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108、平安時代993年 〜尻尾の多い花魁のような狐

 ニッコニコな少年二人の後ろにいる人達が口を開いた。


「青空様、この子達がお世話になりました。とても貴重な体験をさせていただき、嬉しく存じます」


「あ、えっと、いえ、別にたいしたことでは……」


「隠さずとも……私達は、すぐそばで見ておりましたから。和リンゴという新しい種を作り出された瞬間の立ち合い役に、この子達を選んでいただき、恐悦至極にございます」


(別に選んだわけじゃないんだけどな)


 やはり、河原に何人か居たんだ。火の鳥や氷の鳥が、人型の影を映していたけど、たぶん4〜5人は居たよかな。


「いえ、あの、皆さんは、ここに住んでいるんですか」


「私達は、この山に住んでいます。この場所にまとまっているわけではありません」


「鞍馬、ですよね?」


「鞍馬から大原にかけての広い範囲です。私達だけでなく、たくさんの種族が住んでいます」


「妖怪ですか?」


「はい、人間はそう呼びますね。私達は、妖力を持つ優れた種族なのですが、何もできない人間は私達を恐れて、そう呼ぶようになったようです」


「なるほど……」


「青空様は、妖力でも霊力でもない不思議な力を使われますね。妖精だからでしょうか」


「いえ、俺が未来人だからでしょうね。この力は、魔力と呼ばれます。この時代でもヨーロッパ……じゃなくて、えーっと、遠い国には、魔力を使う種族がいるそうですよ」


「青空様の時代は、確かに魔力の源であるマナが豊富ですからね」


 凛とした高い声が響いた。うん? どこから?


 霧の中から、新たに人が現れた。女性だ。


 ちょっと色香の強すぎる感じの着物を着ている。あー、これって、江戸時代の花魁おいらんみたいだな。


 すると、少年二人の後ろにいた人達が、さっと道をあけた。彼らは、なんか驚いた顔をしている。ちょっと怯えているようだ。



(偉い人かな?)


 その女性は、とても妖力が高いようだ。近寄ってくると、なんだか圧を感じる。いや、そういう術を使っているのかな? セクシーすぎるだけ?



「リントさん、でしたね?」


「えっ? 会ったことありましたっけ」


 女性は、妖しく微笑んだ。うーん、これも術かな? なんだか、昔から知っているような気になった。俺は気を引き締めた。


 ピン!


(うん? 何の音?)


「あら、見破られてしまいましたね。あの子が、アナタを妙に意識するのは肩書きだけではないのですね」


(あの子? もしかして……)


「カルデラ、か」


 俺がそう呟くと、彼女は、さらに妖艶な笑みを浮かべた。まさか、カルデラが女性だったなんて……。しかも、こんな……尻尾がたくさんある狐だなんて……。


「姿を見せるのは初めてなのに、よくわかりましたわね。術返しの罠をたくさん張り巡らせていることにも、気づいたみたいだし、精霊の声はここでは聞こえないはずですけど?」


「別にサーチ魔法なんて使う気はないから」


「つまらないわね。あの老人は術返しで自滅したのに」


「安倍晴明様ですか……殺したの?」


「自滅ですわ。ふふ、あの老人は不死でしょう? この時代ではあんな老人になるまで生きる人間は、ほとんどいないのよ。あの老人は、怨霊を取り込んでいるバケモノよ」


「えっ……」


「あら、いま、アナタ達が無の怪人と呼ぶあの子のことを思い出したわね? あの子は、あの老人とは違うわよ。あの老人は怨霊を利用している。でも、あの子は怨霊に利用されているわ」


 ちょっと待って。あの子って、子供扱いしているのは、人体実験で殺されたリンゴの妖精達のバケモノのことだよね? 無の怪人って言ったし。


 俺のイメージでは、無の怪人が、カルデラを配下のように扱っていると思っていた。でも、あの子という呼び方や、彼女のこの雰囲気を見れば、その認識が間違いだったとわかる。


 そういえば、山の神はここで生まれたって、さっき少年二人が言ってたっけ。


 山の神というのは、無の怪人だ。いや、ちょっと待って。無の怪人が生まれたのは、こんな平安時代なの? 

 いやいや、違うだろ、人工魔物が作られるようになったのは、ほんの五十年前、2050年くらいからのはずだ。その後に悲劇の実験が行われたんだから。


 紅牙さんは、無の怪人には、タイムトラベル能力があると言ってたっけ。リンゴの妖精達は、殺されてバケモノになる前に、この時代にタイムトラベルしてきたってこと?


(わからないな……)



「あらあら、悩ませちゃったかしら? リントさん、この時代に来たのは、あの子のためよね?」


 なんだか、カルデラの口調が変わってきた。まるで威圧するような強い言い方だな。


「俺、いろいろと勘違いしていたみたいだよ」


 俺がそう言うと彼女は、キッと俺を睨んだ。まだ何も言っていないのにな。そして、少年二人やそのまわりに居る人達は、ビクビクしているようだ。どういう関係なんだろう。


「何を、かしら?」


「諸悪の根源は、無の怪人だと思っていたけど、彼は、ここで生まれたんですよね? 貴女が作り出した?」


「まぁっ! 私にそんなバケモノを作り出す妖力はありませんわ」


「無の怪人は、ここでは山の神と呼ばれるのはなぜですか? 山の神ということは、守護しているということですよね」


「ええ、あの子は、山の妖怪と親しくしているわね」


「なぜ、そうなったのですか。彼は、ただの怨霊だったはず。それがなぜ山の神なのですか?」


「さぁ? どうしてかしら」


「貴女は、この山ではどういう地位にあるんですか。この霧を作り出しているのは誰ですか」


「私は、すべての頂に立つ者よ。この霧は、妖気よ。人間の怨霊が持つ霊力を妖力に変換しているの。もっともっと大量に人間が死ねばいいのよ」


「この世界を統べるつもりですか」


「さぁね。でも、アナタ達や精霊には関係のないことでしょう?」


(やはり、コイツが諸悪の根源か)


「貴女は、タイムトラベルの能力があるんですね。だから、無の怪人に、その能力を与えた」


「まさか、そんな能力はないわよ。ただ、転移なら、誰にも負けないわね。遠くのものを引き寄せることもできるわよ」


 彼女は、自慢げだ。あー、万年樹の島でのことを言っているんだ。海底都市から、人工魔物の入ったカプセルを引き寄せたのは自分の功績だと言いたいのか。


「入ることを禁じられている千年樹のダンジョンにでも、自由に出入りできるんですね。貴女なら、転移魔法陣をいじることも簡単なんですね」


「ダンジョン? あら、何か禁じているの? 転移魔法陣は出入り口の、あの変な模様の光ね。あー、あれねー」


(ん? 何? ごまかした?)



次回は、6月27日(土)に、投稿予定です。

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