第77話純黒の幕引き(2)
セーフ、間に合いました。
風が、音が、時間が、一瞬死んだ。
そう錯覚してしまった程に、俺の瞳に映る師匠の存在は圧倒的だった。
再び俺の中で世界が流れ始めた時、同じく停滞していた思考が急激に加速する。
それにより、意識が歩みを止めた師匠の胸元辺りへと向かった。
「――ッ」
そこには、師匠の両腕をベッドに眠りにつくレーナの姿があった。
傷が残る体をだらりと完全に脱力させ、死んでしまったかのようなその様に胸が張り裂けそうになった。
微かに上下する胸と、安らかなその寝顔に安堵の想いが込み上げて来た。
けれど、正と負の感情がせめぎ合う中で眼前の現実への理解が今更追い付き、俺の心に真の意味で安心の火が灯る。己の全力を以てしても倒しきれなかった敵がまだ立っていて、更にもう1人、実力の見えない敵が増えたというのに。
理由など分からない。
ただ、この人を見ていると何故か、魂の奥から途轍もない安心感が溢れ出して来る。
「…ぁ」
不意に、声が微かに漏れた。言葉にもならない、しかし、想いの源流のような声。
何故だろう…貴女がとても懐かしい人に見えて、貴女にずっとずっと会いたかった気がして、今度こそ貴女の希望を守れた事が嬉しくて――
「――先、生…」
声は何時しか、突拍子のない言葉へと変わっていた。だが、感情が纏まらず、その先が出て来ない。
「――ッ!?」
声が届いたのか、師匠が一瞬驚いたような顔をした。しかし、直ぐに思考を散らすように頭を横に振った後、こう呟いたのを俺は聞いた。
「はは…これは私も、いよいよ末期だな…」
それは何に対しての言葉だったのだろう。疑問に思うも、それを神父の乱暴な声が塗り潰す。
「オイオイオイ、敵を前にして随分と余裕じャアねェの?」
「?あぁ、そうだったな、悪い悪い。まぁ何だ…少し昔の事を思い出してたのさ、構って欲しかったのは分かるが大目に見てくれよ少年」
「ハッ、勘違いも甚だしいなァ、調子に乗ンなつッたンだぜ俺ァよォ」
「いいや、別に調子に乗ってた訳じゃねぇさ。…それに、過去を省みるってぇのは悪い事じゃない、重要な事だ。自分の失敗に関して言えば特にな」
歩みを再開させながら、師匠は「たった今、それに確信が持てた」と言葉を付け足す。
その体が、クレイムの直ぐ近くまで迫った時だった。
凄まじい速度で奴が掌底打ちを放ち、師匠に直撃する寸前――師匠は消えた。
否、クレイムがこちらを見た直後、振り向くと俺の後ろに立っていた。
動きがまるで見えず、無理解に思考が鈍化する。
しかし、そんな事はお構いなしに、師匠はレーナを俺の前にそっと置いて絆の目の前に手を翳す。
すると、掌の手前に白い魔法陣が浮かび、絆の腹の傷を癒していく。
治療は早々に終わり、立ち上がりこちらへ向き直ると、今度は俺達を庇う様に前に立つ。
静寂の中、顔を少しだけ振り返らせつつ俺達を後ろ目に見た師匠が、一瞬だけ微笑んだ気がした。
だが、その顔は数舜の後に、視線と共にクレイム達の方へ向かった。
「一体何時からだろうな、平穏を不変の物だなんて勘違いし始めたのは…。今でもそれは思い出せねぇが、それを後悔した時の事は鮮明に覚えている。…そして、だからこそ誓ったのさ
『何時かこの枯れぬ涙が枯れたなら、何時かもう一度守るべき物が出来たなら、例え私が私でなくなろうともそれを守り抜こう』
とな」
文月です。
予定通り投稿出来ました。今話は、何だかどこかで見たような文章が出て来ましたが、それは置いておきましょう。
文月が予告していた通り、今年の投稿はこれでラストとなります。
来年も頑張ります!
新しい連載作品も頑張ります!
忙しや忙しや~。
それではまた次回ッ。
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長らく休載しております、次回投稿まで今しばらくお待ちください。【2022年5月25日】




