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116、平安時代993年 〜四面楚歌!?

「リントさん、この子の餌になってもらうわ。もう貴方は逃げられない。断るという選択肢はないのよ」


 カルデラは、妖艶な笑みを浮かべていた。そして無の怪人、いや山の神、うーん呼び方が多いな……その彼の頭を撫でていた。まるでペットのようだな。


「ねぇ、キミはなぜこの時代に来たの? そもそも、人体実験で殺された亡霊だったよね?」


『ヨバレタ、カラ』


 あっ、そうか。彼は話せないんだ。目鼻口があっても、声が出せないんだね。ということは、妖怪ではなく、やはり怨霊? この姿は、カルデラの妖力で作られているのか。


 俺がカルデラの方を見ると、彼女は俺の顔をジッと見ていた。何? 凝視してるのは術をかけているわけ?


「リントさんは、この子と似ているわね。私が好きな顔だわ。貴方の命を奪うつもりはないから安心しなさい」


「カルデラ、安倍晴明様とは仲間なのか? このリンゴの妖精の亡霊をなぜこの地に呼んだんだよ」


「そんな爺さんは仲間にした覚えはないわ。ただ、願いを叶えてあげたから、私の下僕かしら?」


 彼女がそう言うと、安倍晴明は反論した。


「何をほざいておる? 私が助けてやっているだろう? おまえ、私のむくろをどこに隠した?」


「うふふ、貴方が私の言うことを聞かないからよ。石塚ごと、他の時代に移したわ」


「なっ? クソッ、だから見えないのか」


「貴方じゃなくて、爺さんなら問題ないはずでしょ。どっちも貴方だけど」


 さっきも、この話をしてたよね。もしかして、安倍晴明は、自分の怨霊を取り込んでいるということ?


 探しているのは、この時代の未来から持ってきた彼の遺体なのか。そう考えると、彼の二面性の理由がわかる。この場所に来たときに、彼は怨霊に乗っ取られたんだ。いや、二つの人格が同居しているのか。


 そして、カルデラは、安倍晴明が自分に逆らわないように、骸を隠した。そのせいで、怨霊の彼の視界は真っ暗になったってことか。骸と怨霊は結びつきがあるんだ。



「カルデラ、キミ達がどんな勢力争いをしているのかは知らないし、興味もないよ。でも、俺が生きる時代をひっかきまわすのはやめてくれ。とんでもなく迷惑しているんだ。国が……いや、星が滅びかねない」


「リントさん、全然わかってないのね。だから、この子が、人間を滅ぼそうと言い出したのよ?」


(どういうこと? 無の怪人が?)


 彼の方を見ると、オロオロしている。俺に叱られると感じているのかな。彼はリンゴの妖精が何人も集まった怨霊だと聞いている。彼の中にもいくつもの人格が同居しているのかもしれない。


「キミが……いや、キミ達が、人間を滅ぼそうと言い出したの? それは、人間の科学者によって殺されたから?」


 俺がそう尋ねると、彼はオロオロしながら首を横に振った。


「キミの中には、何人が同居しているの?」


『ジュウイチ』


「今、話しているキミは、人間を滅ぼそうとは言ってないんだね?」


 彼は、頷いた。なるほどね。多重人格、いや、亡霊の集合体か。


「かわいくない子は、大原では出てこないわよ。ここでは、私に逆らうとダメージを受けるもの」


 そっか、それで翁狐は、この場所では態度がデカいんだ。


 俺は、まわりを見渡した。美しい木々の広がる山の中だ。転移魔法陣がある場所には草は生えていないが、草花も美しい。


(あれ? 聞こえない)


 あるはずの音がない。それに気づくと、この地を覆う妖力のベールが見えた。そうか、精霊の息吹が聞こえないのは、精霊を排除する結界があるんだ。


 えっと……ということは、この結界の外に出ないと、精霊の力が及ばないってこと?


(めちゃくちゃマズイ……)


 ちょっと待って。ということは、俺、もしかしてタイムトラベルを終了できない?


 俺は腕輪に触れた。万年樹の指輪にも触れた。な、何も反応しない。タイムトラベルを終了しますかって言って!



「あら、リントさん、どうされました? なんだか慌てておられるようですけど? ふふっ」


「貴女が、俺は逃げられないと言った意味が、少しわかっただけですよ」


 俺はあえて落ち着いた声を出すように心がけた。


 ヤバイ、マズイ、ヤバイ。でも、この結界の外なら大丈夫なんだよね。落ち着こう、うん。そうか、転移魔法陣が起動していないのは、逃がさないためか。


 それより、話の続きだね。



「なぜ、人間を滅ぼそうと言い出したのか、わかる?」


『ダメ、ダカラ』


「人間がダメだから?」


 彼は首を傾げた。言葉がうまく見つからないのかな。


「リントさん、この子は、言葉が話せないわよ」


「貴女が彼に身体を与えたのか? わざと話せないようにしたわけ?」


「ふふっ、言葉はいらないもの」


「キミは、今の状態がいいと思ってるの? 怨霊だよ? 新たな人生を歩みたいんじゃないの?」


 俺がそう言うと、無の怪人は悲しげな顔をした。だよね、満足しているわけはない。すべて、カルデラの都合がいいように利用されているんだから。


「リントさん、妙な誘導はやめていただけないかしら? 身の程がわからないなら、少し眠ってもらうわよ」


「ちょっと待ってよ、カルデラ。なぜ、2100年の人間を滅ぼそうとするの? 貴女は、この平安時代の妖怪だろ?」


「リントさん、何もわかってないわね。妖怪に寿命はないのよ。それにこの子の希望を叶えてあげないと、不安定なんだもの」


「カルデラ、何を焦っているんだよ? 貴女はもう長くないんだよね。だから、すべてを壊そうってこと?」


 図星だったのか、的外れなのかはわからない。でも、彼女の形相が変わった。


「生意気な子は、嫌いよ」



 彼女は、たくさんの尾のある狐に、姿を変えた。


 ザザッ!


(いきなり、戦闘態勢かよ)


 彼女は、自分のまわりにたくさんの炎を出し、俺にぶつけてきた。


 俺は、刀を抜き、炎を防いだ。変な炎だ。刀が溶けたよ。そんなに温度が高いの!?


 俺は新たな刀を取り出し、強化魔法を付与した。


(えっ……)


 安倍晴明も、自分のまわりに赤い炎を出している。翁狐は、ニヤニヤしながら眺めている。無の怪人は、オロオロしている。


 安倍晴明が、炎を飛ばした。避けると、避けた場所にカルデラの攻撃がくる。


 そして、無の怪人の顔つきが変わった。別の人格が出てきたのか。彼は、剣を抜いた。


(ちょっと、これ、三対一じゃない)


 翁狐は、俺に手を向けていた。たぶん術返しだ。


(四対一じゃ……)



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