第37話ロリ師匠
不思議だ。
ショーカと言ったか、彼女との激しい戦闘は唐突に終結を迎えた。俺はそのことに安堵しながら、ひとりそう思った。
というのもだ。俺を一瞥した後、ショーカの元へ向かい彼女と話をしている女性についてである。下に黒いスーツを着ているクセに運動靴を履いているのは置いておくとして。一瞬見えた顔は、まるでその艶やかで長い黒髪を映えさせるために作られたみたいに整っていた。
が、不良なんじゃないかと勘違いするほど口調が乱暴。しかも、鋭い目付きがさらにそれを加速させていた。
不思議なのは、そのはずなのに妙に大人な雰囲気をしているということなのだ。いや、実際俺より年上で成人はしているだろうけど、どこかこう安心感のある感じだ。
そして、あの人から感じる気配…。俺の本能の部分が彼女を同類、つまり凶魔だと判断している。
「ど、退いて下さい師匠!ソイツは敵です!」
「敵だぁ!?ったく…。アドレナリン出まくってるせいで冷静な判断が出来てねぇな、こりゃあ……」
「わ、私は冷静で――――」
「嘘つけ!ショーカ、普段のお前はもっと大人しいだろうが!」
ショーカの方は、師匠とか呼ばれた女の人へ今にも飛びかからん勢いで猛反発している。
と、こっち見て物凄く睨んできた。
「気持ちは分かる。抑えられねぇってのも、あんにゃろー共が許せねぇってのも」
ショーカを諭す師匠さんの言葉使いは変わらない。それなのに、その声はとても穏やかで優しいトーンだった。
一泊置き、言葉は続けられる。
「だがよォ。後ろのは敵なのか?紋章はちゃんと確認したんだろうな?」
「うッ…それは……」
問い詰められ、ショーカは俯いて黙り混む。
しかし、納得しきれなかったのか、俯いたまま俺を怨嗟の目で睨んでいる。
彼女に恨まれるようなことをした覚えは当然ない。そもそも、あの子に会ったのだって今日が初めてだったんだ。
少女が放つ敵意の方向を悟ったのは俺だけでなく、奇妙な格好の師匠さんも同じらしい。
「これ以上はやめとけ」
「……でもッ」
やはりと言うべきか…。一瞬怯んだが、ショーカはなおも引き下がろうとしなかった。師匠さんはそれを見て、「はぁ…」と右手で頭をポリポリと掻きながら深いため息を漏らす。大分面倒臭そうにしている。しかし、次の瞬間には至って真剣な、殺気さえ感じられる低い声色でショーカへ言葉を投げていた。
「私がお前に『結晶術』を使うってことがどういう意味か、一番初めの時に教えたはずだ。頼む、私にこれを使わせてくれるな…」
冷たい風に聞こえた言葉は、どこか苦しげで悲しく聞こえた。その声と共に、ショーカへ右手を差し伸べるように出した師匠さんの掌に光が集まる。そして、それが消えると手の上にはソフトボール大の水晶が乗っていた。凶魔という単語と何か関係があるのかは分からないが、どうやら今のが『結晶術』らしい。
それを見た瞬間、ショーカはハッと我に帰ったような顔になる。
暫くの間、沈黙が夜の町を支配した。
先程とはうって変わって彼女は、表情を寂しそうな、悲しそうなものへ変化させた。唇が微かに動き声となる。
「分かり…ました……。師恩先生…」
「ああ。よく抑えたな、百点をやるぞ」
安堵したような声の師恩さんは、俯いたままでいる弟子の頭を優しく撫でた。
「さてと」
師恩さんは、切り替えるようにそう言って此方を向いて歩いてきた。やはり美人だ。思わず見惚れてしまった自分がいる。レーナは整った顔立ちだが、可愛いという部類である。
だが、この人は違う。クールな大人の雰囲気を纏った美人なのだ。
彼女は俺に手を差し伸べる。
「私は詩廼乃銘 師恩。んで、後ろにいるのがショーカってんだ。危険そうだったとはいえ、吹き飛ばしちまって悪かった。立てるか?」
「え?あ、は、はい!」
緊張で少し上擦った声になってしまった。
差し出された手を握って立ち上がる。その時、師恩さんから良い匂いがしたのは蛇足だろうか?
「うちの弟子が迷惑をかけちまったみてぇだな。責任者として謝らせてくれ」
「い、いや。別に怪我とかはしてないんで、事情を説明してもらえるんだったら全然…」
「そうか。助かる」
俺を襲った彼女はこの後反省してくれるだろう。今回のことは、彼女の中に存在する自分の正義の為にやったように思った。
守る。その言葉に信念すら感じられた。きっと真面目なんだろうと。
そして、怒りが自分を自分でなくすあの感覚が怖かった。
結局の所俺は、ショーカの行為に怒る必要も、怒る気力もなかったのだ。
そんな俺の表情を察してかどうかは知らないが、師恩さんは微笑を浮かべた。
「えと…」
「申し訳ないな。心から謝る」
意外と優しくて義理堅い人なのだろうか。気恥ずかしさから俯いて顔を背けてしまった。
「…いいです、よ?」
そう言いながら顔を上げた瞬間だった。
師匠さんの微笑が、三日月のように口を歪めた笑みへと変わった。
「いやぁ!ホント助かる!」
「う゛ぅッ!!」
どう言えば正解なのだろう。これは男にしか分からないと思う。
突然なんの話かって?このお師匠さん―――もといこの悪魔ッ!
俺に膝蹴りをかましたんだ!よりにもよって男の大事な部分であるきん、きん、あの場合だ!下腹部、もっと言えば股間の辺り。
「……………」
体が石のように固まった。痛み。これは痛みなのか?その普段感じることのない類いの刺激は痛みなのかよく分からない。
取り敢えず、苦しい。体に力が入らない…。
人間が感じる痛みの中で一番痛いのは、出産の時の痛みだと母さんから聞いた。もちろん、あくまで個人の意見だ。
だが、世の女性達に強く、激しく、切実に言いたい。
「……そ、そこは一番ダメだろうがッ………!」
「金⚫️マだろ?恥ずかしがって代名詞使ってんじゃねぇよ」
言いやがった…!
当然、俺の意識は飛んだ。最近気絶する機会が多かった。
けど、今回は群を抜いて最悪だったよ!
加えて物凄く情けない気絶の仕方。はは、軽く泣きそうだ。
―――――――――――――――
声が、聞こえる。
「おーい」
女性の声。俺は…あれ?俺は何をしている?意識がぼんやりとしていて……まぁ良いか。
「おー――チッ、起きねぇなぁ?よし、もう一発股関に蹴り入れとくか!」
「ひっ!こ、殺す気か!!」
聞こえた言葉が起爆剤となり、意識が完全に覚醒。上体を全力で起こして身構えた。
まぁ、しかしだ。起きて初めて見る顔が男の敵とはな!
俺はさっきのことを瞬時に思い出し、その整った顔に敵意の視線を向けた。そう、男の大事な所を蹴り飛ばしてくれた白衣を着た悪魔、詩廼乃銘師恩を!
「って、あれ…ふかふかベッド?というか、ここは……」
俺がいたのはベッドの上だった。そして、気付くのが少し遅かったが、俺が今いるこの場所。一体どこなんだ?見たところ、白い壁紙が貼られた生活感のない正方形の部屋だが…。大きさは六畳といったところか?
「安心しろよ。ここは、私の家の寝室だ」
「……安心はしないが、そうか。にしても、随分と物がないな」
「生憎と、寝室には物を置かない主義でな。意外か?」
「まぁ」
服装とか口調でズボラそうに見えたからな。伝えた後の股間への逆襲が怖くて、とてもじゃないけど本人には言えないが。
さて…これは、ひょっとして不味いことになってるのか?普通に考えて、誘拐だし。しかし、その割に手足とかは縛られてはいない。判断に迷うなぁ。
「にしてもよォ。金⚫️マ蹴られたぐらいで大袈裟なやつだなぁ、軟弱にも程がある。一時間以上も気絶するたぁ思わなかったぞ?」
「なんだとぉ…!」
こ、このッ……!ぐらい?今、ぐらいって言ったぞこの人!あれがどれだけの物か知らずによく言えたな!?そもそもだ。いきなりあんな強力な不意討ち食らったら、普通ダウンして暫くは動けないだろう。まったく、忌々しいったらありゃしない。
「はは、そんな睨むなって。こっちも仕方なくだったんだぞ?」
「…………まぁ、これ以上は話が進まないから許すけども」
ふぅ。思わずイラッと来てしまった。が、ここは怒りをグッと堪えるとしよう。
「じゃあ、俺がこんな所に連れて来られた理由を教えてもらおうか誘拐犯」
「おっ?誘拐犯とは失礼じゃねぇーか。ちゃんと許可は取ったのによォ」
「まさか、『本当に申し訳ない。心から謝る』って…」
「あん?これからお前をぶちのめして、私ん家に連れていくって意味に決まってんだろーが」
「主語と述語を述べろや!」
それはもう詐欺みたいなものだろう!
抑えようとしていた苛つきが急激に加速する。この怒り、本当にどうしてくれようか?
そんなことを考えていると、不意に声をかけられた。
当然、あの美人師匠様だ。
「まぁ、兎に角だ。色々教えてやっから取り敢えず先に部屋出てリビングで待っとけ。あ、そこ開けたら左曲がって直ぐのドア開けたところだ。私ゃあ何か摘まめる物探してから行く」
「ああはいはい。分かったよ、分かりましたよこんチクショー!」
「生意気で結構。百点だぞ」
仕方なくベッドから立ち上がり、リビングへ向かうため部屋を出る。
『色々』、か…。それには俺が求める情報も含まれているだろうか?俺のような凶魔と呼ばれる人間を狙う組織のこと。自分の中にある謎の力のことも。
というか、さっき戦ったショーカって子とその師匠詩廼乃銘……もう怒ってないから師恩さんでいいか。兎に角、あの二人は俺の味方…でいいんだよな?今後ろにいるけど敵意は感じないし。
まぁ、今はあまり考えても無駄か。腰にさしてた刀がないし。加えて、多分あの二人は俺よりも強いだろう。警戒なんて意味を成さないって訳だ。
「出来れば良い人達であって欲しいところだけど…」
幾何かの不安と希望を胸に、白いドアの前に立つ。一歩踏み出すと、ドアセンサーが俺を認知してドアが横にスライドする。
「へ…………?」
「あの、師匠…。やはりその…。この服、スカートの布が短過ぎてかなり恥ずかし―――なッ!?」
リビングに出た瞬間、そのとんでもない光景に絶句してしまった。
ショーカ。彼女が目の前にいた。
それもだ。スカート部分が異様に短い漆黒のワンピース。清楚さを体現したかのように純白に彩られたエプロンドレス。頭の上には可愛らしいカチューシャで。
そう。その姿はまさしく。
「ツ、ツインテ猫耳メイドッ……!?」
猫耳まで装備というのは、ハッキリ言って反則だと思います、はい。
「あぁ、え、えと…」
そこまで言って再び言葉に詰り、俺は生唾を飲ん
「もしもし、警察ですか!?今、目の前にいる下衆な男の脳内で下衆な思考が働き、下衆な方法で辱しめられました最悪です。早急に殺す、または、それが出来ないなら今すぐ存在自体の抹殺をしてください」
「ちょい待て早い!早いしどっちにしろ殺すのかよ!」
「あッ、な、何するの!?携帯返して。というか、あっち向いて!そして、今見たことを記憶から永久に消去するのよ!出来ないなら私がまずあなたの眼球を潰して、それから頭を蹴り潰す!安心して?私の蹴りなら一瞬で楽になれるから」
「それはもう死を意味してるよな!?心配で卒倒しそうなんだが」
怖い、この子怖い。
ショーカの鬼気迫る雰囲気に押されて、思わず後退ってしまった。
ったく、あのヤンキー師匠め!よくもまぁ、非常に対処に困る状況を作り出してくれたなぁッ!
内心で悪態をつく。
「ん?」
そんな俺だったが、何かが僅かに視界へ入り視線を下に。
「なぁにやってんだぁ、お前ら?」
そこには、呆れたような目でショーカと俺を交互に見る、長めの黒髪をしたちっこい子供がいた。一言で表すなら幼女だ。
しかも、見覚えのある白衣と聞き覚えのあるヤンキー口調。何故か焼酎とエンドウ豆を持っていた。
いやいや、あり得ない。この推測はあり得ないだろう。しかし…俺の目の前にいる、身長百センチと少し程の女の子に見覚えがあり過ぎる。というか今さっき見た。
ま、まさかな……?
「し、師匠」
「えっ……?あっ、いや、え?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ!?」
まさかだったよッ!
俺とショーカに挟まれるような形で立っていたのは、やはり詩廼乃銘師恩なのだった。って、そんなアホな!別れて数分で、一体何があったんだ!?
摩訶不思議な現象に驚愕を隠せない。
これにはもう、叫ぶしかなかった。
だってそうだろう?この人、見た目完全に六歳児じゃないか。声も若干高くなってるから、本当に子供のように見えて仕方がない。
あぁ、頭が痛い。
「あん?どうしたぁ。急に頭抱えながらしゃがみ込んでよォ」
「自分の格好見て言ってくれ!何で摘まむ物取って帰ってきたら幼児化してるんだよ…」
「あのなぁ…。これは幼児化じゃねぇぞ?省エネモードだ。体縮めただけだっつーの」
「それを幼児化と言わずして何と言うんだ!というか、生物の常識を無視すんな!」
「はっ、私に常識を当て嵌めようってのがまず間違ってんだ。諦めて納得しろ」なんて、このロリはやれやれ感を顔に出して言った。
まぁ多分、俺じゃ理解するのは無理だろう。本当どういう理屈だよ、とツッコミは入れたいところだが。あと、摘まむって酒のつまみの方か。
「はぁ…。なら、その子。ショーカ、だっけ?何でメイド服なんか着てるんだ?」
「ん?そりゃあお前、決まってんだろ。人様を襲った罰と私の言い付けを守らなかった罰。それから、酒の肴にでもしようかと思ってな。この、スカートから下着が見えるか見えないかっていう微妙な塩梅がまた…ししし!」
悪い笑みを浮かべながら言う腹黒ロリ。
最後のは、完全に私的欲求を満たすための理由じゃないか…。
目の前のコスプレメイドの少女が、何だか急に不憫に思えてきた。
「見ないでと言っているのに見るなんて、この変態…!」
「いや、あ、あはは、はは…」
スカートを目一杯伸ばしながら言われた。
が、目の端に涙も溜めてるし、可哀想に思うほかない。視線は外してあげよう。
「ほら、そこ座れ」
ロリ師匠に呼ばれて、左側にあるキッチンの前のテーブルに向かう。
座ったはいいが、緊張するな。左右にある椅子のうち、俺が右側に座ったので、必然的に二人が俺と向かい合うような形になるのだ。それと、師恩さんの椅子だが、子供用のだったのには触れないでおこう。
っと、そういえば。
「自己紹介がまだだったな。俺は」
「ああ、桐島刃だろ?」
「な、何でそれを!?」
このロリ師匠は、俺のことを知っていた。そして、それを、当然のことのように俺に言ってのけたのだ。
驚愕を隠せない俺に、彼女は焼酎を硝子のコップに継ぎながら言葉を続けた。
「実は、知り合いに伝があってなぁ。お前のことは多少知ってるのさ」
「どこまでだ?」
「あーっと、そだな…。ショーカと同じ水都台高校に通ってるってのと、高校入学とほぼ同時期に特殊攻撃魔導部隊にも入隊をしたって情報。最近、世界一のマフィア・カンピオーネファミリー五か国会議襲撃の阻止に貢献したんだったか?」
「…あんた、スパイか何かか?」
思った以上に知られていた。まさかここまで俺の行動が把握されていたとは。伝があるって、一体どんな情報網なのだろうか。
「ふっ、私ゃあただの教師さ。その情報だって、お前が寝てる時に知っただけだしな」
そんな俺を他所に、師恩さんは酒の入ったコップを軽く回しながら口元に少しだけ笑みを作って言った。
優しげなその顔と声は、どこか自嘲気味だった。過去に何かあったのだろうか。当然だが、俺には分からなかった。
「で?桐島刃、お前は何が知りたい。何も分からないままショーカと戦ってたんだろ?」
いきなり話を振られたけど、そうか。そういや、色々と教えてくれるって言ってたんだった。
「何も、って訳じゃない。名前だけだけど、凶魔…とか。あと、それを狙う組織がいるって、ことくらいは知ってる」
「なるほど?おおよそ、マフィア連中に何か吹き込まれたって感じか」
「ん?どうしてそう思うんだ?」
「そりゃあ、凶魔ってのはあんにゃろー共がマフィア間の取引の際に使う言葉だからなぁ」
「正式な名前じゃないのか?というか、あんにゃろー共って例の組織のこと、だよな…」
やっぱり、情報が足りなさ過ぎる。改めて自身の置かれた状況を確認した。ほとんど何も知らない今の俺は、あまりに無防備で弱い。
だが同時に、間に合って良かったと思った。
目の前にいるこの二人は、俺に知識を与えてくれる存在だ。
ならば俺は、この機会を有効活用すべきだろう。
「なぁ、色々教えてくれるんだよな?だったら全部、全部教えてくれ!俺は知りたいんだ!」
椅子から腰が浮きそうなくらい前のめりになっていたし、かなり食い気味な聞き方だったと思う。けれど俺には失いたくないものが、守りたいものがあるから仕方がなかった。
「えらく必死だな」
「俺が相手にしなきゃならない案件が、取るに足らないものだったならその必要はないけど、違うんだろ」
俺が聞くと、師恩さんはその幼い顔を縦に振った。
手に持っていたコップを口元に近づけ、酒を一口飲む。そして、テーブルに戻してから口元を三日月のように歪めて言った。
「そうさ。お前が抱えちまった問題は、楽観視なんて到底できねぇもんだ。だから、知りてぇ情報の内容なんて、聞こうが聞かまいが同じだろうよ。なんせ、お前じゃ対処のしようがない。どうする?それでも聞くか?」
暗に、覚悟がないなら話を聞くのは止めておけ、と言いたいのだろう。
以前の俺なら迷っていた。
でも、今は違う。俺は。
「それでも、俺には守るものがあるから。教えてくれ」
危険に飛び込む覚悟なら、四月に決めていた。
だから迷わない。
答えを聞いて、師恩さんは感心したような目で俺を見た。
「ヒュイー、かっけぇ。なんか、学校内で不良扱いされてる奴には見えねぇな」
「なっ、そんなことまで!?」
「ショーカからな。学校に不良がいるらしいって聞いたのさ」
そう言って、師恩さんはショーカの背中をポンポンと叩く。
「ま、そんな噂も、ショーカがお前を敵だと勘違いした理由の一つだけどな」
「へぇー、明日学校休もうかな」
この時ほど、自分の悪い噂を呪ったことはないと思う。棒読みで嫌味を言いながら、ショーカの方を見ると目を反らされた。
「そう苛めてやるな。恥ずかしい格好を見られて、大分消耗してるからな。むしろショーカが不登校になる」
「それはそうだが、いい加減ショーカに普通の服着させて上げたほうが良いんじゃないか?」
「ね、ねぇ…。もしかして私のこと、ショーカで覚えてる?」
話の軽い脱線を、更に脱線させたのはショーカだった。えっ、ショーカって違うのか?
「師匠が言い易いからそう呼んでるだけに決まってるでしょ!私には、結野晶花って立派な名前があるの!」
晶花はテーブルに両手をバンっと力強くつき、席を立って言った。
どうやら違ったらしい。"う"を"ー"と伸ばしてショーカ。大差ないが、まぁ、そっちの方が呼び易いっちゃ呼び易いな。
「まったく……」
やれやれ、とメイド服を着させられたままの少女は、テーブルに置いてあったコップを手に取り………ってあれ?
確かその中には…。
あることに気が付いた俺は、慌てて席を立つ。
「お、おい。それって確か」
「ん?あっ、晶花!それ私の焼酎だぞ!」
やはりか。
が、時既に遅し。晶花は焼酎を飲みきってしまっていた。幸い割れはしなかったが、硝子のコップが手から離れ床に。
「しょ、ショーカ。お、おい。なぁ、晶花って………あー、出来上がってやらぁー……」
火照っているのか、晶花の顔はリンゴみたいに赤い。
そして、彼女の漆黒の瞳を包む目蓋はトローンと下がり気味で、惚けているように見える。
一目で酔っ払っていることが分かった。
「だ、大丈夫か?」
「えへへ、ししょーがらくしゃーん♪へんれすー」
「あちゃー、かなりベロッベロに酔ってるなぁ…」
「よってる?よってなんか、よってなんか、よってな……」
そこで晶花は、糸が切れたように後ろに倒れた。お子様用の椅子から飛び降りた師恩さんがそれを受け止め、事なきを得たが…大丈夫だろうか?確か、焼酎って結構アルコール度数高かったような。
「Zzzzz…Zzzzz……」
「寝てる。まぁ、こいつの両親は酒は強い方だからな。急性アルコール中毒にゃあなってねぇだろう。一応、回復魔法掛けて寝かしとくか」
師恩さんが右手を晶花の胃の辺りにかざすと、淡い白色の光が彼女の体全体を包む。
白の回復魔法が使える。ってことは師恩さん、魔力が俺と同じ光属性なのか。
そう言えば俺、身体強化の魔法と初級魔法しか習得できてないな。回復の魔法とかは便利だから今度覚えておこう。
なんて、考えてるうちに治癒は終わったようだ。
「さて」
その言葉と同時、師恩さんの体全体を覆うように白い光が。そして、ぐんぐんと背が伸びていき。
「おぉ、大人に戻った…」
さっきまで、やんちゃ×可愛いの幼女だったからな。百七十センチ以上の長身に戻ると、やはり雰囲気が違う。面影は無茶苦茶残ってはいるが。
大人師恩さんは、晶花をお姫様抱っこして、テーブルの向かいの黒いソファーに寝かしに行った。
どうせ理解出来ないから敢えて聞かなかったけど、服はどうなってるんだろうか。普通破れるぞ?魔法か何かか。やっぱり分からん。
師恩さんは、別の部屋から持って来た毛布を晶花をかけようとしていた。
「なぁ、桐島刃」
毛布を晶花の肩まで被せ終えたとき、突然、師恩さんが俺に話しかけてきた。
「お前にとってこの世界は、生きづらいか?」
顔をこちらに向けながら飛んできたその言葉は、此方を心配するような声でのものだった。
女の子のキャラが出てきたら、ああいうシーンはお約束みたいなものですよねぇ。我ながらナイス!
っと、作者の今話に対してのアホな発言はさておき。
この前、作品の書き直しがどうたら言ってましたが、プロローグ書き終わりました。あと、第一話もほとんど書き終えました。
まだ出しませんが、色々進んでます(ゆっくりなのはお許しを(汗))。
進んでると言えば、別作品は全然進んでいませんが、来年辺り(何月かは不明)に出したいですね。
では、次話でお会いしましょう!




