119、万年樹の島 〜11人の木の精たち
『目線でのサインが必要です』
『わかったよ』
スキルは、なぜか急かしているような気もする。この木の枝みたいなものを転生させて、早く木の精を生み出したいのかな。
(なんの木だろう?)
あっ、もしかしたら、どこかの千年樹の若木なのかな? 万年樹の精霊なら、すべての木の精に命令を下せる立場だよね。
外の様子がわからないけど、幼女は俺達がいろいろやらかしたと言った。ミカトもスイトも、タイムパラドックスを発生させたんだよね。
海底都市の爆破がミカトで、海底都市から人工魔物を逃したのがスイトだと言ったっけ? 俺がタイムトラベルに行く前に、二人は現代に影響を与える行動をしてたんだ。
まぁ、時間の流れが違うもんね。
もしかすると、ミカトやスイトも、カルデラや無の怪人と、タイムトラベル先で遭遇したのかもしれない。
【隠れスキル「転生」を発動しますか】
俺は、目線で、イエスを選択した。スキルの雰囲気からも、ノーとは言えない。
【隠れスキル「転生」を発動します】
俺の身体から、木の枝に光が放たれた。マナではなく、妖精のエネルギーだ。
木の枝は、俺の手から弾け飛び、たくさんの光が地面に落ちた。
『主人に忠誠を誓います』
その光からそんな言葉が聞こえる。木の精って生まれるときに忠誠を誓うんだ。知らなかった。
クルクルと俺のまわりを飛び交っている。なんだか蛍みたいな淡い光だ。そして、少しずつ人の姿に変わっていった。とは言っても、手のひらに乗るサイズだけど。
「ちょ、半人前、何してるのよ?」
「隠れスキル『転生』だって。これを使わせるために、俺は変身させられたみたいなんだ」
「そんな隠れスキルなんて、知らないわよ?」
「えっ? マジ?」
「まさか、アンタ、そのミイラ指に乗っ取られてるんじゃないでしょうね! もし、そうなら、万年樹から出すわけにはいかないよっ」
(ミイラ指? 木の枝だってば)
「いやいや、そんな……誰に乗っ取られて……狐か」
俺は、嫌な汗が出てきた。もしかして、翁狐かカルデラが、俺を怨霊化させようとしてる? いや、俺は死んでないから怨霊にならないんだけど。
やがて、光が収まると、目の前にずらりと、こびとが並んだ。確かに木の精なんだけど、見たことのない格好をしている。まるで、時代劇の忍者だね。
「リント様、新たな命を与えてくださり、感謝します」
「うん、スキルがね、キミ達が転生したがっているというから。でも、その見た目は珍しいね」
「あぅ……申し訳ありません」
こびと達は、一斉に土下座をしてる。いや、かしずいただけかな? 小さいから近寄らないとわからないよ。
「いや、別に謝ることじゃないと思うけど?」
でも、こびと達は、そのままの姿勢を崩さない。そして、チラチラと俺の背後を見てる。振り返ると、幼女がなぜか仁王立ちしてるんだけど……。
(幼女が彼らを睨んでる?)
別に、服の好みは自由でいいんじゃないの? 普通の木の精は、女の子の姿で可愛らしいふわふわした服を着ている。彼らは、男の子の姿だから、ふわふわ服は逆に違和感だと思う。
「きのこさん、彼らが怖がってるよ」
「半人前、この木の精、おかしい! いったい何を転生させたのよ。なぜ、こんなに霊力が高いの? そもそも、どうして男女両方いるのっ!?」
「えっ? 男の子じゃないの? あっ、ひとり女の子もいるかな?」
「11人中、女の子は2人よ。なぜ、初めっから11人もいるのよ。普通、新たな木の精は、ひとりでしょ。それをリーダーにして、ドバッと増えるのに」
そんなことを言われても、俺にわかるわけがない。
すると、こびとの一人が口を開いた。
「リント様、説明させていただいても構いませんか」
「うん、お願い。転生前の記憶は消えてないのかな? それに、なんだか転生を急いでた?」
「申し訳ありません。急いでいたといいますか……リント様が過去と繋がるこの部屋から出られると、私達は消滅してしまうので、出られる前にと……申し訳ありません」
こびと達は、オロオロしている。なんだかみんな個性があるみたいだ。俺の近くにいる個体が特にオロオロしている。人見知りするタイプなのかな?
話している個体は、なんだかせっかちな性格のようだ。へぇ、面白いな。
「そっか、そんな事情は知らなかったよ」
「申し訳ありません」
「そんなに謝らなくていいから。説明があるんでしょ?」
俺がそう言うと、彼らは一斉に立ち上がった。背丈は15センチくらいかな? 話しにくいから、俺は地面に座った。幼女は仁王立ちのままだけど。
そして、彼らの敬礼なのか、左手を胸に当ててる。なんだか、騎士みたいだね。
「私達は、リント様に忠誠を誓います。決して裏切ることはありません。そのことを信用していただけないと、私達が何者であったかを話せません」
彼らは、深々と頭を下げた。
「ますます怪しいじゃない! 普通、木の精は、妖精にそんな偉そうなこと言わないよっ!」
「申し訳ありません、万年樹の妖精様」
(彼らは、幼女の素性を知っている?)
幼女は、ますます警戒している。平安時代からくっついてきた木の枝が、幼女のことを知っているわけがないんだけど。
「わかったよ。キミ達が必死だったのも伝わってきてる」
「ありがとうございます」
話している個体が幼女を気にしてるけど、他の個体が話を続けるようにと促している。彼らは、ずっと共に生活していたのかな? なんだか、不思議な連帯感というか連携というか、一体感がある。
彼らは、また一斉に深々と頭を下げた。
「私達は、戦国時代では軍神、平安時代では山の神と呼ばれていました」
「えっ!?」
俺は、思わず叫んだ。
幼女はわかっていないみたいだ。
「リント様は、お気づきになられましたね」
「いったい、どうして?」
「私達は、新しい人生を歩みたくなったのです。それをリント様が教えてくださいました」
俺は、彼らの数を数えた。うん、11人。あのとき確か、ジュウイチと言っていた。無の怪人は、身体の中に、11人のリンゴの妖精が同居していると言っていたんだ。
「あのとき、かばってくれたのは、なぜ?」
「リンゴ王国の王族をお守りするのは、当然のことです」
「ありがとう。あの木の根がなかったら、俺は死んでいたかもしれない。それに、俺の魔力が減らなくなったのも、もしかして?」
「あの地には、無属性のエネルギーがありますから、それを使って回復をしておりました」
「そっか、キミ達に助けられていたんだね。ありがとう」




