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109、平安時代993年 〜カルデラの野望

「千年樹のダンジョンの転移魔法陣を、何か悪用しているんですか」


 俺は、花魁のような彼女、カルデラにそう尋ねた。彼女は尻尾を扇のように広げている。いったい何本あるのかな?


 尻尾が、ふらふらと揺れているように見える。たぶんまた、何か術を使っているんだろうけど、俺には今のところ害はないみたいだ。


 術返しがどうとかって言ってたよね。ここで、サーチ魔法なんかを使うと、ダメージを受けることになるのかもしれない。気をつけよう。


「別に、何も悪さなんてしていないわよ」


「この霧の中に入った人間を、大原へ転移させるのは何のためですか。殺して怨霊を作り出しているのですか」


「何のことかしら?」


 とぼけた顔をしているけど、一瞬、彼女の表情に殺意のようなものがみえた。図星なんだね。


 ここで消えた人達は、大原に運ばれて、恨みを抱えさせるようなやり方で……殺されているんだ。


(そんなにも、怨霊を作り出したいのか)


 怨霊の霊力を妖力に変換する術を使って、力として取り込んでいるんだろうな。だから、すべての頂に立つだなんて、大きなことを言ってるんだ。


 でも、俺は彼女のことは怖いとは感じない。カルデラは姿を消すことができるから、なんか勘違いしてるんじゃないかな。


「その大原には、転移魔法陣がありますよね? 貴女の妖力で、どこかのダンジョンの転移魔法陣をここに持ち込んで、タイムトラベルの道具に作り変えたんですね。だから、貴女もタイムトラベルができるんだ」


 彼女は、スッと目を細めた。凍えるような冷たい眼差しだ。


(俺を攻撃する気?)



 そのとき、狐の少年二人が、俺の前に立ちはだかった。


「この人は恩人です。消さないでください」


 でも、彼女は、少年二人のことは無視している。完全に眼中にない存在なのかな。同じ狐じゃないのかよ。



「なぜ、知った? たまゆらとの扉は壊したのに」


 扉って、転移魔法陣のことだよね? この時代には魔法がないからわからないんだ。


 そうか、万年樹が俺をこの時代に運んだのは、カルデラがこの時代の妖怪だからなのかもしれない。


「扉は、いくつあるのですか」


 俺は、目の前でガードしてくれている少年二人の頭を、優しく撫でた。二人は一瞬びっくりしたみたいだけど、照れたようだ。二人で小突きあっている。


 うん、この距離なら、もしものときのバリアは間に合うね。カルデラは、ここの住人をまるで下男かそれ以下のように見ているみたいだ。


 敵対しているわけではないようだけど、彼らはカルデラを、異常に恐れているように見える。



「さぁね。だけど、扉を開くには、かなりの妖力が必要なのよ? 燃料は必要でしょ」


「そのために、人間を燃料としているのですか。そこまでしてタイムトラベルをする必要があるとは思えないですけど」


「何を言っているのよ。今やったことの結末を知りたいのは、当たり前のことでしょ。私は特別な存在なのよ」


 えっ……千年後にまで、確認しに行っているだけ? いや、あちこちの時代を行き来して、楽しんでいるのか。


 そんなことのために、大量の人間を殺しているわけ? 


(コイツ、狂ってる)


 でも、そうか。人間も同じか。レベルを上げるために人工魔物を作り出して、殺して楽しんでいるんだもんね。


 だから、いろいろな悲劇が生まれたんだ。



 そのとき、霧が大きく揺れた。


「チッ! まだ、暴れているのかしら」


 そう呟くと彼女は、スッと姿を消した。彼女がいなくなると、彼らはホッとしたみたいだ。一気に表情は緩んだ。


「さっきは、かばってくれてありがとう。嬉しかったよ。あ、あの、彼女は、安倍晴明様のところへ向かったのかな」


 俺はすぐそばにいた少年二人に尋ねた。二人は戸惑った顔をしている。


「青空様、姫様は、陰陽師を狩りに行かれました。姫様の邪魔ばかりするので、機会を探っておられたのです」


 これまで話したことのない年配の男性が口を開いた。服装が、他の人とは違う。なんだか高そうな着物だ。


「彼女は姫様なのですか?」


「はい、とある公家に生まれた方です」


「えっ? 人間ですか?」


「いえ、知恵のある妖怪は、人間の中に紛れ込んでいるものですよ」


「へぇ……では、ここの住人ではないのですね」


「当然です。ですが、彼らは姫様の加護がないと生きられない種族ですからね。まぁ、下僕といったところでしょうか」


「貴方は、彼女の付き人か何かですか?」


「いえ……私も、この山の者です。人に化けて屋敷に出入りはしますが」


 なんだろう? 何か違和感を感じるけど……。


「貴方は、彼女をこのままにしておいて、いいのですか?」


「どういう意味でしょうか」


「彼女は、自分の力を過信している。どのような術を使うかは知りませんが、すべての頂に立つ器ではありませんよ」


 少しキツイ言い方になったけど、彼がどう出るかで、彼女との関係がわかるかと思ったんだ。 


「青空様は、百鬼の長の方が、チカラが上だとおっしゃっているのですか」


(百鬼? 百鬼夜行の百鬼?)


 わからないとは言えない雰囲気だよね。どうしよう。


「俺の時代では、彼女の活躍は伝わっていません。でも、百鬼夜行の話は伝わっています」


 俺がそう言うと、彼は目を見開いた。


「そんな、馬鹿な……」


 うーん、どうしよう。


「俺は、妖怪の勢力争いに首を突っ込むつもりはありません。ただ、無駄に怨霊を増やすことはやめてもらいたい」


「ですが、姫様にはチカラが必要です。時間がない」


 うん? もしかすると……彼女は近いうちに死ぬのかな。


 それで、取り込んだ怨霊が一気に放たれることになる。だから、この時代以降に、怨霊が大発生するんだ。


 彼女は、タイムトラベルで、自分の未来を知っているんだ。だから、焦ってチカラを蓄えようとしている?


 俺は、万年樹の精霊が微笑んだ気がした。万年樹の精霊には姿はないけど、人に化けられるかどうかも知らないけど……。


(そうだ、きっとそうだね)



「それが、彼女の命を縮めることになってもですか?」


「えっ……どういうことですか」


「おそらく、このままだと彼女は、近いうちに命を落とします。彼女はそれを回避しようとして、チカラを集めているのでしょう。だが、それは逆効果です。時の流れの理に反する行為は、許されない」


 すると、彼の表情が変わった。


「なぜ、それをご存知なのですか。山の神からの入れ知恵ですね。貴方も、処罰しなければならない」


 そう言うと、彼は姿を変えた。


(あー、なるほど……)


 大きな狐の妖怪だ。尾がたくさんある。カルデラの父親かな?



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