表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/153

1、プロローグ

プロローグは、世界観というか背景説明です。少し暗いですし、読み飛ばし可です。

9話目までが説明回になっています。


「さぁ、皆さん、いざ地上へ」


 俺は、精霊ルーフィン様が用意された転移魔法陣へと、足を踏み入れた。


 俺達の見た目は、精霊ルーフィン様のチカラによって、人間の姿に変えられている。


 磨き上げられた床に映った自分のパッとしない姿に、俺は戸惑いを感じた。髪の色は黒く、顔はのっぺりとした印象だ。人間って、こんな地味な顔をしているのかな。


「地上の千年樹には、ダンジョンがあるらしいぜ。今年から人間社会で、レベル制が導入されたからだってさ」


「千年樹のダンジョン? レベル制?」


「地上では、ダンジョンでレベル上げするのが流行ってるらしいよ。春までに、どれだけレベルを上げられるかが勝負だよな。普通の人間より低いと悔しいもんな」


「春から人間の高校に転入するんだっけ?」


「あぁ、その前に、各地の千年樹巡りをしたいよな。王子ってモテるらしいぜ」


「ふぅん」


 地上に降りる緊張からか、俺達はいつも以上に騒いでいた。


 そんな俺達に優しい笑顔を向けていた精霊ルーフィン様が、最後に言った言葉は、俺には、なぜか遺言のように聞こえた。精霊は死ぬわけないのに、変だな、俺。


「皆さん、期限は三年です。条件を満たせば、この島が見えるようになります。もしも何かに迷ったときには、万年樹を頼りなさい。どうか元気で。たとえ会えなくても、あなた達が忘れてしまっても、私はずっと見守っていますからね」





 太古の昔より、この星には妖精達が住むいくつもの島がある。地上に暮らす人間の目には見えない、空に漂う浮き島である。


 今、その島のひとつが、お祭り騒ぎになっていた。今年、地上では、すべての果物が数百年に一度の大豊作となったのだ。


「地上がこれだけの豊作なら、どの国にも王子が誕生するであろう。やっと世代交代の時期が訪れたのぅ」


 フルーツの妖精を統べる精霊ルーフィンは、にこやかな笑顔で妖精達に語りかけた。



 そして、その言葉通り、浮き島のすべてのフルーツ王国では、王子が誕生した。


 この新たな幼い妖精達が成人を迎えると、この島のすべての国で一斉に、世代交代の儀がとり行われる。数百年ぶりの王子の誕生に、島は歓喜に包まれた。



 だが、その翌年に異変が起こった。


 地上では、星の温暖化の影響を受けて、異常気象が続いていた。そして、再び、数百年に一度の大豊作となったのだ。



「困ったことになったのぅ。今年も王子が誕生してしまう国があるかもしれん」


「ルーフィン様、そんなことになれば、後継争いが起こりかねません。ここは慣例に従うしか……」


「そうじゃな。後継争いが起こると国が滅びかねない。もしまた王子が誕生してしまったら、慣例に従い、第二王子には地上に降りてもらおう。だが……」


 精霊ルーフィンは、苦い顔をして呟いた。そして、しばらく目を閉じ、じっと考え込んでいた。


 集まった妖精達は、彼の言葉を待った。


 やがて精霊ルーフィンは、ゆっくりと目を開けた。そして、この場にいる妖精達の顔を、ひとりひとり確かめるように見回した。彼は、やわらかな表情で口を開いた。


「だが、知恵のある者は、この妖精界の発展に必要だ。条件を満たせば、戻ることを認めよう」


「では、知恵のある第二王子が戻ったときには、新たな領地をお与えになると?」


「うむ、領地が増えれば、そのフルーツは地上でも進化発展するじゃろう。戻った第二王子は、そのフルーツから派生して生まれた新たな品種と考え、新たな領地を与えることにしようか」



 そして精霊ルーフィンの不安は的中した。


 今、この島が浮かんでいる下には、日本と呼ばれる島国がある。この国の影響を強く受けた、10のフルーツ王国に、第二王子が誕生したのだった。




 それから時は流れた。


 第一王子は18歳の成人を迎え、世代交代の儀により、一斉に新国王に指名された。これから国王補佐見習いの期間を経て、三年後に、正式に国王の地位を継承することになる。


 一方、第二王子は、生まれた日から精霊ルーフィンの館に使用人として住まわされ、地上のことを学んだ。


 そして、とうとう別れの日が、やって来た。





 俺は、この島で二番目に大きな、リンゴ王国の第二王子として生まれた。一つ年上の兄貴とは離れて暮らしている。


 兄貴は父さんから、帝王学というものを学んだらしい。子供の頃から、自分が王になったときには、もっと国を大きくして、バナナ王国からトップの座を奪うと意気込んでいた。



「兄さんを、俺は人間として応援してるよ」


「何を言ってるんだ。おまえは必ず戻ってこい。リンゴ王国として、領地が広がるチャンスなんだぞ」


「でも、戻っても別の領地だって、精霊ルーフィン様が言ってたよ」


「リンゴの妖精であることに、変わりはないだろ? それに、おまえがここに戻れず、完全に人間になってしまったら、もうおまえとは、何も話せなくなるじゃないか。人間には、浮き島も、浮き島の妖精も見えないんだぞ」


「うん、だから別れが辛くないようにと、俺達は精霊ルーフィン様の館で育てられたんでしょ」


 すると兄貴は、黙ってしまった。兄貴は、言葉遣いが乱暴で野心家な反面、涙もろい。


「まぁ、それなりに頑張ってみるよ。兄貴、いままでありがとう」


 兄貴は、プイッとそっぽを向いた。


 そのとき、ブォーンと、時を知らせる貝が鳴った。


「じゃあ、行くね」


 俺は兄貴に背を向け、精霊ルーフィン様の待つ館へと歩き出した。兄貴が俺を見送っているのがわかったけど、俺は振り返ることができなかった。


 離れて育ったのに、やっぱり別れは辛いじゃないか。俺は……ここに戻ってくることはできるのかな。


(自信、ないな……)



皆様、目をとめていただき、ありがとうございます。

明日は朝、昼、夕、可能なら夜にも投稿予定です。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ