第41話それが、仲間だから
遅れました。文月、アウト!です。
「結晶術と魂獣、か…」
今思い出してみても、やはり未だに夢でも見ていたかのような気分が抜けない。
もちろん、昨日見た物、感じた物が、夢などというものでなかったことを俺は自覚している。しかし、魔法が発達した世界で、突然魂だなんだ言われても現実感に欠けるのもまた事実。そう、俺の中にある常識が、まだそれを受け入れることを拒んでいるのだ。
「ま、本当にあったことでも、やっぱ直ぐには信じられねぇよなぁ。でも…」
でも、信じられることはある。弱っていた心を見透かされ、励ませられ、話をして、俺は師匠を、師廼乃銘師恩という人間を信用出来ると確信したのだ。
「さて、行きますか!」
師匠の頼みで結野晶花を俺の班に入れることになったが、レインに言われた通り俺だけでそれを決めることは出来ない。なにせ班なのだから。全員に確認を取る必要がある。
もっとも、残るはレーナだけだが。
「行くって、どこへ…?」
「あぁ、それは―――って、帰ったんじゃなかったのかよ」
ふと右から聞こえた顔をそちらに向けると、そこには店を出た後で別れたはずのレインがいた。
「いや、アレ…緊急任務が入った」
言いながらレインが人差し指で空を指した。そこへ視線を向けると、気絶した黒の目出し帽と黒い服装をした男達が、水で出来た直径数メートル程の球体の中で横たわっていた。加えて、魔導式自動小銃がかなりの数転がっているのも確認出来た。
「―――当然、任務完了。あぁ、あとは頼む」
「なん、なんだこいつら…」
「ん?典型的な銀行強盗犯。見つけたから捕まえた」
「……はい?」
道端で空き缶見つけたから拾ってゴミ箱に捨てて来ただけ、みたいな軽い調子でとんでもないことを言ってのけた我が相棒。
どうやら、連絡用魔導具を使って特魔部隊に後処理を頼んだようだ。ただの犯罪でも、魔導式自動小銃絡みだと特魔部隊が動かなければならないから当然と言えば当然のことだが…。
ついでに言うと、通信用魔導具は右の二の腕に取り付けている黒い輪っかのことだ。通信用魔導具と呼ばれていて、高い耐久性に加え、動力は体内魔力を瞬時に電気へと変換させた物であるので充電要らずという優れもの。会話の内容も傍受されにくい。
「で、どこへ?」
凶悪犯への興味は既に皆無のレイン。
「何か、1人で片付けさせて悪かったっ…」
「いい、10秒で終わった。それに呼ばなかったのは俺、気にするな」
10秒で終わらしたのかよ、早ぇよ。聞けば、魔法による不意打ちで無力化させたらしい。とんでもないな、うちの相棒は。というか、そんな事件起きてるなら気付けよ俺。
肩を落としながら、少し惨めな気持ちになった俺だった。
「んで、どこ行くって、レーナのバイト先だけど…?」
「そうか、なら行くぞ」
「お、おう…」
こうして、俺はレインと共にレーナの元へと向かうこととなった。
「……」
「……」
照り付ける日差しの中で歩みを進める俺達だったが、会話はまるで進まないでいた。精々が、度々汗を拭いながら真夏の熱気に『暑いな』と声を掛け、それにレインが相槌を打つか短く同意の言葉を返す程度。
その所為か、靴裏がアスファルトを踏み鳴らす音や、道路を走る車が歩道を歩く俺達の横を通り過ぎる時の音がやけに煩く聞こえた。
「刃」
ほとんど沈黙に包まれていたその空気を初めに穿ったのは、レインの言葉だった。
「ん?ど、どうした…」
「持ってろ」
右を向くと、青い宝石に糸を通した手作り感満載のネックレスをレインが左手に包み、俺に差し出して来た。歩みが、止まった。
「これ、は…?」
「魔力を吸収した石―――魔石だ」
「確かそれって、魔法を込めたりするのに適した…」
魔法札もそれと同様の効力がある。が、使い捨ての後者よりも、何度も使える前者の方が貴重であり高額だ。
「い、いや…そんな高いの流石にもらえねぇって」
「問題ない。これは余りものだ」
「余りものって、どういう…」
「少し、研究をしていたことがあった…。今は…もう俺には必要がない。それにもう、魔法を込めた。売れない」
そう言って、レインはネックレスを俺に押し付けた。
「そうか、分かった。…ありがとな。そうだ、お返しって言っちゃ何だが昼飯奢らせ」
「――――無茶をし過ぎるな」
「は?」
「対価をくれるなら、渡したネックレスは肌身離さず持ってろ。そして、その言葉を忘れるな」
言いながら、俺の前へ回り込み俺を見つめた。その澄んだ蒼い瞳は、何もかもを見透かしているようだった。
レインは、己の拳を突き出して、俺の胸の丁度心臓がある辺りへ軽く当てた。
「その胸の内に抱えている秘密を、刃、お前は俺に教えようとしない」
胸が締め付けられた。この感情は、きっと罪悪感だろう。迷惑を掛けたくなくて、心の何処かでは真実を話したことで敬遠される可能性を恐れていて、仲間を騙した自覚があったから。
「俺は…」
何と言えば良いのか、分からなかった。勝手に話して良い内容でもない、その事実がさらにそれに拍車をかける。
しかし、レインは口元を僅かに緩めて言った。
「だが、俺にそれを責める資格はない。隠し事をしている俺に、そんなものはない。だから言わなくて良い。…だから、事情を知らないなりに、俺は俺の出来ることをする」
そして、踵を返した直後にレインは呟くように言った。
「――――それが、仲間だから」
俺達はその後、レーナのバイト先までの道程を再び歩き出した。数歩先にいる相棒の、歩く度に揺れる背中まで伸びた蒼い髪を、ぼんやりと見つめながら。
「おはよう!刃君、レイン君―――って、もうすぐお昼だから『こんにちは』だね」
目的地に着くと、巫女服を着たレーナが俺達を迎えに来てくれていた。
「どうだ、神社の巫女さんは?」
「バッチリ!巫女服って憧れだったし、一石二鳥だよ」
「おう、そりゃ良かった」
そう、彼女のバイト先は神社である。事の発端は、社会に馴染ませるよう促すべきでは?という国からの提案というか命令だ。
俺はレーナに事のあらましを伝えた。
「そっか…うん、私は賑やかなのは大歓迎だから、問題ないよ」
「そう言ってもらえると助かる…」
レーナの了承も得られ、肩の荷が降りた。
「はは、助けてもらったのは私の方だけどね」
言いながら、彼女は笑顔を俺に見せる。
「どうだ?今の生活、楽しめてるか?」
「最高だよ。幸せってこういうのを言うのかな。…ねぇ、刃君。それ」
俺の首に掛かった青い宝石を、レーナが指差す。
「あぁ、これ?さっきレインに、な」
「…うん、知ってる。ただ、ちょっと悔しくて…」
「悔しい?」
「そうだよ、私は悔しい。友達に助けてもらってばかりで、けどその友達が、刃君が悩んでいる時に何も出来ない自分が悔しくて堪らない」
レーナは遠くの方にいるレインを一瞥した後、俺に言った。
「だから、言わせて。私はレイン君みたいに、何でもは出来ない。けど、何を隠してるのかなんて聞かないから、利用してでも良いから…私にも頼って欲しい。何の力になれるかは分からないけど、友達が苦しんでるのは、見てられないから…」
「……あぁ、そうだよな。………悪い、ちょっと神社ん中見てくるわ」
何で気付かなかったんだろう。俺には頼っていい仲間がいるということを。何で信じなかったんだろう、仲間の気持ちを。
いつか本当のことを話したい、そう思った。
そして時は過ぎ去り、夏休み。
俺達の林間合宿が始まった。
どうも、文月です。寝不足で思考が死んでるのと、自分で決めた締め切りに追われて雑い終わり方になりました(反省)。最後は特にです。というか、ガッツリ3000字行きました。文章量抑えるのって難しい。
報告です。
本作『クリスタル・ワールド』は、本日より改訂作業に移ります。
なんやかんやで、作者もなろう歴が一年になりました(とは言いましても、まだまだ新人ですが)。
執筆活動を一年やって、成長は…どうなのでしょう、しているのでしょうか?ちょっと自信がない作者です。
とはいえ、前々からお伝えしていました通り、作品をより良くしたい心は変わっておりません。
よって、ゆっくりという言葉が頭に付きますが、本格的に作品の改訂をしようかと思います!つまり投稿です。あ、今回の林間合宿の話(こっちは週一投稿のままでいこうかと…)と並列でさせて頂きますのでご安心を。それと、改訂と言いましても、話の大筋は変えません(刃がレインと出会い、レーナという少女を助けるという大筋は)。が、ジンタの外見の描写を人っぽくします。なんかそっちのが良い感じがしまして、はい。
さて、目標は書籍化かつ読者の皆様に『おもしろい』と言って頂ける作品。それを胸に執筆活動にいそしみます。Let's write。ライトノベルだけに。




