第63話秘策(2)
辺りを支配した一瞬の静寂。
晶花は人差し指でレイズを指差した。
「実力に差があるのは知ってるわ。貴方の中の魂獣の気配くらい感知出来てるのよ。その異様に強い気配くらいは。…でもね、ここまで力に差が出来るなんてあり得ない、おかしい」
イラついた様に晶花は言葉を吐き捨てた。
「師匠も強いけど、貴方ほどじゃなかった。…本当は、やろうと思えば私なんて直ぐ殺せるんでしょ?けれど、何かの目的があってそれをしないだけ。目的は聞かない、でも、どうして貴方がそんなに強いのかくらい教えて…ッ」
「……なるほど、どうも話が噛み合っていないと思ったらそういう事だったのね」
納得顔のレイズは、少し気怠そうに言葉を続ける。
また同時に、攻撃準備の為か魔法陣の構築を始めた。
「…正直、教えるなんて行為、無意味だと思うわ私。きっと、多分、恐らくだけど、絶対貴方は得た知識を有効活用は出来ないもの。それだとただ貴方の知識欲を満たすだけになるし、私にメリットらしきものもない。時間の無駄よ…と、貴方の要求を断るわ」
「へぇ、夜中に人を攫った対価としては安いくらいだと思うんだけど?」
「…はぁ、鬱陶しいわ。さっきの青髪の彼と選手交代してから、私興が冷めて削がれて、だから早く終わらせたいのに。仕方ないわ、じゃあ1つだけ…魂獣の力は強化可能よ」
言って、レイズは魔法を放った。
「空間凝固」
「……ッ!」
「無理よ、動けないわ。だって、貴方の周囲の空間を固めたんだから。あと、知らないようだから教えてあげる、空間魔法を操る人間の武器は周囲の空間全てよ」
身動きが取れなくなった晶花。
そんな彼女に近付くレイズは、虚空から手錠を取り出した。
「私言ったわ、貴方は今は死なない。拘束された後、私達によって利用されて死ぬの。クルイトの実験、あとは…えぇ、知らない方が良いわね。どうせ、知る前に死ぬんだから貴方」
しかし。
「…し、ね…ないッ、死な、ない!」
晶花の全身から溢れ出す膨大な紫紺色の魔力が、レイズの魔法を―――破壊した。
「魔力を、想いを、魂を、結べ。結べよ結べ―――第三形態ッ」
まるで、魔法詠唱のような言葉の後、晶花が放出する魔力量が更に上がった。
直後、彼女がレイズを一瞬にして蹴り飛ばした。
流石と言うべきか、やはりレイズは尚も涼しい顔をしていた。
もっとも。
「……概ね、計画通り…なんだよね…?えと…」
不意に聞こえた声に、声の主―――勝煌絆の方を俺は見た。
「レイン・バレット、レインでいい。目覚めたみたいだが、具合は?」
絆にそう言うと、彼女は首を縦に振って『大丈夫』と答えた。
そして、俺の掌の上に浮かぶ魔法陣を見て尋ねて来た。
「魔法は勉強してるから分かる、それ…代償魔法でしょ。しかも、晶花には教えてない」
「あぁ、晶花には時間稼ぎを頼んだ、それだけを頼んだ」
「でも、あれじゃ…」
「長くはもたない。…それでいい、欲しかったのは少しの時間とレイズの隙。後者は晶花が作る手筈」
それに、と俺は続けた。
「代償魔法と言っても、命や体の一部を捧げる訳じゃない。言わなかったのは、それを晶花に説明してる時間がなかっただけ」
「…優しいんだね。晶花、ああ見えて繊細だから、多分中途半端な説明だと責任感じちゃう。良かったぁ。あの子、いい友達…出来たんだ……」
絆は嬉しそうな、しかし、悲しそうな顔をして呟いた。
彼女が何を背負っているのか、俺には少し分かる気がした。
同じだ、同じように何かの罪を背負っているのだ。
そして、それは恐らく晶花への物…。
大切な存在への物。
だったら、俺に言える事は1つだけ。
「他人事みたいに語るな」
「…え?」
「晶花に何か負い目を感じているのは見ていて分かる。だが、大切な物なら、そうだと叫べ。嫌がられても、自分が大切だと思うならそれを信じて貫け、動け、守れ。…まだ、失ってすらいない内から、その想いを放棄するな」
母を失った、罪は贖えないまま、守る事すら出来ないのは辛い。歯痒い、悲しいのだ。
だが、大切だったのは変わらない。
そして、今度は失わない。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!」
ブーツのような結晶に満ちる魔力の光と共に、晶花が虚空を踏みレイズの元へ瞬時に移動。直後、蹴りがレイズに蹴りが炸裂しかけ―――それを躱された。
しかし、更に空を蹴り、彼女の頭上へ斜めに跳躍。
ほぼ同時、踵落とし。
「空間凝固。…そういえばその靴、青髪の彼のかしら?」
「……えぇ、お陰で足場のない場所で戦えたりこんな突飛な動きが出来たわ。もっとも、全く効いてないみたいだけど…ッ」
余裕をアピールするように軽口を叩く晶花だが、かなり無理をしているように感じられた。
そろそろ限界が近そうだと、俺が考え始めた時だった。
「―――次元断絶」
レイズが魔法を放った。
「…ぶなッ!」
攻撃が直撃する寸前、晶花は超スピードでそれを回避した。
「けれど、速いだけじゃ無意味よ貴方。次元断絶」
背後に瞬間移動したレイズに気付いた晶花は切り裂かれ―――なかった。
「……いくら強力な魔法でも、魔力で押し返せば意味はない…ッ。相手を舐め過ぎたわね」
脂汗を搔きながら、晶花がレイズを挑発した。
しかし。
「けれど、本気を出す程でもないわ」
レイズの言葉に、俺は嫌な予感を覚えた。
何が、とは具体的に言えない。分からない。
だが、これは断言出来る。
不味い。
「―――虚無世界」
文月です、文章量が戻って来ましたね。本当は今回でレイン回を終わらせたかったのですが、力及ばず、というより短編に力を注ぎ過ぎました…。あ、そうです、短編の告知をしましょう。今日中に新作短編を出す予定ですので、ぜひご覧ください。内容を?いいえ、小説情報の所に恐らく書かれているであろう『短編の文字数』をです。…一応先に白状しておきます。最初は、最初は、遊び半分だったんです刑事さん…ッ。という事で、ホラー企画に乗っかった結果やらかしましたです、はい…。
閑話休題。
それでは、【修行】開始だぁぁあッ。ので、次回の投稿は次の木曜日、予定ッッ!
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