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100、平安時代993年 〜鞍馬から大原

「ない、とは? 軽寺の跡地の情報が残ってないのですか?」


 俺は、安倍晴明に尋ねた。すると、彼は首を横に振った。やはり、触れられたくない話のように感じる。


「いや、だから、存在しないのだ」


「記録がないのではなくてですか?」


 俺がそう尋ねると、彼は頷いた。どういうこと? 存在しないのに、軽寺が廃寺だということは知ってるんだよね?


「場所は、わかる。だが、その場所にはたどり着けないのだ」


「どういうことですか?」


「わからない。霧が深いのだ。そして、霧の中には何もないそうだ。いや、霧の中に入ると何もかもが、なくなってしまうのだ」


 なんだか彼は……らしくない感じがする。プライドが高くて自信満々なタイプだと思っていたけど、歯切れが悪い。


「その場所に行かれたことは、あるんですか?」


「何度も行っている。狐を退治しようと討伐隊にも参加したことがある。だが、霧の中に入った者は二度と戻ってこない。霧をはらっても、何もないのだ」



 俺は、少年二人の方を向いた。彼らは、ビクッとしている。なんだか、かわいそうになるくらい怯えてるんだ。


「キミ達、軽寺の場所を知ってる?」


「あ、あう……」


 二人は、オドオドしている。口止めをされているのかもしれない。確かに、そこが彼らのすみかなら、話すわけにはいかないよね。


 でも、なぜか俺は、その廃寺に行かなければならない気がしている。別にお告げがあるわけでもないけど、なんだか惹かれるというか、引っかかるんだ。


「質問を変えるよ。軽寺に入った人間は、どこに行くの?」


「おおはら」


 彼らは、素直に答えた。こっちの方が口止めすべき内容なのに、わかってないんだね。


「おおはら? 大原か。大原には何があるの?」


「いりぐち」


「その入り口は、どこに繋がってるの?」


 彼らは首を横にふるふると振った。知らないということかな。



「青空殿、大原から比叡の山へ向かう道がある。妖怪が通る道だ。軽寺の霧は、大原へ運ぶ術なのだな。ということは、比叡の山、もしくはその先の湖へと連れ去られたということか」


 安倍晴明の目には、強い光が戻っていた。好戦的な目つきだね。今までわからなかったことを、聞き出せたからだね。


(霧は、転移魔法の妖怪版なのか)


 触れた者をすべて転移させるなんて、かなりのエネルギーが必要だ。その場所は、エネルギーが生まれるスポットなのかもしれないな。


 でも、大原から比叡山を越えて琵琶湖に向かうとは限らない。安倍晴明は、思い込みというか決めつけ癖がある。


 少年達は知らないんだ。大原から先はどこへ繋がるかはわからない。


 俺はなぜか、早く行かなければという気になっていた。もしかすると、さっき彼が会話をした精霊が、俺を急かしているのかもしれない。



「じゃあ、行ってみます。でも、ここからだとかなりの距離がありますね。移動手段は……」


「青空殿が行ってくださるのか!? ならば、すぐに準備をいたすので、明日までお待ちいただけぬか? まもなく日が暮れる。ゆっくり休んでチカラを回復せねば」


「わかりました。では、俺は今夜は宿を……あー、お金がないんだった。俺は、この付近で適当に寝ます。準備ができたら、三条大橋の下に連絡ください」


「は? 橋の下で寝るおつもりか? それならば、私の屋敷にお泊まりください」


「いえ、俺はこの時代の人達のことを知りたい。だから、下から眺める方がいろいろと見えるでしょう? まぁ、お構いなく」


「は、はぁ。では、明日の朝に、お迎えに参ります。この子狐は……」


「彼らをどうするかは、俺の勝手ですよね? 俺が捕まえたんですから」


 たぶん、彼はわかっているのだろう。一瞬、苦々しそうな顔をしたけど、すぐに引き下がった。


 やはり、身分社会なんだな。俺の素性を知らなければ、きっと、こんな風に素直に引き下がってはくれないよね。


 こういうやり方は好きじゃないけど、この時代では、これが正解なんだろうな。



 安倍晴明は、付き人の女性や、ヤスさん、仁助さんを縛る術を解いていた。そういえば、忘れてたよ。


 そして何か少し話をして、ヤスさんと仁助さんも連れて、土手へと上がっていった。ヤスさんが、心配そうな顔をしてくれてる。でも、何かを言われて、安倍晴明についていった。




「さて、キミ達、ご飯食べる?」


 俺がそう尋ねると、少年二人は勢いよく頷いた。俺は、彼らに張っていた重力魔法つきのバリアを解除した。


「何があるかなー。中洲の方には草が茂ってるけど、中洲までは船でもないと行けないかな?」


 俺は、河原を川の方へと歩き始めた。少年二人は、距離を取りつつも付いてくる。もう自由にしたのに、逃げないんだね。それほどお腹が空いてるのかな。


 一方で、川沿いにいる人達は、俺を避けるように道をあけた。さっきのアレコレを見てたんだよね、きっと。



 俺は、川に沿って、橋の下へ向かって歩いた。橋の下には、さっきの乞食達がいる。川沿いの人達よりも、俺は話しやすい。やっぱ、俺は初対面の人って苦手なんだよね。


 少年二人は、ずっと俺の後ろをついてくる。なんだか、彼らの親分にでもなったような気分だね。




「青空様! よかった、生きてる!」


 橋の下に近づくと、母親を助けた少年が駆け寄ってきた。


「ありがとう、坊やも大丈夫だった?」


 俺がそう尋ねると、彼は少し戸惑っているような顔をした。でも、すぐに満面の笑みで頷いた。そうか、気遣われることに慣れていないんだね。


「青空様、ご無事で何よりです。あの、もしや、その後ろに居るのは……狐ではないのですか」


 この橋の下の長らしき、気の強そうなお婆さんが、少し警戒しながら、話しかけてきた。


「お婆さんも、怪我はないですか?」


「おおきに。問題はありませんよ。それより、その……」


 なぜ、狐だってわかるのかな? 俺には全くわからないんだけど。


「なぜ、狐だと思うのですか?」


「耳じゃ。その子供達には耳がない。頭の上にあるからだよ」


 少年二人を改めて見てみると、確かに髪で隠れているけど、耳がないように見える。サーチ能力じゃないんだ。なんだか、俺、難しく考えすぎてるかな?


「彼らは、確かに狐と呼ばれていたけど、貴重な情報を教えてくれたんですよ。今から一緒にご飯を食べようと思うんだ。お婆さん達も、よかったらどうですか?」


「なっ? ご飯……メシなど、私達が土手を上がることはできないですよ」


「ん? この辺で、食料を探しますよ」


「あ、ありません! 何も、隠してなど」


(何? なんか焦ってる?)



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