表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリスタル・ワールド  作者: 文月 ヒロ
第3章闇夜の戦線
64/87

第54話裂く刃と黒の十字架

投稿の遅れ、申し訳ございません!

「あぁ、悪いな…。どうにも俺は、ただの人間じゃなかったらしいッ」


 鳴り響く鋼鉄と鋼鉄の衝突音を両耳に、俺は相対するクレイムを睨み付けて言った。


 刹那、俺の突き。

 三叉槍で受け止めた奴は後方へ跳ばされた。


「チィッ…!」


 砂利の混ざった地面を靴裏で引き潰し、その勢いを殺したクレイムが俺を睨んで舌打ちする。


「なァるほどよォ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あぁ、何とも悲しい事に、お前とまともに殺り合える可能性があるのは俺だけだからな…」


 刀をおもむろに奴に突き出し、俺は言った。


 さっき飲んだ錠剤が、魂を保護し、魂獣の侵食を防ぐ。

 いや、厳密に言えば、()()()()()宿()()()()()()、か。

 まぁ、それは今問題じゃない。じゃあ何が問題なのか…。

 結晶術の行使を可能としているのは、魂力だ。

 …そう、裏を返せば、結晶術を使っていられるのは魂力が尽きるまでの短い間であるという事。


 制限時間は10分。


 服用は1日二回までだが、二回目飲む余裕をあの白髪神父が与えてくれるとは思えないのだ。

 おまけに、力の解放も第一形態(ファーストモード)まで。奴はまだ本気じゃない。


 果たして10分も保つかどうか…。


「いやっ…」


 そうじゃないな。

 今の俺に出来る事なんて1つだろ。


「全力でいくぞ…!」


 纏う魔力を高める、限界まで!


 白に輝く魔力の乱舞が俺を軸に巻き起こる。

 折れた刀の刀身に手を(かざ)す。直後、魔力の刀身を瞬時に生みだし構えを取る。


 刹那!


 地を蹴り、瞬時にクレイムへと接近。


「桐島流・孤月!」


 鋭く速く、短い斬撃を放った。

 避けられ、しかし!


「連・斬ッ!!」


 追撃、追撃、追撃。

 始まる刃の猛攻、刀の残像を残し続いていく。

 それすらも回避し、不気味な笑みを浮かべるクレイムを眼前に放った―――突き。

 奴が持つ三叉槍の柄がその軌道を剃らし、刃は(くう)を貫き進んで。

 その最中、魔力の刀身を俺は散らした。


「……なァッ…!?」


 予想外の行動に、目を見開くクレイム。

 抵抗を失った三叉槍は体の外側へと離れゆく。

 そんな様子を眼前に、刀を己の顔の横まで瞬時に引き戻す。

 散った魔力を折れた刃の断面、その手前へ瞬時に収束、更にそこへ魔力を流しッ…。


「桐島流・月光!」


 放った光線。

 だが、()()()()()()()()

 クレイムの体すら覆う程に。


「はは…こりゃ、とんだ化けもんになっちまったみたいだな…」


 魔力を調整する余裕はなかった。

 それ故に、あの一瞬で出せるだけ出した。

 それでも保有魔力の1割にも満たない程度が限界のはずだった。()()()()()()()()()()()()



 違う、違い過ぎる。

 膂力も、魔力量も、その密度も、いつもとはまるで違う。

 思えば、正常な思考のままこの力を使ったのはこ、今回が初めてだった。


 そうか、これが…。



 ―――これが第一形態(ファーストモード)ッ…。これが結晶術ッ…。



 けど、それは。


「まぁ…化けもんってのはお前も変わんねぇかッ…」


 立ち込める土煙のその奥に、クレイムを見つけ俺は言う。

 両の足元からは、靴裏の跡が前に伸びていた。

 そして、奴の左腕は―――皮膚が全て剥がれていた。


「キッヒィッ…!効かねェぞ、三下(さんした)ァ」


 腕のあちこちから煙が上がり、傷が修復されていく。


「ぁア…苛つく野郎だァ。勝てもしねェのに悪足掻きしやがって。そんなに絶望したきゃア見せてやらァ―――実力差って奴をよォ!」


 その直後、言葉は放たれた。


第二形態(セカンドモード)ォ!!」


 一瞬にして、膨大な魔力が奴の体から放出され、剥がれていた左腕の皮膚が瞬時に再生。


 その腕と右腕が透き通る青い魔力の光に包まれ、すぐに弾け散った。

 その両腕は結晶に覆われていた。

 青空のような色の、結晶に。


 …改めて思い知らされる実力差。


「魔力量だけで俺の何倍ありやがるんだよお前ッ…」


 広範囲の魔力感知が得意じゃない俺ですら魔力を強く感じ、圧迫感を覚える程だった。

 繰り出される一撃がどれだけ速く、どれだけ重くなっているのか…もう、分かったもんじゃない……。


 眼前、クレイムを見据え、折れた刀身に左手を翳して魔力の刃を作り出す。


 ―――もう、一瞬すら気を抜けねぇッ…。


 構え、気を引き締めた、その瞬間!


「……ッ!」


 クレイムの姿が、消えた。


 ―――待て、狼狽えるな!相手は格上、奴を見失うなんて事は最初と変わってねぇッ…。


 探り尽くせ、記憶の棚にある奴の言動を。

 そこから読み取れ、次の攻撃を!


 横に地面を擦った右足は、瞬時に止まり、地を踏み締める。

 同時、魔力の刀身、その切っ先を足元へ向け刀を手放す。

 宙に浮く刀、放したその右手が逆手で掴んで刃の向きへ―――刺す。


「キヒィッ…!」


 クレイムが視界に映った時、既に。

 体の右側へ、腰を低くし武器を構えた奴の首筋を、俺の刃は浅く斬っていた。

 飛び散る少量の鮮血、だが奴は狂ったような笑みを作り顔面を歪めていた。


「……ッ!こ、のッ…」


 時間が引き延ばされるような感覚。

 長い長い数秒間に、奴が武器を俺に―――突き出した。


 死の予感。

 迫る切っ先。

 回避は間に合わず。


「死ねッ」


「誰がぁッ!!」


 ギリギリ、刀でその一撃を弾き返した。


 だが。


「キヒィッ…!テメェに、決まってらァ!!」

「カ―――ハッ…!」


 腹に刺さったクレイム蹴り。

 吹き飛ぶ矢の如く、一瞬にして。


 空中、激痛を堪える中、身を(ひるがえ)し地を擦る足が体を止めた。


「ま、ずいッ……」


 このまま戦うのは、危険過ぎる。

 クレイム。あいつの一撃で今、一瞬意識が飛び掛けた。強化されたこの体ですら、だぞ!?


「いや…まだッ、やれる!」


 この第一形態(ファーストモード)状態なら、まだ足止めが出来る方法がッ…。


 後ろを向く、刹那、駆け出した。

 森の中へと。


「敵に背を向けるたァ、随分と舐められたモンだなァオイ!桐島刃ァッ!!」


 俺を襲おうと動き掛けたクレイム。

 その寸前、強く踏み込む俺の右足。

 瞬間、地が抉れ、俺の体が消え去った。

 (いな)、弾丸のような速度で俺が眼前の木の枝へと飛び移ったのだ。更に奥の木の枝へ飛び、着地する。


 隠れた訳じゃない。互いに相手の気配を探れる俺とクレイムに、隠れるという行為は無駄。


 狙いは別にあった。


 暗闇の中、俺を取り囲んでいるのは背の高い木々。

 こんな視界も悪くて障害物も多い場所でなら、奴でもさっきのように俊敏に動けはしない。


 枝から地面へ飛び降り着地。

 そのまま木々の間を()(くぐ)っていく。


 ―――大丈夫、奴はちゃんと着いて来てる。


 ここで奴が俺を諦めてレイン達を追い始められたら、それこそ終わりだ。

 一定の距離を保ちつつ逃げる。これが足止めの必須事項。


「随分と必死じゃあねェの?そんなに俺が脅威なのかァ、光栄だぞオイ」


 後ろから聞こえて来るクレイムの声。


「良い作戦だ。確かにこんな狭い場所じゃ、俺のスピードは殺されちまうゥ…」


 ―――なら、何でそんな不利な状況で余裕のある声が出せんだよッ…。


 だが、俺は直ぐに理解する事になった。




「派手にッ…()ぜなァ!」


「んなッ…!!」


 膨大な魔力を感じ、咄嗟に後ろを振り向く。


 途端、前方の地面から足元の地面へ網目のような光の亀裂が走って来て――上空へ爆発した!


「うわッ!」


 上へ飛ばされた体。

 身に降り落ちゆく土砂や木々。


 ―――クレイムの野郎、地面に大量の魔力一気に流して爆破させたってのか!?


 荒業だが、有効な手だ。

 それに、これだけやっても奴の魔力残量はほとんど減ってないはずッ…。


 何より。


「キヒィッ、行くぜェ…」


 地上を照らす魔力の白い光、それが唐突に輝きを増した。


「……ッ!」


 来る、奴が―――クレイムが、向かって来るッ!地面を蹴り、瞬時に飛んで来る!!

 凝縮されても(なお)切っ先を覆い尽くす程の大量の魔力を纏った三叉槍を大きく振りかぶりッ。

 受け切れない。回避が、間に合わないッ…。


 ―――でッ…()()()()()()()()()()()()()()()


 左の掌に集める魔力。

 魔法陣を構築する暇もなく。


「さア、いよいよ手詰まりだァ!喜べェ、苦痛なき死をォ!!」


 三叉槍が自身の首筋に触れる直前、俺は左手ごと、魔力を爆発させた。

 同時、俺の体が吹き飛んだ。


「…ッ!」


「ぅぐ、ぁぁッ……!」


 左手に走る刺すような激痛を、歯を食い縛り殺すは俺の意思。

 爆ぜ剥がれた皮膚は再生を始め、白い煙が上がる。


 刀を構えを取る体はクレイムの背後で牙を剥き。


 刹那。


「はぁぁぁぁあああアアアアッッ!!」


 体ごと振り向きかけた奴の右腕を―――両断した。

 奴は驚愕の表情を浮かべ、そして、それは()()()()()()()()()()


「キハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」

「何、笑って、やがるッ!」


 空を靴の魔導具で固め、クレイムの目の前へ跳躍。

 その顔面を、左の拳で殴り付け地面へ吹き飛ばす。


 鳴り響く地鳴りを遠くに、俺は空を蹴り、地上へ急降下。

 直後、着地。


 爆ぜ掘り返された地面。

 所々に横たわる木々。


 その奥に立つクレイムへと走り、急接近。


 ―――何だ、何だこれ…。


 利き手は失った。

 再生にだって多少の時間は掛かるはず。

 意図せず勝機が生まれつつある。


 だというのに、何故こんなにも嫌な予感がする!?


「……ぁア、桐島刃ァ…」


 その予感の正体を知ったのは、刀を振りかぶり奴の眼前で踏み込んだ時だった。

 圧倒的な実力差。


「お前はなんてェ―――弱いんだろーなァ」

「…ッ」

黒の十字架(ブラック・クロス)


 その瞬間、俺の体は止まった。


「は……?」





文月です。

今回はバトルが進めば進むほど、敵であるクレイムの実力が明らかになっていく回でした。

主人公・刃の切り札『結晶術』も霞むくらいに。

…もう少し楽に勝たせてあげたいのですが、そうなると話が面白くならないので残念。


さて、そんな文月のささいな悩みは横に蹴っ飛ばしましょう。

今回から、最新話でもやります。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







・面白かったってばよッ!




・やるなーお前、燃(萌)えてきたぞ!




・べ、別にアンタの作品がちょっと良い感じだって思っただけなんだから!勘違いしないでよね!








等々、思われた読者様は下の








★★★★★








となっている所を、タップもしくはクリックして評価してやって下さい。








また、感想もドシドシお持ちしております。




ブックマークも是非是非♪








◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


それでは、次回!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ