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クリスタル・ワールド  作者: 文月 ヒロ
第2章出会いと絆
49/87

第39話結晶術と魂獣

本当遅れました。

年末ギリッギリの投稿です。

年内に出せて良かった~。

それでは、どうぞ!

 

 暖色系の明かりが柔らかく照らす、古き良き木造の店内。小ぢんまりとしたこの場所は、以前にも訪れたことのある特魔部隊が経営する居酒屋だ。


「ほれよぅ坊主ー。これ、魔力銃なっ」

「…ありがとう」

「へへっ、いいってことよ。んじゃあ、ごゆっくり」


 メンテナンスが終わったらしい魔力銃をレインに手渡した後、店主はそう言って店の奥へ戻っていった。これで今日ここでの目的は果たされた。


 もっとも、まだ席を立つ予定はない。


「……で」


 魔力銃を懐に入れたレインは途切れた会話の続きを始める。


「林間合宿の班に、もう一人を…」

「あぁ、追加したい。…頼めないか?」


 レインは顎へ手をやり、そのまま黙り込んだ。しかし、数秒の沈黙が終わると、珈琲を一口飲みマグカップを受け皿に置いて口を開く。


問題ない(No problem)。分かった」

「…そうか、ありがとな」

「あくまで俺は、だから。レーナ達には」

「大丈夫、このあと会う予定だ。俺の勝手に無理に付き合わせる訳だしな。あぁ、弟閃とは…」


 話はもう電話で済ませた、と伝えかけて弟閃が

 俺との通話中に言った言葉を思い出した。


『わざわざ会って話す必要ないッスよ、そんなことぉ。ありがた迷わ…じゃなくて律儀ッスね、兄貴は!』


「…うん、昨日話はついた。本当ごめん。気ぃ遣えなくて……」


 そうだよな。別に必要なかったよな。

 でもさ、昨日気不味い別れ方したじゃないですかぁ。俺だけかもしれないけど、他の奴等の様子が気になったんだよ。ごめんなさい反省してますぅ!


「…()()()()()()()

「え?」

「会計頼む」

「あいよー」


 相変わらず口数の少ない相棒の自己完結した言葉に疑問の色を顔に浮かべるも、結局何の説明もなく終わってしまう。


「…なん、だったんだ?今の」


 店内から外に出た俺とレインは昼過ぎの町を歩く。


 さて、先程のやり取りについてだ。

 俺の通う水都台高校では、一年生は夏休みの始めに林間合宿を行う。そして、合宿中は班で行動することになる。ちなみに班は自分達で好きに決めて良し、つまりは違うクラスの者とも組める。俺はレインとレーナ、弟閃を誘った。


 肝心なのはここから。俺は仲間達に、結野晶花を班員に加えたい、と願い出たのだ。


「ま、あんなこと聞かされたらな…」


 物思いに耽りながら、昨夜の出来事を反芻する。


 話は、精神的に擦り切れた俺が泣きじゃくり立ち直った、その後にまで遡る。





 ―――――――――――――――――――


「まず…初めにはっきり言っておく」

「お、おッス」

「正直言って、私はこの話をお前さんにすべきじゃないと思う。というか、したくねぇ」

「えぇッ…」


 壁や床に白いタイルが貼られた、雪原のように真っ白な部屋。ここは師恩さんの家の地下一階だ。

 目の前で堂々と彼女が立ち言い放ったその言葉に、俺は頬を引き吊らせた。さっきと言っていることが逆なのだが…。


「確かに、最終的にゃあ色々教えるつもりだったさ。少なくとも、自分がどういう行動をすべきか判断出来る程度には。そしてたまに会って、相談にも乗るのがベスト。そう思ってたんだがなぁ…」


 言いながら、師恩さんは後頭部を右手でポリポリと掻く。こちらを見る彼女の表情は困っているようなものだった。


「ぐッ…。そ、そりゃ迷惑は、かけるかも…だけど……」


 反論したいが策はなく、それ以上は口を噤むしかなかった。目を逸らしながら、痛いところを突かれた、と思った。


 しかし、師恩さんは俺の頭に右手を置いて優しく撫でる。顔を見ると、彼女は微笑んでいた。


「ったく、なーに勘違いしてんだか。別に迷惑なんかじゃねぇさ。つーか言ったろ?頼って良いって。そもそも子供は大人に迷惑かけるのが仕事みたいなもんだしな。…だから」


 突然、師恩さんの表情が曇った。

 右手を俺から放すと、その手が青白く光る。

 眩しさに俺は目を細めるも、直ぐに光は収束し弾けるように消えた。


 見れば、指先から手首までが澄んだ水色の結晶体に変化していた。

 大空を連想させる色のそれの表面には滑らかさはなく、まるで無造作に折られた木の枝の断面のように荒い。


「だからこれは、ただの私の我が儘でしかない…」


 右手を見つめる師恩さんの表情は、鬱屈としたしたものだった。しかし、俺へ視線を移すとまた元の調子に戻し言葉を続ける。


「だが、覚悟が決まってる奴を止める資格が無いのも知っているつもりだ。最大限の協力を約束する。ただし、無理はすんな」

「それはまた、厳しい条件だな…」

「まぁなんだ、私なりの悪足掻きって奴さ」


 師恩さんは言葉を返しながら、おどけた顔をこちらに見せた。しかし、直ぐに表情は真剣みを帯び、空気が変わったのを感じた。


「本題だ。今から結晶術について教える。が、その前に()()()()()

「会…う?何に」

「お前の魂の同居人に、だよ。…いや、人じゃなかったか……」

「な!?た、魂ってッ…」


 一瞬、別世界に迷い込んだような錯覚に見舞われた。魔法が存在する時代、しかし概念こそあれ、魂に関しては未だ確認されていないはずだ。だというのに、今、目の前にいるこの人はその存在を肯定したのだ。

 荒唐無稽な話だ、と一蹴してしまえばいいはずだ。しかし、彼女の漆黒の瞳は、俺を見つめたまま微動だにしない。それがまるで、真実だ、とでも告げるかのように。


 嘘ではない、と直感が囁いている。


「ま、取り敢えず行ってこい」


 その言葉と同時に、俺に触れる師恩さんの右の掌から、魔法陣が一瞬にして構築されていく。


 広がるようにして出来た青白い光を帯びた陣は、魔力の高まりと共に強まっていく。


 予測不能、生じた不安は一気に焦燥感へ。


「ふぅぐッ…!」


 額に汗を感じる最中、何かが俺の中へと入り込む。その圧迫感と忌避感に呻いた。


 だというのに。


「うッ―――――あぁ…」


 遠く、遠く。自分の物であるはずなのに、声が酷く遠く聞こえる。暗い深海へ引きずり込まれるかのように、視界の光が弱まり意識も遠のいていく。


 意識が消える直前、聞こえた師恩さんの言葉が耳に残った。


「――――呑まれんなよ?」


 そして、俺は眠りに落ちた。












「え?」


 目が覚めると、黒い空間にいた。

 光源は一切見当たらず、全てが漆黒に塗り潰されていた。


 しかし。


「あ…れ、体だけは見える」


 己の体だけは視覚で確認出来る。


 それでもやはり、それ以外は全てが闇。体が光を発している訳ではないのだ。その証拠に、自分の手や足を見てもまるで眩しくない。


 明らかな異常事態。


「それに身体の奥から感じるこの感覚、これが…。ってそんな場合じゃない、取り敢えず、こんな気味悪い場所から離れよう」


 幸い、足は地に着いているようだった。だから一歩踏み出そうとした――――その瞬間。








『死』









 一瞬。


 呼吸が死んだ。思考が死んだ。全てが殺された。明確な『死』の予感に、体以外の全てが殺された。


 ――――なん、だ…これ……。


 息は出来る。頭は回る。全てが蘇生した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 今まで感じたことのない濃密な『死』の気配が、全身に纏わりついたまま離れない。離れずそれは、徐々に強まっていく。


 強烈な殺気が、背後から、確実に、にじり寄って来ているのだ。


 ――――死ぬ。今動かなければ、死ぬ。


 背筋が凍ったようだった。心臓が止まりそうだった。されど言った。心が怒鳴った。


 ――――こんな、所でッ…死ねるかよ!


 だから。


 ――――動け…動け!俺!


 怯えた心を蹴飛ばして、『恐怖に勝て』と叱咤する。拳を握り、踵を返す。


「これ、でもッ…!食らえやぁぁあ!!」


 地を踏み締め、咆哮を上げながら、力の限り拳を射出し―――。


「は?」


 パリンッ。

 攻撃の為突き出した右腕が、()()()()()()()()()()()


「は…?」


 気が、動転した。見えるのは、粉々になり散らばった腕が宙を漂う光景。その一つ一つが、割れた陶器の破片のようだった。


 加えて、何故か…何故か。吹き出るはずの大量の血が一切確認できない…。痛みも、ない。


 分からなかった、何もかも。


 ただ、分かったことが一つだけあった。

 視界に映る破片達のその先へ意識を向けると、理解したのだ。

 俺の右腕を破壊した者の正体が―――人ではない()()だということを。


「化…物……」


 ゆら、ゆら、ゆら…。驚愕に目を見開く俺の眼前、()()は燃え盛る青白い炎に包まれていた。姿は見えない。だが、その奥で深紅の双眸が俺を睨み付けていた。


「ごふッ…!」


 ()()が纏う炎の一部が手を形取り、そして、一瞬にして射出されたそれが俺の胸の中央を貫いた。

 痛みは、やはり感じない。そもそも触れる火の熱も感じない。しかし、知っていた。

 これは、これは…。


 ――――不味、いッ…!


 俺の胸を刺す人の手を模した炎が、無慈悲に、おもむろに、()()を掴んだまま、この身から離れていこうとしている。


 ――――これは…ホントに、不味いッ…!


 取られてしまった、では済まされない。()()は、()()は俺の。


「悪いがこいつの魂は、私の目が黒い内はテメェにゃあやれねぇ」

「ん、なッ…!」


 唐突にして、一瞬。敵の炎がかき消える。驚愕、当惑。自然、聞き覚えのあるその声の主へ視線が動く。


 前方、斜め上。常闇が支配する世界で輝く、白い魔力。

 詩廼乃銘師恩、宙に浮いた彼女がそこにいた。


「ぃよっと…。さて、これは謝っとかねぇとだな。本当に悪かった、桐島刃」


 俺が立っている高さまで舞い降りると、こちらに近付きながら、師恩さんは謝罪の言葉を口にした。


 しかし、俺を襲った得体の知れない敵が振り返り、敵意を向けて彼女に攻撃を仕掛ける。

 獣のような咆哮。膨れ上がる殺気。次の瞬間、猛烈な勢いで突進した。


 だが。


「しっかし、このレベルの魂獣(こんじゅう)相手に耐えるかぁ?普通」


 全力と思われた一撃が、師恩さんの手前で何かに阻まれ止まった。


「ギィガゥゥァァァアア!!!」

「ぐぅッ…!痛ぅーッ!だーもう、さっきからうるせぇなーコイツ。空間魔法・遮断結界っと…。さて、これでゆっくり話が出来るな」


 そして、魔法で敵を狭い空間に閉じ…。


「閉じ込、め!てか、高等魔ほッ!え、む、無詠しょ、え…!?」

「気持ちは分かっけど、取り敢えず落ち着け」

「な、無理に決まってるだろォ!見ろ、見ろよ。俺なんて右腕…と胸元、を敵に…。え、な、治ってる……」


 患部を指差しながら、師恩さんに自分が如何に非常識なことをしでかしたのか教えようとして、気付いた。

 粉々に砕かれた腕も、貫かれた胸元も、全てが元通りになっていたのだ。


「当然だ。ここは魂の世界、肉体はあくまでソイツ自身の思念と魔力で出来た偽物、魂さえ無事なら直ぐに修復される。あぁ、精神世界って言った方が分かりやすいか?」

「精神、世界?」

「まぁ正確には桐島刃、お前の、だがな」


 言われて、実際そうなのだろうと思った。ここに来た時から、本能の部分がそれを察していたのだ。


 冷静さを取り戻した俺の脳に疑問が浮かんだ。


「質問、良いか?」

「あぁ」

「ここに連れてきた理由は?」

「魂の知覚と魂獣の隔離のため、だな。前者はここに来た時点で達成出来てたんだが…。魂獣の方ついてはさっきも言った通り謝罪が必要だ。もう一度言わせてくれ、済まなかった…」


 申し訳なさそうな顔をする師恩さん。


「本来なら、魂獣の殺気に当てられて魂が死んだと錯覚するはずだったんだ」

「えっと、話が見えて来ないんだが…」

「ん?あぁ、本当ならお前さんの魂がショックで深い眠りについてのさ。って、それでも分かり辛れぇか。あ~っとだな、有り体に言やぁ、精神世界の方でも眠ってたはずだったって話だ」

「それって大丈夫なのか?」

「問題ない。体は必要最低限動いてる。寧ろ無駄なエネルギー使わない分、現実世界で起きる頃にゃ肉体の疲労が回復してるだろうな」


 普通に助かる。何だかんだで今日は疲れていたからな。


「ん?聞いてる限り謝られる要素がないような…」

「いや…訳も分からないまま変な場所連れてこられて、化物にチビる程度じゃ済まない殺気浴びせられてんだぞ。しかも、魂も取られかけてただろ?恐怖でしかなかったはずだ。怒って良いところだろうよ…」

「あぁ、なるほど」


 言われて気付いた。

 けれど、こうも思った。


「でも、助けてくれただろ?」

「当然だろ」

「なら良いって。二回も謝られたしな」

「軽過ぎねぇか…?それ」


 そう言いながら、師恩さんは呆れていた。


「違う人なら、俺だってキレてたけどな…」

「え?」

「べ、別に。なんでも…」


 つい口に出た言葉を問い詰められそうになり、俺は話題を変える。


「そ、そう言えばさっき、あの化物を隔離するとか何とか言ってなかったか?」


 向かい側の魂獣を指で差して言うと師恩さんは、あっ、と思い出したように後ろを振り向いた。


「確かに、まだ仕事が残っていたな」


 右の掌を魂獣に向けて突き出す。


「炎が弱まった…」

「実際には奴の魂の力、魂力なんだがな。まぁ、その力を押さえ込めてんだよ。んで、弱体化させたコイツを…ぃよッ!」


 ゾワリ、胸にざわつきを感じると同時、魂獣の炎―――魂力の一部が糸のようにこちらへ伸びて来た。


「魂獣には魂がない。だから人の魂魄を求めるんだが…反面、宿主の魂の強制力には基本抵抗出来ない。今はお前の魂ん中に閉じ込めてる途中だ」


 暫く待っててくれ、と言われ特にやることがなくなった俺はその場に胡座をかいて座った。


「………」


 暗闇の世界に流れる静寂。

 この沈黙の時間が、俺には少し苦痛だった。

 作業とやらは進んでいるようで、依然姿が曖昧な化物は魂力が俺へ流れ続けている為か、心なしか小さくなっていた。

 しかし、終わるまでは、もう暫く時間が掛かりそうだった。


「なぁ」


 邪魔だろうな、とは思いつつ、とうとう沈黙に耐えきれなくなった俺は、師恩さんの後ろ姿に声を掛けた。


「ん?どうした?」

「あぁ…いや、晶花にもこういうこと、やったのかなって…」


 後ろは振り向かず、しかし、師恩さんは語り出した。


「あぁ、やったよ、六年前に…。()()()()()()







どうも、執筆急ごうと思いながらも、ガ●の使いでゲラゲラ笑いながら作品書いてた文月です。

気が付けば4ヶ月くらい更新してなかったので、皆様に忘れられてないか心配です。


報告です。来年…と言いましても、もうすぐ来年ですが(汗)、予定が少々変わって時間が取れるようになりました。特に二月、三月は、かなり暇かと。


年明けも近いということで、来年の抱負いっときましょう!


暇がないを言い訳にして執筆を怠るのを止めまッス!


作者は怠け者なので、今回の投稿遅延はそれもかなり影響しています。


が、ここからは基本週一での投稿でいきます。ここは強気で、男に二言はないんだぜ!とカッコつけさせて頂きます。文月は書籍化を目指す系なろう作家なので、自分の尻に火を着けようかと。そんな魂胆です。


新作出すって言ってなかった?

や、やりましゅよ!?じ、時間見つけて…。


う~む、やっぱり締まらない。


それでは、ハッピーニューイヤー、です!!!!!


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