10、万年樹の島 〜ダンジョン1階層
「とりあえず、夕食にいたしましょう。今夜は皆様の歓迎会を兼ねて、特別に、爺がご用意させていただきました」
「うわぁ〜、見たことないものばかりだ」
次々と運ばれてきた料理に、俺達は釘付けになった。そうだ、地上に降りてまだ何も食べていない。俺は、その匂いでめちゃくちゃ空腹だったと気づいた。
「これらは、この島のある日本という国の一般的な料理です。いろいろと食べてお好みのものを探していただけるよう、バイキング形式にいたしました」
「うぉ〜、すっげー」
王子達もみんな空腹だったのかな。すごい勢いで食べ始めた。俺もいろいろ取って食べたが、どれもなぜだか美味しいとは思えなかった。
爺さんが精霊の使徒だから、ずっとこの島にいるなら……俺は、浮き島に戻れないんじゃないかな。俺も、精霊の使徒だよね。
「リント! 食べてる? また、暗い顔をしてるぞ」
俺が考え事をしていると、ミカトが声をかけてきた。
「うん、食べてる。ありがとう」
「今日はいろいろあったけど、食べて寝たら、明日からダンジョンでレベル上げするよ。俺達が通う高校の敷地にある人工樹のダンジョンが、お食事ダンジョンなんだって」
「お食事ダンジョン?」
「めちゃくちゃ人気あるらしいよ。その高校の学生は入れるけど、一般人は、入場料が高いし、レベル制限があるんだって」
「へぇ、俺達はまだ、転入してないよね」
「うん、でも転入したときにレベルが低いと、一般人に舐められそうじゃん。明日からガンガン上げようよ」
万年樹のまだオリエンテーション階しかいってないから、お食事ダンジョンって言われてもピンとこない。食堂が配置されているのかな?
ミカトは新しいものや珍しいものが好きだから、とんでもなくワクワクしている。あはっ、なんだか俺まで楽しみになってきたな。
食事の後、それぞれの部屋に案内された。
「リンゴ様のお部屋はこちらになっております。部屋の中に、屋敷内の案内図、他の王子達の部屋案内、そしてそれぞれの電話番号を貼ってあります」
「わかりました。ありがとう」
案内してくれた女性は、ぺこりと頭を下げ、去っていった。部屋の扉には、リンゴのマークが書かれていた。ふふっ、わかりやすい表札だな。
部屋の中は、意外にも広かった。
入ってすぐのリビングには10人くらい座れそうなテーブルセットが置いてある。あとはベッドのある寝室と、机や本棚がある勉強部屋かな? それから、クローゼットがある物置部屋もある。物置部屋は少し狭いかな。しかし、一人で暮らすには十分すぎる。
(なんか、部屋が広いとさみしい……)
コンコン!
ドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ〜」
そう返事すると、扉を開けてミカトが入ってきた。
「リント、こんばんは」
「あはは、さっき別れたばかりじゃん。広い部屋で寂しくなった?」
「ん? 広いかな? 狭いと思ったんだけど」
そう言ってミカトは、俺の部屋をあちこち歩き回った。何をしてるんだろ。
「ミカト、どうかした?」
「うーん、部屋ってさー、みんな違うみたいなんだ。俺の部屋、狭いんだよ。バナナも狭いって、俺の部屋を見にきたんだよね」
「それで、ここに来たの?」
「いや、荷物を受け取るのを忘れたなと思って」
「あー、確かに」
俺は、魔法袋のリストを表示した。そして、ミカトの荷物を選ぶと、6個の買い物袋が出てきた。ついでに自分の分もリビングのソファの上に出した。
「助かったよ。明日は早起きだぞ、リント」
「うん、了解」
ミカトは、袋を持って、自分の部屋に戻っていった。また、部屋が広く感じる。でも、部屋の大きさが違うのかな? ミカトは自分のとこは狭いとしか言わなかったけど。
(まぁ、いっか)
俺は、疲れもあって、そのままソファで眠りに落ちた。
翌朝、人々の動き始める音で目が覚めた。ソファで寝てしまった。俺は、シャワーを浴び、身なりを整えた。昨日買った人間の服を着た。動きやすいけど、なんだか慣れないな。
コンコン!
「リント、起きてるー?」
「どうぞ〜」
そう返事すると、ミカトはすぐに入ってきた。昨日買ったカバンを肩にかけている。
「さぁ、行くよ〜」
「えっ? もう行くの? 朝ごはんは?」
「そんなのはダンジョンの中でいいじゃん。早く出かける用意をしてー。今日は、絶対、剣を手に入れようぜ」
「わかった〜」
俺は、魔法袋を装備し、一応昨日買った飲み物と軽食を入れた。重さは感じないから、ある方が安心だよね。
俺達が、万年樹にたどり着いたときには、少し行列が出来ていた。順番待ちのようだ。だが、すぐに順番は回ってきた。
「おふたりのパーティですね。幹に触れてください。スタート階をリーダーが選択してください」
俺達が樹に触れると、スタート階は1階層の表示しかなかった。俺は、その表示を見た。
【1階層が選択されました。移動を開始します】
その表示のあと、俺達は、万年樹のダンジョンの中に移動していた。
「リント、頑張ろうぜ!」
「おう!」
ミカトとハイタッチをして、ダンジョン内を歩いた。足元には、不自然に木の枝が落ちている。
「ミカト、これ、武器だよね? 不自然に棒が落ちている」
「そっか。ないよりはいいよな。剣が欲しい〜」
そして、俺達が棒を何本か拾って歩き始めると、顔のある草が現れた。
「モンスターかな?」
「リントは体力低いんだから無理するなよ」
「うん、わかってる」
ミカトは、顔のある草を、棒で叩いた。すると、モンスターの悲鳴とともに、モンスターはドロップ品に変わった。
「ミカト、俺、ドロップ品集め係をするよ。ミカトは、ガンガンいっちゃってくれ」
「リント、了解〜」
俺達は、ひたすら顔のある草と戦った。これが何かはわからないけど、俺が体力ないから、ミカトはあまり奥には行かないようにしているようだ。
「リント、マズイ!」
「な、何かあった?」
「腹減って、腕が上がらなくなった」
「あはは、じゃあ、ちょっと食べる? 軽食あるよ」
「仕方ないなー、この階層の食堂は、あんな奥だとは知らなかったよー」
ミカトは悔しそうにしながらも、近くの岩に座った。俺は、ミカトに軽食と水のペットボトルを渡した。
俺達は、他の人達が戦っているのを見ながら、手早く朝食を食べた。
「ミカト、眺めるのも参考になるね」
「うん、みんな、あの白いのを狙ってるよな」
多くの人達は、小さなウサギのようなモンスターを追いかけていた。




