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117、平安時代993年 〜カルデラの暴走

『スピード!』


 俺は、自分に倍速魔法をかけ、彼らの攻撃を避けた。翁狐が術返しを使っているせいで、魔法攻撃はきっと俺に跳ね返ってくる。


(あれ? なんだか変だな)


 彼らは威嚇だけのつもりなのか? 俺は簡単に避けることができる。それに、魔力が減っていかないんだ。ここには、マナがあるの?


 それなら、魔力を気にしなくていいね。俺のバリアで防げる程度の魔法攻撃なら、翁狐に術返しされても大丈夫だ。



『バーニング・ショット!』


 俺は火の鳥のような火魔法を使った。まわりに木々はあるけど、結界だらけだから大丈夫だろう。


 うん、魔力は減っていない。いや、逆に補充されてくる。どういうこと?


「姫様に逆らうとは、なんたる身の程知らずだ! ぎゃ〜」


 まずは、翁狐に、火魔法が直撃した。術返しはしないの? 奴は火に焼かれて、転げ回っている。


「なぜだ? 青空殿、その力を隠していたか」


「特別なことなんてしていませんよ、安倍晴明様」


 彼はなぜか陰陽道を使わない。炎は飛ばしてくるんだけど、バリアで簡単に弾く。鞍馬で見せた六芒星は、ここでは出せないのかな。


 動きも、ゆらゆらしている。やはり目が見えていないの? いや、そうか。今の彼は怨霊なんだ。


(確かめてみよう)


『シャイン!』


「ぐぁあっ、く、くそガキがぁ〜」


 光魔法で彼を包むと、彼は動けなくなった。やはり、怨霊だな。そうか、怨霊が乗っ取っているときは、陰陽道は使えないんだ。



 そして、それを見て、剣を抜いていた無の怪人は、ハッと我に返ったらしい。剣を鞘に戻してオロオロしている。攻撃的な人格が引っ込んだのか。


「ちょっと、貴方達、なんてだらしないの? たかが妖精ひとりでしょ」


 カルデラは、俺に突然、黒い雷撃のようなものを飛ばしてきた。邪気にまみれた妖術か。


 俺は、刀で、その雷撃を受けようとしたが、パチリと刀が弾き飛ばされた。


(しまった……)


 彼女は、ニヤッと笑い、再び雷撃を俺に飛ばしてきた。


 バチン!!


(えっ?)


 俺の目の前には、無の怪人がいる。カルデラの雷撃を彼が身体で受けた!?


「キャー! ちょっと、何をやっているのよ!」


 カルデラは悲鳴をあげた。


 目の前の、無の怪人……リンゴの妖精は、背中に雷撃を受け、その傷口から、モヤモヤとしたものがあふれ出てきた。


(えっ? 俺をかばった?)


 彼は、ホッとしたような笑顔で、その場に崩れるように倒れた。


「イヤー! ちょっと、何をやっているのよ!」


 カルデラは、彼を修復しようと、傷口を触った。だが、彼女が触ると、より一層、彼の身体が崩れていった。


 彼女は、半狂乱になっている。



「バカな女だ。自分で自分のペットを壊したか。妖力でできた傷口におまえが触れると、さらに傷つけていることくらいわからぬか?」


 俺の光魔法から逃れた安倍晴明が、カルデラをあざ笑っている。



 俺は思わず、目の前の、無の怪人に触れた。


「俺をかばってくれたの? どうして……」


『オ、オジ……』


 彼は、俺の足に手を置き、笑顔を見せている。


 いや、ちょっと、そんな……。


 シューッと音を立てて、彼の身体からはどんどんモヤモヤが抜け出ていった。消滅してしまうのか……。


 無の怪人は、強いはずじゃないの? 紅牙さんも苦労していた。それなのに、こんなカルデラの雷撃で?


 あ、カルデラが、そもそも彼を作ったのか。だから、彼女の術は、大きなダメージを与えるってこと?




「許さない! 何もかも、許さない!」


 カルデラが、おかしい。無の怪人を可愛がっていたから、自分で彼を傷つけたことで狂った?



 ピリピリとした空気に変わった。


 カルデラが、大きなエネルギーを集めている。


(ちょっと……)


 俺は、逃げ場を探した。


 でも、俺のまわりの空気が、ピリピリ、パチパチと、静電気を帯びたようになっている。


(バリアで耐えられるのか?)


 俺の背中を、嫌な汗が流れた。


 マズイ、マズイ、マズイ、マズイ……。


 頭の中に警笛が鳴っているようだ。どうしよう、どうすれば……。



「すべて吹き飛ばしてあげるわ! 貴方の時代の人間も、すべてね。あの子の意思だもの。すべて壊す!」


 大地が揺れた。


 空気がなくなったかのような錯覚を感じた。


(苦しい、息ができない)


「さよなら」


 ガタガタガタガタ


(えっ?)


 ドドドドドドドドッ!


(嘘!)


 ガタガタガラガラ

 ダダーン!



 俺は、木の根の中にいた。

 落ち着く匂いだ。これは、いったい……?





「クソ女、私のむくろを返せ!」


「しつこいわね! あの子の亡骸を集めるのが先よ」


「こんなに大地をぶっ壊しておいて何を言っている? もはや、見つからぬわ」


「はぁ、もう、何もかもパァじゃない。いや、違うわ。あの子の願いを叶えてあげれば、きっとまた戻ってくるわ」


「そんなことより、私の骸は……」


「うるさい爺ね。あんたの骸は、2100年にあるわ」


「なんだと? なぜ、そんな未来に」


「分岐点だからよ。人間を滅ぼすために利用しようと思ったんだけど……そうね、身体が欲しければ一緒に来なさい。きちんと働けば、返してあげるわ」


「おまえの言葉など信用できん。だが、ふむ、ここにないということは、他の時代に移動したか……。その時代になければ、おまえを殺すからな」


「ふっ、一番安全なのは、陰陽師のいない時代よ」


「それが2100年か? 案内しろ」


「そうね、じゃあ、転移魔法陣を動かす霊力を出しなさい」


「どこまでも、あつかましい女だ」




 カルデラと安倍晴明の気配が消えた。


「はぁ、全く……もうここは使えないな。姫様も無茶をなさる……」


 翁狐の気配も消えた。



 すると、ガタガタと大きく揺れ、俺を包んでいた木の根が、パックリと割れた。


 俺は、目に映る変わり果てた景色に、言葉を失った。


 美しかった木々が、黒こげになっている。木々だけではなく、大原にいた動物達も、生きたまま焼かれたようだ。なんとも言えない臭いが漂っていた。


 とんでもないエネルギーだ。これが、カルデラの力なのか。



 俺を包んでいたのは、この地に生息していた木だ。リンゴの木ではない。なぜだろうと一瞬考えたが、すぐにその答えはわかった。


 きっと、無の怪人だ。


 木の根の中で感じた落ち着く匂い……あれは、リンゴの木の匂いだ。


 まわりを見渡したけど、彼の亡骸がどこにあるのか全くわからない。


 俺を包んでいた木の根も、そのまま、燃えてしまっていた。あちこちにまだ火がくすぶっているんだ。



(帰らなきゃ!)


 指輪に触れると、普通に反応した。


【タイムトラベルを終了しますか?】


 俺は、イエスを選択した。



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