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107、平安時代993年 〜千年樹の若木と山の神

「大丈夫ですか!?」


「あ、あんた、狐がたくさんいるんだ!」


 俺が駆け寄ると、武装した兵は、やみくもに刀を振っていた。でも、さっき見つけたときには、何か小さな火が彼を襲っているのが見えたけど、今は何も見えない。


 そうか、やはり狐って、姿を消すことができるんだ。近寄ると姿は隠れるけど、攻撃は見えるんだな。


「たぶん、そんなにたくさんは居ませんよ。落ち着いてください」


「いや、大量に居る。囲まれているのだ。もう、ダメた、死にたくない!!」


 武装してるのに、この人、気が弱いのかな。俺も人のことは言えないけど。


「みんな孤立させられているみたいです。集合場所に転移木綿さんが居ますから、そちらへ向かってください」


「だけど、どうやって」


「場所は、すぐ近くですよ。わかりませんか?」


「でも、狐が……」


「何をされました? 火が見えたけど」


「わからない。あちこちから火が飛んできたのだ」


「たぶん、それは、まやかしです。俺は、一方向から襲撃されているようにしか見えなかったですよ?」


 俺がそう言うと、彼はやっと落ち着いてきた。


「確かに、気配は……あれ? 気配が消えたぞ!!」


 あー、また、勝手に慌てている。


「たぶん、武が悪いと思ったんですよ。あちこちでみんなバラバラに襲われています。安倍晴明様だけは霧の中だと、転移木綿さんが言ってました」


「何? 晴明様が霧の中? 軽寺に落ちたのか! 大変だ、誰か助けねば!」


(自分が助けに行くわけじゃないのか)


「貴方は、集合場所へ行ってください。安倍晴明様なら大丈夫ですよね?」


「軽寺に落ちたなら、出られない。消えてしまうぞ」


「大原に移動してしまうのでしょう? 彼ならすべてわかっておられるので大丈夫ですよ」


「霧の中では、すべての術が封じられる。式神も封じられるんだぞ」


(それは、マズイかも……)


「俺、行ってみます。貴方は、他の人にも呼びかけて、集合場所へ行ってください。すぐそこにも、一人いますから」


 俺が指差した方向に、やはり刀を振り回す人が居るのを見て、彼はホッとしたみたいだ。この人も、ぼっちが苦手なんだね。


「わかった、兄さんも気をつけてな」


 そう言うと、彼は刀を振り回す人の方へと走り出した。知り合いなんだろうな。



 俺は、次々と、同じことを言って回った。みな、一人で刀を振り回していたんだ。これが、狐の術なんだろうな。


 ということは、狐は、安倍晴明だけを狙っていて、邪魔な兵を混乱させたのかもしれない。


 俺が、鞍馬に行きたいと言ったのは、狐と呼ばれる妖怪を退治するためではない。状況を知りたかっただけなんだ。


 俺は、安倍晴明が、準備をするから待ってくれと言っていたのは、移動手段の準備だと思っていた。もちろん、転移木綿と交渉をして、この場所に運んでくれたから、準備のための時間だったことは間違いない。


 でも、彼は、別の準備もしていたんだ。こんなに大量の兵を連れてやってきたら、普通、討伐目的だと考えるよね。

 地の利がある住人としては、森を荒らされたくないから、先制攻撃をしようと考えるのは自然なことだ。


(兵の同行を反対すればよかったな)


 たぶん、安倍晴明は、狐狩りに来たんだ。俺が一緒だから、チャンスだと思ったのかな。



 目についた近くの兵には、すべて集合場所へ向かうようにと案内を終えた。狐が苦手な場所に行ってくれたら、襲われる心配はないだろう。


(あとは、霧の場所探しだな)


 さっきから、軽寺の場所を探しているけど、わからないんだ。安倍晴明は霧の中だと、転移木綿は言っていたけど、霧は低い位置にしか出てないらしく、見渡しても見つけられない。


 いや、もしくは、隠されているのかもしれないな。彼が乗っていたはずの、転移木綿も見つけられない。


(困ったな……あ、あれ?)


 俺は、霊力の強い木を見つけた。まだ、そんなに古い木ではない。だけど、明らかに、その木の持つエネルギーは段違いだ。


(もしかすると、こういう木が、千年樹になるのかな?)


 俺は、引き寄せられるように、その木に触れた。



『へぇ、面白い人間が居てはると思ったら、万年樹の弟子なんやねー』


『えっ? 弟子というか、万年樹の精霊の使徒だけど』


『キャハハ、弟子どすやん』


(変な話し方……)


『あの、貴方は、千年樹の若木だったりするのかな』


『若木? キャハハ、もう樹齢は百年以上なのに、若木? キャハハ』


(なんか、喜んでる?)


『あの、軽寺ってどこにあるか、わかりませんか?』


『ん? キャハハ、何を言ってはるんどすか?』


『えっと、名前が違うのかな……えーっと、霧が出るとか、その霧に触れると消えるとか、転移の霧みたいだけど、それがある廃寺で……』


『キャハハ、弟子の目は、見えてはるんどすか? 後ろを見てみなはれ』


 俺はそう言われて振り返った。すると、深い霧がかかっている。さっきは何もなかったのに?


『さっきはなかったんだけど、どうして……。あ、貴方が見せてくれているんですか』


『何もしてまへんよ。狐が見せているんでっしゃろ。弟子だから、何もご存知ないんどすなー』


『狐?』


『この山の神だそうどす。狐が連れている妙な妖怪どす』


『妖怪が、山の神?』


『キャハハ、妖怪ではないやもしれませんなー。強い霊力を持つ、とても綺麗な若いお人や』


 妖怪は、妖力だよね? 霊力を持つのは、陰陽師と怨霊と……。ん? もしかして?



 木と話していると、背後にたくさんの気配を感じた。振り返ると、そこには、ニッコニコな笑顔の少年二人と、その後ろにはたくさんの人がいた。


「青空様、遊びに来たの?」


「あれ? キミ達、普通に話せるの?」


「うん、話せるよ。でも秘密なんだよー」


「そうなんだ。びっくりしたよ」


 そう言うと少年二人は、互いにポカポカと殴り合った。ふふ、照れるような話はしてないんだけどな。


「青空様、その御神木と話せるの? びっくりしたよ」


(俺の口調を真似てる?)


「この木が御神木なの?」


「うん、そうだよー」


「でも、この木は、山の神っていう妖怪がいるって言ってたけど。御神木ってことは、この木が神様?」


「うん、神様。あー、山の神は、ここで生まれたから、御神木の加護があるのかも。でも、山の神は、ただの妖精だったんだよ」


(やはり、そうか……無の怪人だ)


「ただの妖精……だった? 今は違うの?」


「うん、今は、狂っちゃった。青空様、助けてあげて」


「えっ?」


「青空様は、山の神より偉いでしょ。リンゴの妖精の若殿なんでしょ」


(若殿……)



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