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クリスタル・ワールド  作者: 文月 ヒロ
第3章闇夜の戦線
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第76話純黒の幕引き(1)

 見上げれば、数多の星と闇を敷き詰めた夜空の中に、淡い白色の光を帯びた月の姿があった。


 ――カラン、カランッ…。


 力の抜けた自分の右手から離れた刀が、音を立てて地面に転がった。

 視線を下へと移らせる。


「……」


 そこには、肘から先を青空のような色の結晶に包まれた、俺の右手があった。

 直後、結晶部分に細かな亀裂が軋む音と共に生まれ…。


 ――パリ―ンッ。そんな音がした瞬間、光となって闇夜に溶けるように消えた。

 今のが第二形態(セカンドモード)だったのだと理解し、俺は意識を正面に向けた。


「う…くッ……」


 一瞬にして襲って来た眩暈に揺れた視界。

 同時、一気に体へのしかかって来た強烈な脱力感に、押し潰されそうになる両膝。

 それらを気合で持ち直させると、目の前に映ったのは酷く殺風景な景色だった。


 何か巨大な生物の顎門(あぎと)によって喰い千切られたように、弧を描いて削り取られた地面。

 跡形もなく消し飛ばされた木々。

 そこは最早、直前まで森の一部だったとは思えない程に変わり果てていた。


「やった、のか……?」


 自然と自分の口から漏れ出たその疑問を含んだ言葉を、直後に切り捨てた。

 技を放つ寸前、既にクレイムの魔力は残り少なかった。

 恐らく俺の攻撃を受け切るのに全ての魔力を使い切ったはずだろう。

 それに、あの一瞬で回避出来たはずがない。


 もし仮に可能だったとして、何故今この瞬間に襲ってこない?


 答えは簡単だ、決着がついたのだ。

 大きく地形の変わった眼前の景色、その奥より立ち昇っていた土煙の中を覗くように凝視する。

 しかし、変化は何時まで経っても訪れない。


「…はは」


 思わず零れた安堵の笑い。





「桐島、君…」

「…?」


 背後から掛けられた声に俺が振り向くと、そこに気絶した絆へ右腕を背中へ回し支えて立つ晶花がいた。もう一方の手は、絆の脇腹を強く押え込み、止血の役割を果たしていた。


「晶花、それに絆…怪我は?」

「私は、大丈夫。それより、どうしよう絆の傷口が塞がらない…」

「不味い、な…。クソッ…治癒系統の魔法覚えとけば良かった」


 しかし、後悔する俺を見て、晶花は瞼を閉じて首を横に振る。

 再び持ち上がった瞼の下には自責の念が浮かんでいた。


「違う、元はと言えば私が暴走したのが悪かったの。それに桐島君、見た感じもう欠片程も魔力が残ってないし。…なら、魔法覚えてたって同じだった…そうでしょ?」

「晶花…」


 お前の所為じゃない、と言いたかった。

 だというのに、無理矢理作ったような晶花の笑みに胸を締め付けられ、そこから先の言葉が出て来なかった。もし今告げたとして、俺のこの気持ちは伝わらない、伝えられない。悟ってしまったのだ、それを。


「…くっ」


 歯噛みする。

 1年前と今日。どちらに対しても目の前の2人に何があったのか、詳しい事は知らなかった。

 けれど、憎んでいたはずの絆を、晶花がこうして心底心配している今この瞬間は何だ?

 幻覚魔法が作り出した偽物だっていうのか?

 違うはずだ、そうであっていいはずがないッ。

 …だってそうだろう、今もなお体に残る脱力感と痛みが、嘲笑混じりにこれが現実なのだと俺に教えかけているのだから。


「ちく、しょう…」



 少しの時間だけでいい、動いてくれ俺の体。

 晶花の言葉を否定する為に、この2人の絆はまだ繋がっているのだと証明する為に…。





 そう願い、思った瞬間だった。




()()()()()()()()()()()……」



 背後から、クレイムの声が聞こえて来たのは。



「な、に…ッ」


 振り向いた視界の奥、未だ立ち込める土煙の中から三日月のような笑みを浮かべたクレイムの姿が現れた。



「まさかまさか、ここまでしてやられるたァ…キヒッ!」


 何が、一体何が起こっているのか…俺にはまるで理解が出来なかった。


「なん、何だってお前が…クレイムッ。最後の一撃は直撃し…したはずだッ、それで、何で立ち上がれる…!?」

「ハッ、見りャア分かんだろ?この通りさァ」


 俺の攻撃に耐え切れなかったのか、神父服の上半身部分は完全に消し飛ばされ、ズボンも所々が破けていた。露になった体は想像以上に肉がなく、肋骨や鎖骨には白い肌が貼り付いているようにしか見えない。そして、俺との戦闘中刻まれた裂傷が痛々しかった。


 不意に奴の左手に微かな変化が起こり、そこへ意識が注がれる。


「ンだァ?勝ったと思ったかァ?ハッ、笑わせる」


 瞳に映ったのは赤い竜の紋章。

 夜という事もあり、今までほとんど気にしていなかった紋章。

 だが、紅色の淡い光を帯び、存在感を増した紋章。


「止まれねェんだよ、俺は、なァ桐島刃…止まれねェのさァ。だから、止めたきゃ覚悟しろォ?殺す覚悟を…体じゃアねェ、心でもねェ…殺すのは、そう」



 それが――クレイムの体中に広がった。


「魂だァッ!」


 体に巻き付くように伸びた竜の紋章が、帯びる光を増し、直後クレイムは自らの体に魔力を纏った。


「は…?」


 思わず、声が漏れた。

 もう残っていないはずの魔力が、何故か戻っていく。

 そして、何より、奴の体に残る裂傷が徐々に塞がっていく。


 分からない、分からない。


 …いや、


「まさか、代償魔法」


 脳裏に過った言葉が、口から漏れた。


「キハハハハハハハハハハハハハッ、ご名答!代償は体力でも、生命力でもねェ、それらの根源たる魂ッ…さァて?代わりに得られる力は如何程かァ!?その身を以て、教えてやるよォ」

「…お前、死――」

「知った事かよォッ。人は死ぬ、何時か死ぬ、なら怖がる事はねェ、惜しむ事はねェ!どうせ全て()()に奪われた、生きる意味なンざ皆無に等しい!それとも止めるかァ?全て出し尽くしたお前が、俺を。キヒッ、希望だ何だと夢見がちなテメェの事だァ、きィっと可能だろうぜェ?」


 哄笑を上げ、俺を見下すように見るクレイムが右の掌を俺に向けた。

 攻撃が――来るッ…。


「キヒッ!」


 掌に集まる魔力を見つめつつ、頬に冷たい物が流れたのを感じる。

 それが冷や汗なのだと、数舜後に気付く。

 不味い、動けない、打つ手がない。


「く…ッ」


 師匠から貰ったあの錠剤は、もう既に二度使った。

 錠剤で魂を守る為の魂力を補い、魂獣の力を引き出しても問題のない程度の耐久力を一時的に得る。…それはつまり、結晶術が行使可能になり、それにより俺の中にある魂力が消費されるという事。師匠はそれを分かった上で使用回数上限を二度と俺に伝えたのだ。…二度で俺の魂力がほとんど底をつくのだと予測し、それ以上は使うと死ぬと言いたかったのだろう。


 もっとも、予想は月喰夜深(つくよみ)に魂力を使った事で少し外れ、錠剤の効果持続時間が大幅に縮められてしまった。


「さァ、これで(しま)いだァ…」


 何が出来るだろう、今この瞬間に。

 何をしたいのだろう、今この瞬間に。


 守る、護る、マモルッ!


 この魂を掛けてでも、カマワナイ、魂獣を――解放シロ!








 ――そう意を決した、直後だった。


「「「…………?」」」


 俺もクレイムも、そして晶花もだろう、()()()に気付いた。


 何か、何かが砕けるような、折れるようなビキバキッという音だ。断続的な音だ。

 その音源が、段々とこちらに近付いて来ている。


 一体どこから?


 しかし、確認する暇などなかった。いや、必要がなかったと言うべきか。








 何故なら、数秒後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「は…?」


 意思に反し、自分の口から声が漏れたのに気付いた後、目の前を通り過ぎた物の行方を追うように視線を左方向に移す。

 そこには何もない。当たり前だ。

 しかし、その何かが通り過ぎた形跡すらも、途中で消えているのだ。

 そう、恐らく木々を薙ぎ倒し進んで来たのだろうその軌跡を描く、直線状の森の破壊跡が途絶えているのだ。


 だが、その困惑も、新たな魂獣の気配が現れた事で瞬時に掻き消えた。


「何だ、あれ…?」


 上空から感じる魂獣の気配に顔を上げると、空から何かが降って来ているのが分かった。

 もしかして、俺の前を通り過ぎたあの白い何かか?

 浮かんだ仮説は現実離れした物だが、それが事実である事を裏付けるように晶花が呟いた。




「まさ、か…いえ、でも、そんなはず…だってアレはレイン君が…」


 何か心当たりがあるのか?

 そう訊こうとして、訊く前に何かが激しい地響きと共に地面へ激突した。


 そして、立ち昇る土煙の中から現れたのは――白銀の髪を持つ少女だった。



「レイ、ズ…」


 晶花が呟くが、俺は例の少女から目が離せなかった。

 不意に、少女が陰鬱そうな声で愚痴を零した。


「はぁ…横着してクレイム、貴方に受け止めてもらおうとしたのが失敗ね。服が汚れたわ、…と言っても貴方は気にも留めないでしょうけど、クレイム」

「レイズ、テメェ…どういう事だァ?」


 レイズと呼ばれた少女を見て、クレイムまでもが驚愕を露にしていた。


「晶、花…あの子は?」

「もう一人の敵よ…く、空間魔法を使って、私が全力を出しても足元にも及ばないくらい強くて、でも…」

「魔法食らって亜空間に――虚無世界(ボイド)に入ったんじゃなかったかァ?どォしてここにいる」


 晶花の言葉を引き継ぐようにして、クレイムがレイズに訊く。

 目深に被った白いフードを取り、レイズは溜め息交じりに呟いた。


「簡潔に言えば、安眠を妨げられたから。要点だけを伝えるならば、えぇ、そうね…予定外の展開を想定外の化け物が作り出したから、…と言えば伝わるかしら?」


 伝わるはずがない回答に、クレイムが抗議の声を上げようとする。

 しかし、それを遮るようにして右から聞こえた、()()()()



「馬鹿を言うな、私が化け物だと?()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 少し乱暴で、けれど、どこか柔らかさを兼ね備えた声。

 聞き覚えのある、ずっと聞きたかった人の声。


 月夜の中、森の闇を抜け悠然と歩きこちらに向かうその人の方へ、俺の視線と顔は自然と向けられた。


 そう、そこにいたのは、



「師匠…ッ」


 詩廼乃銘師恩、彼女だった。


例の如くまたしても投稿が遅れました、文月です。

さて、来年まで既に一ヵ月を切っております。予告にもありました通り、『クリスタル・ワールド』の投稿は12月の中旬までとします。更に詳しく申し上げますと、年内までにあと一話投稿したいなぁ、と考えておりますが…来週の投稿がなければ、次は来年だと思ってくださいませ。


そんな予防線を張っている文月ですが、少し緊張しております。

というのも――そう、以前から申し上げておりました通り、もうすぐ文月は新連載作品を出す予定なのですッ!

連載自体は来年の元日からですが、その前に、つまりこの12月中に【短編】を出したいと思っております。

具体的な日付はまだ未定ですが、12月下旬には確実に投稿致しますので。


…と、言いましても、作品のタイトルをお伝えしていません。伝えないとです。


その前に、またしても予防線を。

※当作品は『クリスタル・ワールド』では頑張って抑えている(つもり)の厨二要素を全開にしております。




では読者の皆様、もし微かにでも興味が湧きましたら、


『第七魔眼の契約者』


という、タイトルからして厨二全開の私の新連載作品が近日公開予定ですのでお試しに読まれてはいかがでしょう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


・面白かったってばよッ!


・やるなーお前、燃(萌)えてきたぞ!


・べ、別にアンタの作品がちょっと良い感じだって思っただけなんだから!勘違いしないでよね!


等々、思われた読者様は下の


★★★★★


となっている所を、タップもしくはクリックして評価してやって下さい。


また、感想もドシドシお持ちしております。


ブックマークも是非是非♪


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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