第70話覚醒の狼煙
【改訂版】をお読みでない読者様に謝罪をッ。ついに【改訂前】の話と辻褄が合わなくなりました。
ので今話の中でそんなシーンあったっけ?と思われた読者様がいるかもです。しかし大丈夫です、【改訂版】の第2話、3話辺りにざっと目を通すだけで今話は理解できます。これからは、あまりこういった事態にはならないと思います。申し訳ございませんでした。
『最後にもう一つ、試練は甘くないのよ』
それは、精神世界でエリアから貰った最後の助言だった。
『試練を受けること自体は、魂獣をその身に宿す人間なら誰でも可能なのよ。でも、アンタってば特殊でしょ?だから、試練を受ける前にまず越えなきゃいけない障害がある。死になさい』
『え…死ッ!?』
『まぁ、というより、死を回避出来ない状況を作るのよ。それでやっと試練が受けられる』
『…理由を、聞いてる時間はなさそうか……』
俺の推測にエリアは頷き、そして言った。
『…えぇ、悪いけど問題はある意味ここからなのよ。試練の内容は完全に口留めされてる。けど、これは言っておく。桐島刃、アンタの魂は常人のそれと同じだから、十中八九試練に耐えられずに―――死ぬ』
『打開策は?』
『魂…正確には魂が生み出す力である魂力。これの代用品となる精神力を用意すればいい。それも強い精神力をね。…でも、それもダメ。多分アンタ、アタシ達の意識に精神が侵食され始めてるから、アンタの素の精神の強さが分からない。…言っておくけど、試練中は基本アタシ達はアンタへのあらゆる干渉が出来ないわ。だからその方法に頼るのは危険』
『って言っても、打開策はそれしかないんだけどね』とエリアは肩を竦めた。
そして。
『だから、心を強く持ちなさい、桐島刃ッ』
一転、刃物のような鋭い視線を俺に向け、彼女は言った。
それは命令というよりは助言と言うべき言葉で。
「―――こういう事かよッ…!」
眼前より迫り来る眩い白光に眉をひそめた直後、気が付けば俺は精神世界にいた。
計画通り、クレイムによって避けられない死を与えられかけ、今ここに飛ばされた。
だからこそ、この後の展開が予測出来る。
何より。
「ぅぐッ……ぁあアッ!」
予想は正しく、俺は―――狂気の熱に浮かされた。
果てしなく、全てガ憎たらしい。
憎い、憎い、憎い憎い憎い―――
「…黙、りやがれ…ッ!」
理由もなく湧き上がる憎悪の感情を、意思の力で抑え込む。
しかし、それとは裏腹に感情の嵐は留まる事を知らない。
憎い、黙れ、憎い殺す、黙れこれは俺の感情じゃないッ。
必死、必死、歪められる想いを正すのに必死だった。
だが、それすら前座だった。
「―――ッ!?しまッ…出て来んじゃッ……!」
突如として、強烈な胸の熱が体から漏れ出し始め、その熱源の正体が何かを悟った俺がそれを抑え込もうとした。
その次の瞬間だった。
熱が蒼白い炎を―――魂力を伴って、一瞬にして俺の体から解き放たれた。
眼前、1つの場所へと集束した魂力。
燃え盛る炎のようなそれの奥で、殺意を孕んだ深紅の双眸が俺を睨み付ける。
「うぅッ、あガァッ…!魂、獣…ッ。ウソ、だろ!?」
狂気に蝕まれゆく精神に苦悶の表情を浮かべながら、俺はその元凶たる怪物に視線を向けた。
驚愕、動揺、恐怖に憤り。
あらゆる感情が強烈な負の感情へと変換されるこの状況で、それらは禁忌ッ…だが、だがだが。
「抑、え、きれな―――ッ!!」
言いかけて、魂獣が俺を喰らおうと襲い掛かかるのに気付くッ。
焦る心。
硬直する体。
泥濘に嵌まったように動かない思考。
それを、直感が追い抜き右手を突き出した。
「…ッ!止、ま…れぇぇぇぇえッ!!」
言いながら、思考が回り理解する。
魂獣には魂が存在しない事を。
その為、宿主たる俺の魂には奴に対する強制力がある事を。
「あァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアッッ!」
声の限りの咆哮が、蒼を纏う怪物の進行を食い止め、しかし止まり切らない。
徐々に、徐々に、徐々にッ、奴が俺との距離を詰めて来る…!
「なん、でッ…!?」
付け焼刃の、それも勘に頼った策。
だが効いている。だというのに、何故効果が中途半端なのか分からない。
「まさ、か……ッ」
脳裏を過る1つの仮説。
俺の心、それはこの試練を乗り越える鍵となる物。
それが今もなお、魂獣に狂わされ続けている。
ならば、自らを押さえ付ける俺の意思の力を蝕めば、奴の勝利は確定する。
諦めては駄目だ、理解している、そんな当たり前の事は。
だが、このままでは狂ってシマウ…ッ。
「ドうすりゃ、いいンだ…ッ」
あき、らめ…ラレナイ。
負け、ラレナイ。
だから。
あらガエ…抗エ、抗え、抗え、抗え抗え抗え抗え抗え―――
『もう頑張らなくたって大丈夫だよ』
「…は?」
柔らかい声と共に、俺の右肩にやさしく手が置かれた。
聞き覚えのある、少女の声だった。師匠のような優しく包み込んでくれるこの声、俺はこの声を今年4月1日に聞いた。
だからその声に、その言葉に、俺は声の主の方へ、吸い寄せられるように顔を向けた。
自身の右側、そこに少女が恐らくいた。
全身に纏う白い光がその姿の詳細を隠しており、俺に見えていたのは少女の体の輪郭だけ。
「君、は……」
誰なんだ?
言葉にせずともそう伝わったはずの疑問に、答えは帰って来なかった。
顔は見えないというのに、少女が笑みでそれをはぐらかしたように見えた。
そして。
『大丈夫、大丈夫だから。ほら、だから何時もみたいに―――私達に全てを委ねて』
ふと気が付き、魂獣の方へ視線をやる。
奴の進行は、完璧に食い止められていた。
『君は、いいんだよ、これ以上の苦しみを背負う事は…しなくていいいんだよ……』
相変わらず優しい言葉で、優しい声だった。
現在進行形で沸き立つ憎悪と激情も、吹き飛んでしまったと錯覚する程に。
歓喜が胸を刺激し、安堵が闘志を弱らせる。
肩に置かれた少女の手がそこから離れ、俺へ手を差し伸べた事がそれを更に加速させた。
だから、俺は彼女の手を―――払い除けた。
『…え?』
少女の言葉か正しいのならば、俺は何度も彼女に…いや彼女達に助けられた。
眼前の魂獣を御する彼女達が、その狂暴な怪物の力を使って。
それはきっと、俺を奮い立たせたエリアも同じで。
でも、だからこそ。
「背負い過ぎだ、気負い過ぎだ、このくらい俺だけで乗り越えられる」
『……』
「それに、これは俺の意地だ。全部、全部欲しい、失くすなんてゴメンだ。だから―――助けなんて邪魔なんだ」
戦う理由を呼び起こし、日和る心を闘志の炎で燃やし叩き起こす。
前へ突き出す右手にその意思を伴わせる。
眼前、見据える魂獣は俺の挑発に怒り怒り、自らを拘束する力を―――振り払った。
「来やがれッ!」
俺の魂の強制力など物ともせず、魂獣は距離を一気に詰めて来た。
そして、俺の右肩に噛み付いた。
「ぅぐッ…!」
魂力の蒼を纏った牙がそこに喰い込む。
痛みはなく、しかし傷口から負の感情が一気に流れ込み喘いだ。
それによって歪められた想いに拍車が掛かったのだ。
『ダメッ…!』
不意に、少女が叫びながら、魂獣の動きを封じ込めようとしたのをエリアが彼女の肩を掴んで止めた。
『邪魔しないで…!』
『邪魔しているのはどっちなのよイインチョ?』
言いながら、エリアは俺に視線を向けた。
『コイツは不完全な適合者、だからアタシ達の勝手に付き合わせる必要はない。…フンッ、ばっかじゃないの?そんなの、許可なくコイツの中に宿った時点で既にそれに付き合わせてるから今更よ。それに、アンタが力を貸しちゃったら試練の意味がない。ていうか、試練中に無理矢理適合者に干渉してんじゃないわよ』
『でも…』
『…はぁ、分かってないわね』
嘆息するエリアは次の瞬間、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
『そう、これはそう、ただの会話。だから、それを適合者に聞かれていたって仕方ないわよね』
先程からの2人の会話の内容が聞こえていなかった俺に対し、わざと大声でそう言い、そのままこう続けた。
『アタシが、アタシ達が選んだ桐島刃って馬鹿は、アタシ達以上に死に物狂いで誰かを助けようとする馬鹿よ。この程度で諦めないし、終わらないッ。そうでしょ!?』
その言葉に、返答など微塵も要らない。
必要なのはただ1つ、どんな言葉よりも力を持つ勝利という現実だけ。
「悪いな魂獣、この…勝負は、俺の―――勝ちで終わらせるッ…!」
沸き立つ黒い感情を、意思の力で捻じ伏せる。
眼前、俺を睨む魂獣へ噛み付いた。
そのまま、吸い取るように、奴の存在を喰らう、喰らう、喰らうッ。そして遂に、喰らい尽くした。
同時、俺の体から発せられる煌々と輝く青白い光。
光が精神世界へ満ち、数舜後に俺は現実世界へ引き戻される。
その瞬間、クレイムの放った魔力の光線が俺を包み込んだ。
「…キヒッ」
土煙を上げる地面、敵の打倒に笑みを浮かべる神父。
しかし、その笑みは一瞬にして崩れ。
「何でェ…生きてやがる、桐島刃ァッ…!」
闇夜の中、俺は悠然と佇んでいた。
最近、自分の文章力の無さにダメージを喰らっている文月です(でも、それが分かっただけマシですよね…よし、頑張ろう)。
前書きで申しました通り、申し訳ございませんでした。何とか誤魔化せないかと思考を巡らせたのですが、やはり無理でした。
それと、もう10月です。ヤバい、今作、全然話進んでないッ!と焦り出しています。今年中にこの章を終わらせたいのですが、ギリギリ間に合うかどうか…。あっ、ちなみに、間に合わなければペナルティがあるとか、そんなのではありません。一応来年も続ける予定なので、次の章の話を脳内で作成中でして、このペースだとその章が来年中に終わるのか心配。それだけ!
実際、早めに【改訂版】も仕上げてしまいたいし、新作も並列して執筆しなければならないし…ホントマズいです。
そんな近況報告は以上で終わりです!では、また次回っ。
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・べ、別にアンタの作品がちょっと良い感じだって思っただけなんだから!勘違いしないでよね!
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