第66話実験
どこからか、悲鳴が聞こえていた。
それが無意識に自分の口から出ているものだと、私―――結野晶花は気付いた。
レイズが作り出した虚無の空間が、私を庇ったレイン君を引き吊り込んでいく。
彼の手を掴みたいのに、体が鉛みたいに重くて動けない…。
第三形態を使った反動で魂と体が疲弊している所為だ。
「…分かってる、そんなの分かってる。…けど、けど…動いてよッ……!」
無力感……。黙ってレーナさんが傷付くのを見ているだけしか出来なかった時、あの狂った神父の男を相手に戦った時。それ以前に、1年前絆と共に誘拐された時にも感じたあの無力感だ。
今度は大丈夫かもしれない、助けられるかもしれない。
…そう思ったのに、結果は同じ。
また、守れないまま、きっと失ってしまう。
涙が零れた。
悔しかった、辛かった。
自分が、哀れな道化に見えて仕方がなかった。
「晶…花ッ…!」
地面に激突しかけた私を、絆が横から飛び出し受け止めた。
そして、私を抱き締めながら、勢いのまま絆は巨木の幹に背中を打ち付けた。
「ぅ、ぐッ…晶花…だいじょ―――」
「…け、なきゃ…助けなきゃ…ッ。私を庇って、見てたでしょ…レイン君が…」
絆の腕を振りほどいて、重い体を引き摺り前へ進もうとする。
諦めてしまいたくなかった。それが、無力な私に出来る唯一の事だったから。
けれど、本当は知っていたのだ。
「もう、遅いわ貴方」
私の目の前に降りて来たレイズが上空を指差した。
その方向を見ると、虚無の空間への入り口が完全に閉じ切って跡形もなく消えていた。
もう助けられないのだと、認めざるを得なくなったのだ…。
「さぁ、計画を―――実験を始めましょう、と…言いたいのは山々だけれども、無理ね」
レイズの体は、半分以上が凍り付いていた。
「青髪の彼…レインだったかしら?彼の魔法の効果で、もうじき私の全身は氷結する。計画はクレイムに任せるとするわ。貴方達とはここでお別れね」
「…そう、結局全部無駄だったって訳ね。…フッ、私達が何をしたっていうのよ……!」
「いいえ、何も。ただ、この世界に生れてしまった事が原因らしい原因かしら」
「…罪の意識は、貴方達にはないの……?」
私がそう聞くと、レイズは一瞬きょとんとした表情をした。
けれど、次の瞬間には表情を戻しこう答えた。
「そんな事考える必要…あるかしら?これまでに数えきれない程の罪を犯したというのに、これから数えきれない程の罪を犯すというのに、そして私には何よりも優先すべき目的があるというのに。そんなモノに一々囚われていたら、本末転倒じゃないの貴方」
「……ッ!どうしてそんな風に考えられ―――」
「キヒィッ!ンなの決まってンじゃねェか、その女クールぶっちゃアいるが頭の方は相当イカれちまってんだからよォ?」
会話を遮るように神父服の男―――クレイムがレイズの後ろから現れ言った。
私は驚愕に目を見開いた。
クレイムの顔や服を赤い血が濡らしていた。
「心外よクレイム。貴方みたいに狂っているんじゃないわ、優先事項を1つに絞っただけでしかないのよ私」
「キハハッ、そーいうのを世間一般に狂ってるッつーんだよォレイズ。…で、どォしたァ?テメェ程のバケモンが、まさかあの程度のガキどもに負傷させられただなんて言いやしねェだろーな?」
「いいえ、あの子達じゃなく…レインに―――ただの人間にしてやられたわ」
「ハッ、いいぜ、いいねェ、そいつァ今世紀最高の傑作だァ!今どこにいやがンだァ、その野郎は?」
「虚無世界に入れたわ…後は、言わなくても分かるわよねクレイム」
「チッ、つっまんねェ…」
けれど、とレイズは言って言葉を続けた。
「彼曰く…桐島刃という人物が、この状況を覆す可能性を持っている…らしいわ」
桐島刃、その単語に私は途轍もない程に嫌な予感を覚えてしまった
確か、彼はクレイムを足止めしていたはず。
だというのに、クレイムはここにいて…誰かの返り血を浴びていた……。
何より、その台詞を聞いた瞬間、クレイムが嘲笑うような表情を見せたのだ。
「あァ…その心配は無用ってもんだぜェ?何せ、キヒィッ…アイツは俺が殺したァ!」
「うそ……ッ」
掠れた、私の声だった…。
彼も、桐島君も死んだ。
信じたくなかったけれど、現状を見て納得してしまえた。
「そう…でも、気を付けなさい。さもなければ私みたいになるわ」
「はンッ、この状況で俺がどうにかなる方がおかしいだろーが。…まァ?実験の結果次第じゃそれもあり得るかァ」
「あと、どうやら…結界を壊そうと、している子がいるから…クレイム貴方、クリスタルモンスターを…数体、放っておきなさい……んぅ、眠くて怠いわ…。じゃ、私亜空間で休むわ。死にはしないみたいだし、快眠出来そうよ」
そう言うと、レイズは魔法で亜空間とそこへ続く穴のような入口を作った。
直後、お凍り付いていく体を無理矢理に動かし、その中へと入り消え去った。
「チィッ…仕事押し付けやがって。まァいい、ここまで来たんだ、何もしねェってのも馬鹿らしいしなァ…」
異様な程に口角を上げ、狂った笑みを浮かべながらクレイムが私達に近付いて来る。
「そーいやァ、殺される理由は聞いたか?レイズの野郎のこったろーから、どうせ話してもいやしねェか」
「…実験、でしょ……?」
「正確にゃ人体実験だァ。もっとも、被験者は魂獣を宿す人間だがよォ。キヒィッ…なァ、知ってるかァ、魂獣ってェのは他人の魂喰ってる間に限って、宿主の魂への侵食具合を弱めンだぜェ?」
言いながら、クレイムが懐から首輪を取り出した。その中心には大きな魔石が埋め込まれていた。
「この首輪を使えば、他人の精神に干渉し操る事が出来るゥッ。当然、魂獣の力も出せる仕様だァ。…キヒィッ、さァてここからが問題だァ!テメェを操って魂をどンだけ喰わせりゃ、力を引き出す時、魂獣の魂への侵食を完全に抑えられるゥ!?」
「ま、まさか…」
おもむろに、クレイムが私に近付いてくる。
「答えは、実験してみねェ事にゃあ何も分かンねェ…」
「やめ…ッ」
そして、私の胸倉を強引に掴み。
「―――さァ、実験の始まりだァ!!」
私は、首輪を首に嵌められた。
夏休み効果?のお陰か【改訂版】のPVの伸びが凄くて驚きました、文月です。
次回の【改訂版】は戦闘シーンなのでお楽しみにッ。近日中に出したいです、頑張ります。
それでは、また次回!
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