俺は、人間と妖怪は仲良くしてほしい。人間や妖怪には、いい奴がいれば悪い奴もいる。人工魔物も同じだと思う。人工的に生み出された命でも、環境に適応し、自立できるなら、自由に生きればいいと思う」
「リント、なんやそれ……」
「紅牙さん、俺は平安時代で、人間と妖怪の争いを見てきました。険悪な関係でも、人間に歩み寄ろうとする狐の少年達もいました。皆が共存できる世界が、理想的なんだと思います」
「人工魔物には、知能がないで」
「進化して魔力を吸収するようになった種がいるなら、高い知能を持つ日も近いです。俺は、平和で穏やかな毎日を過ごしたい。悪意ある者は制裁を受けるべきです。でも、やりすぎるべきではないとも思います」
「リントは、甘っちょろいな」
「ふふ、妖精ですからね。基本的に、お気楽な種族です」
「そうかー」
紅牙さんは、上を見上げていた。何か考えているみたいだ。彼は、妖精と妖怪のハーフだもんね。妖怪に近い感性だとは思うけど。
「リント様、それがご指示ですか」
「ん? 指示というか、俺の願いかな?」
こびと達は、ピカピカと光っている。互いに話し合っているのか、分身に伝達してるのかな。
「かしこまりました。私達の準備では足りませんでした。新たに任務を追加します」
「ん? 準備? 何をしていたの? 追加って?」
「はい、安土桃山時代で、ミカトさんやスイトさんに接触しました。そして、海底都市の消去の誘導と、人工魔物の放出を誘導しました」
「えっ……どうして?」
「姫様が襲撃する前に、人間に危機回避の策を練らせるためです。じゃないと、今頃、人間は全滅していました」
「人間を守るため? ってかいつの間にタイムトラブルしたの?」
「分岐点となる各時代に、分身は配置済みです」




