第31話終わりの始まり
さぁ、物語もいよいよクライマックスです!
あっ、それとネット小説八の企画で感想を頂きました!
もらった時、感想ゲットだぜ!と某十万ボルトの電撃をぶっ放す黄色いネズミのモンスターの飼い主的な少年みたく、心の中で思い切り声をあげました(電撃と言えば、“とある”町での異名が超電磁砲な某ビリビリ中学生の女の子を真っ先に連想してしまいます。何ででしょうかね?)。
「馬鹿らしい、馬鹿らしいにも程があるぞ。動けもしないこの状況で貴様らに何ができる?いいや、何もできはしない!」
バルトロは薄い笑みを浮かべながら、俺達にかける重力をさらに強めて言葉を吐いた。立ち上がっていた俺は、のし掛かる重さで床に片膝をつく。
「…それで?」
「何だと?」
「お前の魔法が…卑怯なくらい手強い代物なのは…理解した。…それで?他に俺達が勝てない理由は何だ?」
「はっ、貴様らに勝機が欠片もない理由などそれだけで十分だろう」
「足りねぇよ、そんなんじゃ!」
「んなっ……!」
突然の出来事により、後ろを振り向いた奴はその顔を悲痛に歪めた。
「なぜ…貴様がそこにいる……!」
「チッ、仕留め損なったか!だが、緩んだな?」
後ろに飛んで距離をとったバルトロの前には、炎を槍の形状に変化させ手に持つ火ノ宮がいた。
レインが密かに火ノ宮に幻覚術を施し、火ノ宮はバルトロの背後に回り込んで奇襲を仕掛けたのだ。
突き出した槍が奴に与えた傷は、防弾チョッキの防御を破って少し深めに腹を掠める程度。しかし、この奇襲は相手の集中力と注意を一定以上削げた時点で成功していた。
それだけで体にかかる重力が一気に消失し、俺達の動きを阻害するものは無くなったからだ。
「魔法解除した状態でよそ見とか余裕だな!はぁぁぁぁ、疾風迅雷!」
「と、水玉!」
瞬間的に跳躍した俺は、バルトロの背中に突きを刀で目にも止まらぬ速度で食らわした。当然魔力を込めずに放った一撃では防弾チョッキに防がれ、敵を刀が突き刺すことはなかった。
だが、レインの魔法はそうはいかなかった。俺の攻撃で吹き飛んだバルトロの体全体を、突如出現した魔法の水の球体が、足の爪先から頭まですっぽり覆い呼吸を奪ったのだ。肺の中の空気も、俺の突きのせいで全て吐き出してしまった。さぞ苦しいことだろう。
簡単な戦略だが、連携がなければ魔法は避けられていたのは間違いない。
「――――――――!」
空気を奪われたバルトロはもがき苦しむ。
俺は、即座に拘束に入ろうと懐から拘束具を取り出して接近する。
「ガハッ!ゼェ…ゼェ……。この程度で…勝てると思うな…!」
が、近づくやいなや、水の塊がまるで何か強い力の干渉があったかのようにバルトロの足元へと落ちた。奴の魔法だ。
同時に後ろの火ノ宮も重力の干渉を受け方膝をついてしまった。
「詠唱もなしに重力魔法だと!?」
「ふっ、私をそこらの凡人ら等と一緒にするな!無詠唱で魔法を発動するぐらい造作もないぞ?」
俺達の頭上に魔法陣が出現し、魔法による重力操作が発動しようとしている。
くッ、回避が間に合わない!
流石にこれ以上動けなくされてしまっては、いくら抵抗しようがレーナを守れず終わってしまうだろう。
守れないのは、もう嫌だ。だから、誰も死なせないで済む程の圧倒的な力が欲しい。
きっとこの感情は、酷く子供染みていて我が儘なものなのだろう。
けれども欲してしまった。
それが原因だったのだろうか?
「邪魔…ダッ!クダケロ!」
魔法が発動する直前。理性が瞬間的に吹き飛び、俺は再び凶魔と呼ばれる状態に。そして、頭の上の魔法陣を刀を乱暴に振るってかき消した。
惨たラしく…殺しタイ!全てヲ…無茶苦茶に引き裂イて壊シタイ。泣キ叫ぶこトモ出来ナイほどの恐怖ト苦痛ヲ与えてやりタイ…!
脳が狂ってしまいそうになるくらい激しい破壊衝動が、俺の全てを支配していく感覚だ。
でも、だからこそ……。
―――邪魔なのはそっちだ…出てけよイカれた欲望がぁぁ!―――
「っだぁぁ!り…せいを保てっ……!」
無理矢理に理性を引きずり戻し、なんとか感情の暴走を抑える。代わりに溢れ出る力が失われたが、あの状態での力がおかしかったのだ。元々の俺の強さが失われた訳ではない。
「…驚いた……!よもや魔法陣を力技で破壊するとは……」
「ああ、それに関しちゃ俺も驚いてるところだ。けど…!」
俺は刀を握る力を強くし、魔力を纏った体でバルトロの元へ稲妻の如く駆ける。
「くそッ、当たらない……!」
奴は重力魔法を連続で放ってくるが、幻舞の舞うような動きで攻撃を全てかわしていく。
「お前の魔法は確かに凄い。けど、それだけだ!」
「何だとッ…!?」
「魔法が発動するまでに掛かる時間。発動のタイミング。それを見切っちまえば当たんねぇ!!」
「くッ…来るなッ!」
「来るさ、来てやる!お前をぶった斬りになぁぁ!」
「どうして当たらない、何故、何故なんだッ!当たるはずなんだ…くそッ、くそッ、くそッ!」
バルトロは半ば自棄になりながら重力場を幾つも作る。しかし、そのどれもが俺に掠りもしない。奴に魔法は見切ったと告げたのだから当然だ。
ただ、一つ気がかりなことがある。あのイカれた状態に二度もなった反動があるかもしれないことだ。
今まで窮地に陥る度に、俺は己の限界以上の力を発揮していた。それも、体のリミッターが外れていたから、という理由では済まされない程の力がだ。恐らくそれが、凶魔と呼ばれる能力発現の予兆だったのだろう。
もちろん全部が全部ということではないと思う。が、ここに来る途中戦ったカルロという敵の時は、自分でも認識出来るほど確実にその予兆が現れていた。
そして、皆に隠してはいたが、あの後何度か頭痛や倦怠感が俺を襲った。一時的なものだったから良かったものの、今ここで症状が出たら今度こそ本当にまずい。
だからこそ最短で、俺は目の前の敵を倒さなければならない。守るのだと…そう決めたから!
バルトロの重力操作による攻撃をさらに回避し、風のように突き進む。
「桐島流……」
「これで終わりだぁぁぁ」
飛び上がって技を放つ瞬間、バルトロは重力魔法を使った。自らも巻き込む形で頭上に展開された大きな魔法陣。
しかし、魔法が俺に牙を剥くことはなかった。
「させない…銃魔法・水の連弾!」
妨害とばかりにレインが放った無数の弾丸は、俺の上にあった魔法陣を撃ち抜いたのだ。
蒼い弾丸たちに蜂の巣にされた魔法陣は、魔力を魔法へと変換するための術式を破壊されたことにより消失した。
「んなっ………!?くそッ、終われぇぇぇ!」
「終わるのは…お前の野望だけだ!」
魔法札を左袖から取り出したバルトロは、必殺の一撃を俺に向かって放つが、俺は体を捻って後ろに回り込み回避。
狙った獲物を外した赤黒い一条の光は、斜め上に方向に突き進む。そして、この部屋を照らしていた唯一の光源であるシャンデリアを破壊した。
漆黒が一瞬にして辺りを包み込む。
暗い闇を照らすのは、先程バルトロが破壊した天井から顔を出した月の光のみだった。
俺は全てを終わらせるための技を放ちにいく。
その瞬間、勝て、という言葉が脳裏を過る。何度も、何度も、言葉が繰り返される度により想いが強くなっていくのが分かる。
廃工場での、あの後悔を繰り返すな!という想いが。
「はぁぁぁぁぁ!十六…夜!!」
「しまッ……………!」
バルトロは、自らの野望が次の一振りで終焉を迎えることを悟り、両腕を使って守りに入ったが、遅かった。
月の光を一心に受けた刀は、満月のような軌道を描きながら敵の右肩を袈裟斬りにしたのだ。
「安心しろ、峰打ちだ」
俺がそう言った直後、バルトロは膝から崩れ落ちるようにして倒れた。
「終わった…みたいだな………」
任務はまだ続いているというのに、敵を倒した途端に体の力が抜け始める。
「さてと…レーナ、終わったぞ。どうだ?余裕だった…ろ……?って、どうしかしたのか?」
「ダメ!まだ終わってない!逃げて!」
「えっ?」
涙声になりながら発せられたレーナの声に俺は戸惑った。
悲劇の元凶はもう倒したはず。にも関わらず、レーナは『終わってない』と言った。
きっと、俺が甘かった、甘過ぎたのだ。
倒したはずの男の嘲笑混じりの言葉が聞こえた。
「……終わり………の…………始まりだッ…………!」




