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103、平安時代993年 〜リンゴの妖精の力

 俺は坊やから、和リンゴの芯を受け取った。


 ほとんど種しか残ってないね。それでもまだ、食べられそうな所があると感じるのか、しぶしぶ渡してくれたみたいだ。


「これは、坊やの木にしようね」


「うん? 木?」


 坊やは、きょとんとしている。俺は、和リンゴの芯にわずかにエネルギーを注いだ。


「どこに植えよっか? いつもは、どこで寝てるの?」


「オラの家は、あの木の皮のところだよ」


 坊やは、橋から少し離れた場所を指差した。大きな流木が打ち上がって、何かに引っかかっているみたいだ。近寄ると、流木を屋根代わりにして、その下に少し穴を掘ってあるのがわかった。ここが、坊やと母親の家なのか。


 その少し川寄りの場所には雑草が生えている。うん、ここが良さそうだね。


「じゃあ、これをこのあたりに植えてみてくれる?」


「うん、わかった」


 坊やは、素手で穴を掘り、食べ終えた和リンゴの芯を埋めている。植えるというより、完全に埋めた感じだね。でも、その方が都合がいいかな。


「できた!」


「じゃあ、川の水を汲んで、ここに水やりをしてください」


「わかった」


 坊やは、家から欠けた陶器のようなものを持ち出し、川の水を汲んで、土にかけた。


「わっ!? えっ?」


 すると、水を吸って、リンゴの種は発芽し、スルスルと成長していった。


「坊や、もう少し水が欲しいって言ってるよ」


「わっ、わかった」


 坊やは、慌てて水を汲み、木の根あたりに勢いよくパシャリとかけた。リンゴの木は、さらに枝を伸ばし、花を咲かせ、そして鈴なりにリンゴが実った。


「うわぁっ! リンゴがいっぱい!」


「ちょっと背が高くなりすぎてるけど……。坊や、木登りはできる?」


「うん、できる」


「じゃあ、気をつけて登って、リンゴを収穫してみて」


 俺の言葉を最後まで聞かずに、坊やはもうリンゴの木に登って、リンゴを取っていた。


「できた!」


「じゃあ、それを食べてみて。さっきのよりは酸っぱいかもしれないけど」


 彼は返事もせずに、かぶりついていた。そして満面の笑みだ。うん、よかった。大丈夫みたいだね。



 それを見ていた大人達は、騒ぎ始めた。だよね、びっくりするよね。


「ワシの木も欲しい!」


 なるほど、この現象の説明よりも自分のものが欲しいのか。まぁ、そりゃそうなるかな。


「じゃあ皆さん、食べ終えた芯を渡してください。種だけでも構わないですけど、芯が残ってる方が成長が早いかな」


 すると、みんな次々と、芯を差し出した。俺はそれぞれにわずかなエネルギーを注いでいった。


 やり方は見ていたらしく、俺がエネルギーを注いで彼らに渡すと、いそいそと自分の寝床へと移動し、植えてるみたいだ。


 どれも、特に問題なく、スルスルと育ち、リンゴの実を実らせていた。




「青空様! ありがとうございます。すごい術ですが、いったいどうなっているのですかな?」


 やはり、お婆さんは気にすると思った。でも、他の人達も、自分の木が育つと、心に余裕ができたみたいで、話を聞こうと集まってきた。


 別に、誰かの木と決めなくてもよかったんだけど、彼らの場合は独占欲が強い。自分専用のものを与える方が、争いにならないと思ったんだ。


 それに、決まった人が世話をする方が、リンゴの木も大切にしてもらえるだろうからね。



「いま、皆さんが食べた和リンゴは、特殊なんです。中洲に自生していたものだけど、新たな品種に改良しました。だから中洲のリンゴはオリジナルです。起源と言う方がわかるかな?」


 俺はみんなの顔を見たけど、ポカンとしてる。やっぱりわからないか。


「中洲のリンゴは、エネルギーにあふれてるので、年中ずっと、リンゴの花が咲き、実を実らせます。中洲のリンゴの種を育てれば、季節に関係なく、花が咲き実が実りますよ」


 わっと歓声があがった。


「青空様、ずっと食べられるということですかな? リンゴは秋のものじゃが」


「ええ、そうです。皆さんに植えてもらったのは、特殊な中洲のリンゴの子供にあたりますからね。でも、全部取ってしまうと、花が咲き実が実るには、ひと月は時間がかかると思います。計画的に収穫してください」


「中洲に行って、リンゴを取ってきたら、もっと増やせるんですか」


「いまは術をかけて成長させました。だから、普通に植えると、収穫できるのは翌年以降になります」


「そうか。でも、たった一年で、リンゴの木は実るようになるのですな?」


 俺はやわらかな笑顔で、頷いた。あちこちから、安堵のため息が聞こえた。


「じゃあ、このリンゴの種を植えるとどうなりますかな?」


 オリジナルの孫ってことか。うーん、それはさすがに、ただのリンゴになってしまうよね。でも、成長は早いかな。


「おそらく、普通のリンゴになります。ただ、実が実るのは普通よりは早いと思いますが、秋だけの収穫になるかな?」


「味も変わりますか」


「オリジナルとは違うと思うけど、皆さんのリンゴの木に実るものと、似た味になると思いますよ」


 ザワザワしてる。あー、リンゴの種を売ろうと考えてるのかな? でも、力のある人に取り上げられてしまうよね。


「おまえ達! これは、秘密じゃ! もし知られたら、土手の上の奴らに、この場所から追い出されるぞ」


 お婆さんはよくわかってる。みんな、ハッとした顔をして、口を閉じた。


「お婆さん、皆さんだけの秘密にすると、ここが襲撃されかねません。リンゴの木は誰の目にも見えますから、実を盗もうとする人が来ると危険です。川沿いの他の人達にも教えてあげてください」


「青空様、確かにおっしゃる通りです。この近くの人達に知らせても、リンゴの木が育つまで一年間は危険ですが……」


「じゃあ、今、知らせてください。まだ、中洲のリンゴはありますから、川沿いにリンゴを育てたい人がいるなら、さっきの術を使って、すぐに実るようにしますよ」


 お婆さんは頷き、近くの若い人の方を向いた。


「おまえ達、すぐに行ってきな。リンゴの木が欲しいなら、青空様がいらっしゃる間なら、成長の術をかけてもらえると説明してくるんだ。そうさな、両隣に、5個ずつ持っていきな。情報料も貰ってくるんだよ」


 彼女に言われ、彼らは二人ずつ、川上と川下へ走り出した。お婆さんはすごいやり手だよね。




「じゃあ、その間に、焼き魚の準備をしましょうか」


 退屈そうにしていた少年二人も、パッと明るい表情を見せた。


「キミ達も、手伝ってね」


 できれば、狐と呼ばれる少年二人が、人間と仲良くなれたらいいんだけどな……。最悪な関係みたいだけど。



次回は、6月20日(土)に投稿予定です。

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