112、平安時代993年 〜不思議な道具の交換条件
「うわぁ〜、護身具がたくさん!」
「青空様、いったいこれは……」
「俺がこの時代に来るときに、持たされた物です。必要な人に渡すようにと。俺には使い方さえわからない。これは、皆さんのためのもののようです」
俺がそう言うと、少年二人はポカポカと殴り合いを始めた。照れているときの仕草かと思ってたけど、嬉しいときの仕草なのかもしれないな。
「青空様、こんなにたくさんの護身具を……よろしいのですか。私達には、お返しできる物はありませんが」
年配の人達が心配そうにしている。そうか、見返りに何を要求されるのかを恐れているみたいだ。
(別にいらないんだけど)
でも、彼ら妖怪は、見返りを要求しないと逆に信用できないのかな。うーん、それなら……。
「ちょっとお願いがあるんですけど、聞いてもらえますか?」
彼らは、やはりという顔をした。そして、神妙な顔で頷いた。そんなに緊張しなくてもいいんだけどな。
「俺、この時代で、和リンゴの品種改良をしました。俺が守護すると決めた品種です。この子達は食べてくれたので、場所を覚えているはずです」
少年二人は、思いっきり頷いている。
「和リンゴが、戦火に焼かれて消滅することがないように、見守ってほしいんです」
彼らは、神妙な顔で頷いた。いや、そんなたいしたことじゃないはずだけど、すごく真剣な目つきに変わった。
「リンゴ、美味しいよ。でも食べすぎちゃいけないんだって。川沿いの貧乏人が食べるんだ。貧乏人は、魚を獲れるけど焼けないんだ。簡単なのに、人間はできないんだ」
少年は、焼き魚の印象が強かったのかな。すごく嬉しそうで自慢げだね。
「たくさんのお手伝い、ありがとうね。あの人達は、キミ達がいないと、火をうまく使えなかったね」
「でも、リンゴの木は真面目に育てるよ。食べ物だから、自分の木の世話をするんだって」
他の狐の妖怪達は、この話をジッと聞いている。何を考えているのかな。護身具を見つめてる。あー、そうか、護身具だけでは、報酬が足りないのかな。
俺は、短刀を数本、魔法袋から取り出した。そして、少年二人に渡した。
「キミ達の護身用に渡しておくよ。人間の中には、狐を見つけると殺そうとする人もいる。でも、キミ達の方が、いろいろな能力は高いんだ。だから、弱い人間には優しくしてあげてほしい」
「うん、わかった〜。貧乏人は弱いから優しくしてあげる」
「たぶん、火もつけられないよね、貧乏人だから」
(やたらと貧乏人と言うね)
でも、差別意識はないみたいだ。区別なのかな。
「他の子にもあげてもいい?」
「うん、必要な人で分けて使って。でも、あくまでも護身用だよ?」
「はーい」
少年二人は、短刀を誰に渡すのか相談を始めた。大人が取り上げるかもしれないけど、まぁ、それならそれでいいか。
ドン! ドカン!
霧の中から、妙な破裂音がした。そして、青い光が空に立ち昇った。あれは、霊力かな。救難信号のようにも見える。
(嫌な予感がする)
「じゃ、俺は、もう一つの仕事をするよ。和リンゴのこと、よろしくね」
「青空様、どこかへ行っちゃうの?」
「俺は、あの木づちをなんとかしたい。この時代で怨霊が大発生するのを防ぎたいんだ」
「私達も、あの木づちが消えてくれたら嬉しいです」
彼らは、期待を込めた目をしている。やはり、虐げられているのか。できる限り、なんとかしたい。
俺は、コクリと頷いて、やわらかな笑みを浮かべた。
「じゃあ、皆さん、お元気で」
俺は、霧の中へと入っていった。
霧の中には、結界が張ってあった。これが区画の役割を果たしているのか。
狐の妖怪達も、さっき、この霧の中から出てきた。彼らの住まいらしき小屋が並んでいる。でも、その小屋にはいくつもの結界が張られていて、迷路みたいだ。
この結界が見えない人間には、行きたい方向に進めなくて混乱するんだろうな。
俺は、霧の中を進んでいった。
さっき、青い光が立ち昇った場所は、もう少し先になる。だけど、その場所への移動は、簡単なようだ。
いくつも転移魔法陣が見える。いや、違うな。転移魔法陣を真似て作った別物だ。真似たというより、複製に近いかもしれない。
たぶん、これも人間には見えないんだ。だから、踏み込んでしまって、どこかに転移してしまう。大原に転移する魔法陣があちこちに配置されているんだね。
俺は、霊力が流れてくる転移魔法陣を見つけた。
(これだね)
きっと安倍晴明が術を使ったときの霊力だ。俺は、その転移魔法陣に足を踏み入れた。
「な、あ、青空殿か……。やはり、そなたは……」
「安倍晴明様、ご無事ですか。他の人達には集合場所へと集まるように指示しました」
「まさか、そなたが私の命を狩るために、ここに誘導したとはな……」
(何を言ってるんだよ?)
だけど、彼の足元を見て、その理由がわかった。見覚えのある光景だった。骨が大量に落ちている。しかし怨霊はいない。彼が吸収したんだ。
周りには、翁狐もカルデラもいない。この霧の中でのサーチは術返しのリスクがあるか。うん、そうだね、だから、あの二人はここには居ないんだ。
奴らは、離れた場所から見ているんだろう。そして、何かあれば、転移魔法陣を使って、すぐに現れる。
「安倍晴明様、かなりの怨霊を取り込みましたね。幻覚が見えているのではありませんか」
「私は、そんな……」
「貴方の足元にある人骨には、たくさんの怨霊が宿っていたはずです。大きな狐が木づちを振りましたね?」
「た、確かに……クソッ」
安倍晴明ほ、何かの術を唱えた。身体が黄色に光っている。すると、シューッと湯気のようなものが出てきた。
すると、彼の周りだけ霧が濃くなり、その黄色い光を打ち消した。
「青空殿、助かった。妙な声に惑わされていた。しかし、やはり、この霧は、霊力を妖力に変えてしまう。敵に術を使っても、妖力に変換されて打ち返されるのだ」
「それが術返しですか。なるほど……。魔力なら、何に変換されるのかな」
俺はそう言うと同時に、手に魔力を集めた。
(へぇ、やっぱりね。魔力は消えない)
霊力を妖力に変換する霧だ。カルデラもエネルギーが欲しいと言っていたからね。
「青空殿、何をする気だ?」
俺は、彼の問いに笑顔を向けた。
「こうするつもりです」
俺は、手を上にあげ、魔力を放った。
『ハリケーン!』
強い風魔法だ。グルグルと渦を巻き、一気に霧をかき集め、風の渦は上空高くへと飛び去った。
(霊力だけを妖力に変換する霧だね)




