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クリスタル・ワールド  作者: 文月 ヒロ
第3章闇夜の戦線
78/87

第68話和解と打開

投稿遅れ、すみませんでした!

では、お楽しみくださいッ!!


 次の瞬間、変化は訪れた。

 全身からの、膨大な量の魔力放出。

 同時、紫紺色に輝きを放つそれが私を包み込む。

 そして数舜後に魔力は弾け私は纏っていた、圧倒的な量と密度の魔力を。

 着ていた、大空のような色の結晶で構成されたドレスを。

 履いていた、それと同質のブーツを。

 体に絡みつく魔力が僅かな挙動と共に残滓となって残り、それが空気と衝突することによって、私の周囲では紫紺色のスパークが断続的に迸っていた。


「キハハハハハッ!なるほどなるほどォ、コイツが噂の第四形態(ラストモード)ってェヤツかァ?」

「…ウソ、でしょ……?」


 振り向き、後ろで呟いた絆を見ると私の魔力に当てられ、恐怖し、尻餅を付いていた。

 けれどダメ、あぁダメじゃない絆―――もっと無様を晒して頂戴。

 魔力を、高める、更に、更に、更に、更に更に更に更に更に更に更更更更更更更更。

 すると絆は―――


「ぅッ…うぉえッ…………!」


 吐いた。私の魔力が発する圧に耐え切れず、苦悶に顔を歪め、歪め歪め、吐しゃ物で地面を汚したのだ。何たる光景、何たる快感。これぞ愉悦、けれど不足。あぁ憎い、この想いは、どうすればどうすればぁ…―――晴れるの?


「ハッ、まァだ嘔吐の段階じャアねェってのに、もう限界かガキィ?」

「―――?」


 絆を嗤ったクレイム。

 私は振り返る。

 あぁ、そうだ、そうよ、何も私は絆だけが憎かったんじゃない。

 クレイムが桐島君を殺し、レイズがレイン君を殺した。

 レイズは言った、今日の不幸は私が生まれてきたから。

 憎い、憎い、あぁ憎い。

 絆が、世界が、全てが憎悪の対象。


「あ?」

「フ、フフフ…」


 手始めに、この男を、クレイムを殺そう。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


 自身の首に嵌まった首輪を右手で掴み、私はそれを。


「なァッ…潰したァ!?オイオイィ、ソイツァ流石に計算外だぜどうしてくれン―――」


 一瞬にして距離を詰めた私の蹴りが、クレイムの顔面に炸裂。


「フフッ、死ね死ね死ねぇッ!!」


 直後、呪詛を吐きながら私は吹き飛ぶクレイムを追跡。辿り付き、その顔面へ更に踵落とし。

 しかし寸前、彼は斜め上空へ逃げそれを回避。

 着地、ほぼ同時、踏み締め、直後爆ぜる地面。

 クレイムの背後へ瞬時の移動を果たす私。

 魔力を足に集中し、側頭部へ蹴りを―――叩き込む。

 クレイムは体を捻ってこちらを向き、それを携えていた三叉槍で―――防いだ。

 虚空であるはずの彼の足元には、黒い十字架があった。


黒の(ブラック)十字架(・クロス)ゥ…!キヒィッ、どォしたァその程度かそれで満足かァ!?なァ、魂獣(バケモノ)さんよォ。壊せ暴れろ殺せ殺せェ!お前は何を憎んだ何を壊したい、何を、何を、その赤く光る瞳にテメェはどんな光景を焼き付かせてェんだ、さァ言いやがれッ!」

「あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」


 上げる咆哮、裂ける喉は破壊と再生を繰り返す。

 体を侵食していく結晶。高まる魔力。

 あの漆黒の十字架が現れたその瞬間から、膂力も、魔力も激しく減退。だが、些細な事。弱くなったのなら、更に強くなってしまえばいい。

 そうだ、そうッ、抗え、戦え、壊せ、壊せ、私はこの男を……ッ!

 そうでなければ、それを果たせなければ、私が私を私という存在として認め認め、あぁ、あぁ、嗚呼ぁぁぁぁぁぁぁぁァッ!!


「んなァ…!?まだ魔力上がりやが―――」


 言い切る前に、私の蹴りに押されたクレイムは吹き飛んだ。

 弾丸のような速度で彼と激突した地面は派手に爆ぜ、土煙を上げる。

 直後、その土のカーテンを突き破って二条の白い光線が私を襲う。

 考えるまでもなく、あの狂った神父の攻撃。

 しかし、それも身に纏う魔力が壁となり、宙に佇む私の眼前で掻き消えた。


 靴が有する魔導具の効力により、()()()()()()()()()()

 掌を天へ突き上げ、空で佇む私はその上に魔力を集束させる。

 そうして小球と化した魔力の塊を放とうとした、その瞬間。


「ハッ、コイツァ傑作だぜェオイ!ぶちかましたのはァ、第二形態(セカンドモード)黒の十字架(ブラック・クロス)を掛け合わせた一撃だってェのによォ。キハハッ!…流石バケモンだァ、なンて涼しい顔してやがるゥ」


 私の視界の右端に映る、地を蹴り、瞬きする程の時間でこちらへ辿り着いたクレイム。

 彼が纏っていたのは、先程とは比べ物にならない膨大な量の魔力。

 澄んだ水色の結晶に覆われていたのは、彼の両腕。

 その片方―――右手が握る銀の三叉槍の切っ先は、私の眼前で静止していた。


 否、静止させられていた。私の背中右半分から数本生える、手の形と成った魔力の塊によって。

 顔は自然と、おもむろに、クレイムの方へと向いていく。


 ニヤ、ニヤ、ニヤリ、クフフフフフフフフフフフフフッ…。


 先程まで、圧倒的な力を振りかざし、笑い、嗤っていたのは、私の眼前に立つ神父。


 略奪者は往々にして気付かない。

 奪われる側が、どれ程屈辱的な想いで、どれ程恐怖に支配され、怨嗟を胸に秘め自分を見ているのかを。

 絆が私を裏切った時も、レーナさんが私を傷だらけになってまで助けてくれていた時も、レイン君が死んだ時も、そして桐島君が死んだと聞かされた時も私は、本来解き放たれていなければならない自身の内に眠る憤怒を、その激情のままに顕現する事すら叶わなかった。

 そう、彼も―――クレイムもまた醜悪で残酷な略奪者だったのだ。


 だから、殺す、えぇそうよ死ね、死ね、死んでしまえ。

 けれどダメ、その前に思い知らせてやる、この憎しみに燃える焔の温度が如何程か、その魂にまで叩き込んでやる。

 それが出来るのだと考えるだけで、胸が高鳴り、頬が恋に落ちたように紅潮し―――自然、口角が上がってしまうしまうしまうしまうしまってしまうううううううううッ。


「フフッ…!死ね」


 刹那、私は頭上に突き上げていた掌を、クレイムを向けた。

 掌の一寸先、そこに浮く、圧縮され超高密度の魔力の塊と化したその球体を―――一瞬にして前方へ爆ぜさせた。

 紫紺色に輝く極太の光線が、神父の全身を刹那の内に包み込んだ。


 しかし。


「…キッハハハハハヒャヒャヒャヒャヒャヒャッッ!!どォしたどォした、ンなもんかァァァア!?」


 三叉槍も、右腕も失ったクレイムは、だというのに、笑っていた。

 狂った?狂った?それ程に恐怖を味わった?いィ、いィ、それはいい事この上ないィィィィ!


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!アッハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!」


 笑った嗤った私は笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑wwwwwwwwwwwwッ!

 もっと、もっと、さっきと同じ一撃を一撃を一撃をwッ、数十発放っアァァァぁぁwwぷくッハハ!?△ウケ笑□#@?狂〇四肢$p死屍*死死キャハッ#+☆ヒャッハー△○\(◎o◎)/!―――ッッ(笑)


「…フフ、ハハ、ハハハ………ハァ~…」


 天ヲ仰ぎ、私はァ自分でも分かる程に恍惚な笑みを浮かべた。

 猛烈な攻撃の果てニ、ボロ雑巾となったクレイムが大地へと落ちてイク。

 勝った、刈った、最高大興奮ッ。

 …ケレど、その強烈な愉悦は、水滴が炎の熱で蒸発するように一瞬にして渇いた。

 実際、私を苛んでいたのは炎…イや、焔に他ならなかっタ。憎悪の焔だ。


 まだ、まダマだまだまだ、私は―――壊し足りなイ。


 全て、全てガ憎い。

 だからこソ、憎しミ殺し壊し終わらせる為に、怨嗟に身を、心ヲ、魂を委ねろそうだ森羅万象を厭悪(えんお)シテシしまえェッッ!!


 私ノ四肢が、胴ガ、胸が、髪ガ既ニ完全ニ結晶で覆ワレ、それは顔面にまで到達しようとシてイタ助けてフフッ。

 尚も上昇を続ケル保有魔力ノ最大値。

 フフフフフフハッ、サァさぁさァッ!真の意味での()()の時は来タ助けて全て壊すッ!










「―――もう、止めようよ晶花」


 不意に、ワタシを呼ぶ声ガ聞こエタ。

 地上を、オモムろに見下ロす。

 ソコに立ってイタのは絆だった。


「あぁ…最悪、足、震えてる…。けど、退けない、退かない、数ミリだって逃げてやらない。…第一形態(ファーストモード)


 突如、絆の体カラ放たレる魂獣の気配と大量ノ赤い魔力。

 トは言エ、ワタシから見レバ微々たる量の魔力。

 ワタシの前ニ立ちハダかルのね絆、助け殺す死ネ恐怖の中デ。

 右手ノ上に、魔力を集束し始メル。


 ケレど。


「縛れ」


 絆のソノ一言の直後、カノジョの眼前に生まれた魔法陣ヨリ、赤ク輝く魔力の鎖が射出。

 ソれが私の胸の中央ニ刺サッた。


 ―――ドッ…クンッッ!!


 数瞬後、ワタシの全身に衝撃ガ走った。

 強マッテいた魂獣(ワタシ)晶花(わたし)の繋がりガ、止マッタッ…?

 マズイマズイマズイマズイ、このコイツ殺殺殺すゥゥッ!!


「あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!」


 胸ニ刺さッタ鎖を、両手で引き、引き…千切れない…ッ!?

 馬鹿ナ何故どウシて理解不能。

 その疑問ヲ解消しタのは、おもむろに前進し始メタ絆だった。


「無駄だよ晶花、その鎖を破壊出来る人には縛りを付けてるからね。…鎖は()()()()()()()()()にしか壊せない。もちろん、それにも限度はあって、私程度の魔法だと壊されるのは時間の問題。だけど元凶を断てばもっと早く片が付く―――そう考えると思ったよ」


 途中、私ハ魔力の塊を絆に投げ付ケタ。

 しかし、ソレを紙一重のタイミングで彼女ハ回避。


 魔力弾は地面ニ衝突し、爆ゼタ。


 直後、背後ニ魂獣の気配を感ジ振り向ク。

 ソコにイタのは絆だっタ。

 僥倖、僥倖、止め殺す憎憎死ねェッ!


 ―――グチャッ。


 私の右手は、絆の横っ腹を貫いて…いタッ……!?

 手ヲ腹から抜イタ、デモどうしよう、何故、私は…ッ!?

 いヤ、違ウ。コレは私が望ンでした事ダ、そうだソウにキマッテいるゥ!!


「…ゴホッ、ゴホッ……()()()と同じ顔、ゴホッ。でも、そんなに置いて、いか、れるのが心配、なら……」

「―――っ!」


 絆ガ私を抱き締メタ。


「放、しテ…」

「やだ……」


 ヤメロ。


「キ、ライッ…嫌イなのヨ貴方がッ」

「そう、だね…」


 やメロ。


「一年前、私ヲ…私を裏切っタ。一人にシタ。犠牲になるフリでヨカッタ。ナノに、なのニなのになのにィッ!…だから貴方ガ嫌い憎い憎い憎くて堪らない殺してヤルんだ…!!」

「うん、そうだよ、私はそう思われて、当然の事を、した…。ごめん、なさい。ゴホ、ゴホッ…だから、晶花に殺される、なら…文句はないよ私……」


 やめろ、止めろ止メテ…そんな優し気な目デ私を見るナ。

 ごぼごぼト、赤黒い血反吐を唇の隙間カラ流しナガら喋る絆は、途端、『でも』と歯を食い縛ッて私を睨み付ケタ。


「お前には…お前には殺されてやらない―――魂獣!」

「……ッ!?」

「さっき、確信し、た…。今、私を憎んでる晶花は、魂獣に心を支配されて、いるッ」


 核心ヲ衝かれた、離れなければ、離れようとして離れたがラナクて離れなくテ…アレ!?

 どうして、何故、離れろカラダッ。


「き、こえてる…晶花?さっき、言ったよね、もう逃げない…って。私、逃げないよ、守るよ、出来るかなんて、関係ない…。レイン君、に、言われて気付いたから。晶花の想いとか、可能か不可能とかは考え、ない…だって私が、それをしたい、一年前の後悔も、もう、したくない」

「……きず、な………ッ」

「ねぇ、しょう、か…晶花ッ、聞こえてるんでしょ戻って来て、お願い、お願い…お願い、だ、から…ッ」


 ここ、ロが…震えた。

 何故、絆を、殺シたい程憎んでいるのに…。


「どれだけ嫌われても、どれだけ時間が経っても、わた…私は、もう一度ッ、ともだちになり、たいん、よ……ッ」




「―――ッ!」


 次の瞬間、顔の大半を覆っていた結晶に大きくひびが入っていく。


「―――ッ!」


 それは全体へと波及していき、直後。


「―――ッ!」


 ―――私を包む結晶全てが、砕け散り、光となって消え去った。


「……よ、かった…しょう、か」

「…絆」


 上目遣いで自身を見る絆を見て、私は呟いた。

 魂獣に乗っ取られそうだった私の魂は、寸前のところで救われた。

 絆が、私を助けてくれたのだ。


「…絆、どうして……馬鹿っ、馬鹿っ………」


 理由は分かっていて、それが嬉しくて、でも…辛くてッ……。

 だって、絆の傷は治っていなかったから。


「何で、この程度だったら、治るはずなのに…」

「はは…しょう、かを引き戻すのに…魔力全部使っちゃった」


 直後、私の胸に刺さっていた鎖が掻き消え、絆の第一形態(ファーストモード)も解除された。

 涙が流れ始め、数舜後に、強烈な脱力感が私を襲った。

 魂が限界以上に疲弊したんだと理解した。

 魔力も筋力も、体力だって残っているはずなのに、根本である魂の修復材料として、それらほぼ全てが急激な速度で使われ消失していく。

 行使可能な微々たる魔力では靴の魔導具の能力が上手く機能せず、絆を抱える私は落下を始めた。

 もっとも、全く機能しない訳じゃなく、触れれば直ぐに崩れてしまう脆い足場が落下中、生まれては壊れてを何回も繰り返した。


 落ちる速度が軽減され、私達は死ななかった…いや死ねなかった……。


 ―――魂獣の気配がする…。


 絆のでも、ましてや私のでもなかった。


「…どう、して……死んでないのよ」


 闇の中を、不気味に、悠然と歩き、こちらに近付いて来ていたのは―――クレイムだった。

 私が、殺したはずで、そのつもりだった。

 けれど、それはやはり、そのつもりでしかなかった。

 クレイムの、狂気に満ちた笑みが私の瞳に映る。


「キハハハハハハハッ…、どォしてだァ?そりゃ当然だ、結晶術ってェのはそォいうもんなんだからよォ」


 違う、それにだって限度がある。

 数分前までの戦闘以前に、あの狂った神父は数回の戦闘をしてきた。

 魔力が残っているはずなんて…。そう考えた数秒後、気付いた。


 恐らく、いや確実だ。

 クレイムは、魔力を温存していたのだ。


 でも、どうやって…?無理解に苛立ち、狂った神父をキッと睨み付けた。


「?あァ…どうやらもっと、噛み砕いた説明をご所望らしいなテメェは。だァが、話はそう難解ってェ訳でもねェぜ?―――虚無世界(ボイド)…ってェ言やァ分かるはずだァ」

「……まさ、かッ…!」

「キャハッ!そうさァ、俺様を救ったのはソレだぜェ!?緊急用だとかレイズの野郎に言われて、数枚の魔法札を渡されてよォ。必要ねェたァ言ったが、予想外にも全使っちまったァ。ま、つッてもよォ?実際数発喰らってそこそこダメ―ジがあった訳だァ」


 言いながら、クレイムは笑っていた。まるで私の存在自体を嘲笑うかのような不敵な笑みだった。


「…に、してもよォ、予備があるたァ言っても首輪を一つ壊され、データもまともに取れずに実験は一時中断。おまけに、レイズの遮断結界破壊しよォとしてやがる野郎がいると来たァ。言われた通り、その野郎にャあクリスタルモンスター5体を差し向けてやったがァ…ハッ、こりゃ失敗だァ、要仕切り直しの要準備だァ!」

「……そう、私達は見逃してくれるの?ほら、実験対象の人間は少ないし」

「ハッ、レイズの奴から聞かなかったかァ?テメェらはどうあろうと死ぬ。まァこの場合、実験は失敗だからなァ。キヒッ、死ぬのは、その原因を調べるだとか言ってクルイトの野郎に魂を弄られてからだろォよ」

「ふふ…そう言えば、そんな事言われたかもしれないわ。でも、そう…アレはそういう意味」


 レイズに濁された、私達の殺され方を知り、私は乾いた笑み小さく浮かべた。

 絆を見る。失血と痛みからか、私の腕の中で彼女は意識を失っていた。


「あァ…痛たいィ、心が痛くて仕方がねェ…。残酷にも肉体に死を与え、痛みを加え、苦しませ、更にそれが終われば魂を取り出し、凌辱し、冒涜し、殺し…あァ、あァ、世界はなんてェ無慈悲なんだろォな?―――キヒッ!だから、せめて、死の瞬間の痛みと苦しみだけは取り除いてやろうじャあねェかッ!」


 戯言を(のたま)いながら、既に完全に再生した右手を私達に突き出し、その前に魔力を集束させるクレイム。


「キヒ、キハハッ!」


 絆、きっと聞こえていないだろうけれど、声にも出さないけれど、それでも私は言いたい。

 一年前、私は確かに貴方を恨んだ。でも、今なら分かる、アレはただの八つ当たりだった。


「さァ、さァ!祈りの時だァッ。天にましまス我らが()よォ、願わくばこの弱く愚かで無知で哀れな娘達に、苦痛なき死をォ」


 本当は悔しかった。絆も私自身も守れるくらいの強さがなくて、それがあれば何もに問題なかったのに…。そして同時に、あの日以来、貴方が遠ざかって行ったのが言葉では語り尽くせない程に寂しくて…。


「与えェ…」


 だから、ごめんなさい。

 だから、貴方が再び私に歩み寄って来てくれて嬉しかった。

 だから、もう素直になっていいよね私。


 ―――絆…私ともう一度、友達になってくれますか?


「キヒッ、たまえェエッ!」


 次の瞬間には、あの狂った神父の白く輝く魔力の塊は私達に牙を剥くのだろう。

 仕方がない、もう打つ手はないんだし、絆とも仲直りの直前までは行けただろうし…。


 …そうやって、心に言い聞かせたのに、私は望みを捨てられなかった。


 きっと、昔師匠に言われた言葉が悪いのだ。目の前が真っ暗でも、それでも未来を信じて足掻け…そんな言葉の所為に決まっていた。


「……けて…」


 だから、無駄だと分かっていても、その言葉の続きの通りにしようとする自分がいた。

 あの時師匠は言った。『まぁ、それでももう駄目だって時は、頭の中で一番先に思い付いた奴に頼ってみな?』


「…す…けて…」


 あり得ないと分かっている。もうその人は死んでいるはずで、だから、よりによって何で()なんだと自分で自分に呆れた。

 これも師匠の言葉が悪いのだ。


『大丈夫、きっとソイツが何とかしてくれるさ』


 最後に言った、そんな駄目押しの言葉が絶対悪いのだ。


『だから、精一杯叫べ』


 でも、それが妙に本当のように感じられたから、私は―――










「―――助けてっ、桐島君ッ…!」




 白く輝く魔力が私達を包み込む。


 その寸前。


 黒い影が、眼前に現れ。


 直後、白光(びゃっこう)()()()()()()()




「う、そ…なんでッ……」


 私の両脇を駆け抜けた光の攻撃。

 その通路は抉れ、土煙を上げていた。


 やがて、視界が開けると、目の前に佇む影の正体が月光に暴かれた。




「悪い、遅れた―――もう、大丈夫だ」






 私の視界の先にいたのは、桐島君だった。



今話の最後、かなり初めの頃から書きたかったシーンを書けました文月です。でも結構ありがちなシーン?なんて思いながらも、大満足です。とはいえ、多少修正は必要かもしれませんが(推敲の意味の無さッ)…。

さて、今回は校長先生の話のような長話になる前に後書きを切り上げましょうッ!

がッ、しかし、同時に今回はより強く言います!!!!!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


・面白かったってばよッ!


・やるなーお前、燃(萌)えてきたぞ!


・べ、別にアンタの作品がちょっと良い感じだって思っただけなんだから!勘違いしないでよね!


等々、思われた読者様は下の


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また、感想もドシドシお持ちしております。


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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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