第50話プロローグ・晶花の行方
突入、第三章!
【時刻・西暦2127年7月24日午後11時40分。場所・山梨県第2区、公園内にて】
暗闇の中光る魔法陣の輝きに照らされる瞼を閉じた少女―――レーナは穏やかな表情で眠っていた。
「うん、大分良くなって来た…」
レーナに治癒魔法を施していたレインが言った。
何時も無表情なその顔の上には、安堵の感が薄く表れていた。
2人の様子を見て、俺もホッと溜め息を付く。
しかし、まだ安心なんて出来ない。
当然だ。晶花は依然として拐われたままなのだから。
俺は直ぐに顔を強張らせた。
「状況の整理、いいか?」
「ああ」
「レーナ達が襲われたのは20分~30分前、だと思う」
「…概ねは」
「けど、それ以外は……か」
今一番欲しい情報は晶花の居場所だ。
しかし、現在、少なくとも分かり易い手掛かりはない。
どうやらそれはレインも同じようだ。
「いや、1つ…」
「なんだ?」
「…通信用魔導具だ」
レインの発言に、俺はハッと思い出す。
俺達は今外部との連絡が取れない状況なのだ。
恐らく晶花を誘拐した奴の仕業だろう。
だが、冷静になってみればそれは可笑しい。
「晶花を拐ったってことは、少なくとも今は逃亡してるか、もしくはそれが終わってる頃だ。完全に見失ったんだ、多分もう俺達じゃ追えない」
「外との連絡が付かないのは、恐らく空間系魔法・遮断結界が原因。遮断結界と言えば高等魔法。つまり」
「同じ属性で同じ高等魔法の空間転移魔法も使える。なら、晶花を拐った奴がもうかなり遠くに…」
「…その可能性が高い」
魔法の知識の豊富なレインが言うのだ、信憑性がある。だからこそ、そこに生まれる違和感。
「じゃあ、なんで今更俺達の足止めなんてしてんだ?」
簡単だ。
「まだ敵が―――この近くにいるからだ」
俺はそう結論付けた。
レインも同意し首を縦に振る。
ただ、少し眉間に皺を寄せ、レインは言った。
「近い、のは間違いない。…それでも居場所の特定は難しい」
ホテルの方角へ俺は顔を動かす。
ジンタとの通信が途絶えたのはホテルの中でだ。
直線距離で一キロ程離れたこの公園でも通信は不可能。
つまり、少なくとも一キロ圏内が捜索範囲という事になる。かなり広い。
ただ、それほど甘くはないだろう。
「レイン、お前の魔力でならこの魔法、どこまで範囲広げられる?」
「?…結界の維持の時間によるが、1キロ前後だ」
「だったら、その5倍~10倍あるか…」
俺の言葉に、レインは疑問を浮かべた。
「結界の範囲の話だ」
「なん、だと…?」
それはつまり、敵がレーナと同等の魔力量を有することを意味していた。
だが、あり得ない話じゃない。
結晶術による身体能力と魔力の増幅は異常だ。
「何故、分かる…?」
「…悪い、今はまだ無理なんだ。時間的にも、話してる余裕がない。けど、後で話す」
師匠には他人に結晶術関連の話はするなって言われている。
だが、正直、もう隠しきれる自信がない。
レインは何かを言おうとして、しかし、その言葉を呑み込んだ。いや、呑み込んでくれたんだ。
「あんがとな…」
そう言うと、俺は立ち上がった。
レインが小さい声で、しかし、強く言った。
「………終わったら、必ずだ」
「あぁッ…」
約束を再度交わし、その話は終わった。
「レイン、晶花の居場所なら分かるかもしれない。だから、レーナを頼む」
「…任せろ」
俺は数歩だけ歩くと、そこで立ち止まった。
出来る事はただ1つ。
晶花の中に眠る魂獣の気配を辿る事のみ。
気配の察知可能な範囲は、俺を中心に直径800メートル前後まで。
少なくとも、その範囲にはいない。
「だったら…」
瞼を閉じる。
明鏡止水、呑まれるな、食われるな。
起こせ。
「……来いよ、化物ッ…」
文月です。
さてさて皆様、前書きにも書かせて頂いた通り、第三章が始まりました!
二章で強さの次元が違う事が分かった今回の敵。アレで本気じゃないので、少し怖いレベルです。
まだ三章ですよ?という風な感想が読者の皆様から飛んで来そうです。
さて、それではまた次回!




