第29話タスケル………!
赤い絨毯を何度も踏む複数の足音。残された時間が十分とないことに焦りを見せながらその足音達はさらに足を早める。
俺達は今、螺旋階段を走りながら地下へと向かっている。
「ここを下ったら一本道がある。その先の扉先にファミリーのボス・バルトロとあの子がいる」
聞こえたのは俺とレイン、斧田さんの道案内のために前方を走っていた火ノ宮の声だった。
「分かった。それで、明らか邪魔しそうなそのボスの能力を知っときたいんだが…」
「ああ、当然だ。これを知ってると知ってないじゃ結果が大きく変わっちまうからな」
「そんなにか?」
「一番警戒しとかなきゃなんない部屋に、ファミリーのボス一人しか守り手がいないんだぜ?いいか?ボスは重力魔法を使うヤベェ奴だ」
「「「なっ…!」」」
重力魔法だと!?確かかなり珍しい魔法じゃなかったか?それに、それが本当なら確認しとかなきゃいけないことが出てくる。
「火ノ宮、その魔法の射程はどのくらいだ?」
「正確には測っちゃいないが、あの地下部屋ならどこでも発動出来るだろうぜ?」
「じゃあ、俺らが入った途端に魔法かけられて、はいお終い、なんてことあり得るんじゃ…?」
「あるな。しかも重力は俺の知る限り二から三倍に重くすることができる。毎度思うが厄介だ」
その事実を先に知れて良かったと俺は思った。
そしてする事が決まったと言える。
「よし…じゃ、突入した瞬間に俺と斧田さんがバルトロを気絶させて、火ノ宮がレーナを保護って感じだな。あとレイン」
「ああ、分かってる。魔法の妨害なら任せろ」
「頼んだ」
作戦はこれで決まった。要するにスピード勝負だ。もちろんレインの銃弾が敵に一番早く届くだろうが、防弾チョッキなんて着られていたら一貫の終わりだ。
どういう経緯かは知らない。けどレインは初めて会った時から人を撃つことを嫌がっていた。トラウマがあったのだろう。
そして、一応は克服したみたいだが今でも人を撃つ時には細心の注意を払って、かつ、威力を出来るだけ弱めてでしか、怖くて撃てないらしい。きっとトラウマを振りきれていないのだろう。
だが、別に悪いことではないはずだ。クリスタルモンスターのような例外はあるだろうが、基本的に撃つことに微塵も恐怖しないのは命を軽く見ている奴だ。
死はその人一人の問題じゃない。残された人間は何も思わない?あり得ない、絶対にあり得ない。
近しい人間ほど心に大きな穴が開くのを俺は知っている。初めて目の前で爺ちゃんが瀕死の状態になった時に感じた急な絶望、喪失の恐怖は忘れられない。
っと、今は考えることはそこじゃないな、切り替えよう。
階段を下りきった俺達は通路を真っ直ぐ走る。
「炎で扉を吹き飛ばす!坊主と脳筋、一瞬で決めろ!」
「任せとけ!」
「その呼び方に文句をつけたい所だが、今は許しといてやる!行くぜ、刀の坊主!」
火ノ宮が燃えるような炎の魔力を身に纏い、前方に魔法陣を出現させる。
「炎の力よ 我が元に集い 燃え盛り 紅き竜と成せ 炎魔法・炎竜!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」
握った拳を陣に叩きつけ、そこから炎の竜が扉を破壊せんと咆哮をあげながら翼を広げ飛んで行く。
手はず通り俺と斧田さんがその後を追う。
両者各々光と風の魔力を体に巡らせ、肉体と武器を極限まで強化させる。
「突入ーーー!」
竜が扉を破壊し、俺の掛声と共に二人揃って部屋へ飛ぶように入る。
辺りが開け、部屋の全体が見える。
…そこに白いワンピースに金髪と青い瞳の少女、レーナ・アルファーノがいた。
服はいい。ただ、その目が虚ろだったのが印象的だった。
自分の知る限り、彼女の目は優しく希望を宿していた。それなのにどうだ?今の彼女は絶望したような、すべてがどうでもよくなってしまったような目をしているではないか。
透明なガラスのような四角い入れ物に入れられていた彼女は暗い海の中にいるようだった。深く深く、苦しみから逃げるためにもがくこともなく、仕方ないのだと、自らが沈むことを受け入れているように見えた。笑顔が消えている。
どれだけ泣いたのだろう?目の回りが赤い。
その事実が酷く俺を苛立たせた。歯を剥き出しながら食い縛る。
部屋は、あのパーティー会場くらいの広さだろう。天井に吊るされたシャンデリアには灯りが灯されており明るい。
そして敵がいる。俺達の登場に何故か驚きもせずに悠々と立っていた。
ここまでが二から三秒ほど。
倒すべき敵・バルトロとの距離はおおよそ四十メートルほど。
悪夢を断ち斬ってやる!
俺達二人は同時に床を踏みしめ加速する。
バルトロとの距離は瞬時に縮まり俺は刀を峰に変えて上段の構え、斧田さんは巨大な斧を奴の後ろに回り込んで上から振り下ろす。
バルトロはこれに反応しきれていない。
斧田さんはフェイント、俺が奴を気絶させる算段だ。
だが、刀が完全に落ちきる寸前、敵は不敵に笑みを浮かべた。
「させるか!水魔法・水弾爆裂!」
「「ぶはっ!」」
バルトロを中心に水の膜が張られ、瞬時に破裂した。俺たちはかなりの勢いで吹き飛ばされる。
もちろんレインの魔法でこれがおふざけではないことを俺は知っていた。
「ゴホッ、ゴホッ……悪いレイン、助かった」
「問題ない」
「くっそぉ……警戒しとくべきだった!破壊の魔法札、そりゃ持ってない訳が無いよな…」
不味いな…攻撃の手を止められた。奴の両手に握られているのは二枚の魔法札。既に魔法は放たれ、天井に二つの穴が空いていた。
敵の次の一手から逃れるために俺と斧田さんは数少ない遠距離の魔法攻撃を試み、レインと異変に気がついた火ノ宮も銃と魔法で敵の迎撃に当たろうとする。
しかし、既に手遅れだった。
「膝まずけ」
敵のその一声で体に重圧が掛かる。
これが重力魔法…なんて重さだ……!けど、魔力強化のお陰で動けなくはない。
「ほぅ、二倍を全員耐えるか…。だが……」
「な、なんて重…さ!」
「まず一人」
レインが重さに耐えきれず地に這いつくばる。
先程よりもさらに重さを感じることから、これが三倍の重力なのだろう。
しかし、これでは終わらなかった。
「ふむふむ…良くない。今ので私の言う通り大人しく地に顔を埋めておけば、苦しまずに済んだものを」
「抜かせクソボス!」
「火ノ宮か。はぁ…我が娘と同様に私を裏切るとは愚かな。躾が必要だな…四倍」
「「「「ぐぅ……!」」」
四倍!?情報と違う。
全員、あまりの重さに耐えきれず床に膝をつく。…倒れる訳にはいかない。心に言い聞かせるも、さらに重さが増す。五倍の重力が体に掛かり、体が地面に押し付けられ、身動き一つ取れなくなってしまった。
「ゴハッ…」
内臓がやられたのだろう、口から血を吐いてしまう。
…助けると誓ったのに、体が動かない。動けと言っているのに動かない。バルトロが銃を俺に向ける。
「――――っ…て」
万事休すかと思われたその時、声は聞こえた。
その声の方へ視線を向ける。
…声の主はレーナだった。目に涙を浮かべ、透明な箱をドンドンッと必死に叩きながら訴えている彼女だった。
「待って…お父さん!おね…がい……」
「待つ?何故だ?何故私がお前の命令で待たなければならないのかね?」
「その…人たちは…殺さないで……」
「断る」
「お願い!言うことは何でも聞く!だから……だから……!おね――――」
ドパンッ
場は静まり返り、一同はその一点のみに視線を向けていた。
「へ………?」
「聞けない相談だと私は言った。二度も言わせるな。こんなガキどもを何故生かさねばならない?」
「ぁ…ぁぁ……ぁぁあ………」
「それに、だ。言うことを聞く?笑わせてくれるなよレーナ。すべての主導権は私が握っている、私がお前をコントロールしている、お前に自由などない!どうした?血なら既に幾つもの人間のを見てきただろう?この刀の子供もその一つに過ぎない。さぁ、泣き止め。目障りだ」
バルトロが、あんまりな言葉をレーナにぶつけているのが聞こえる。
「刃、刃!」
「くっそォォォォォォォォ!」
「何でだよ…畜生!」
皆の声が聞こえる。
しかし、それも朦朧とした意識の中での事だ。
心臓の辺りが熱い…熱湯でも触っているかのようだ。だんだんと意識を持っていかれる。
……そうか、俺は、撃たれたんだ…心臓を。この熱いのは俺の血だ。
それを理解した瞬間、急激に体の力が抜け始め、意識が遠くなっていくのを感じる。
けれど、心がそれを許さない。
「……死なないで……嫌……!私…まだ謝って…ないのに……。嫌…嫌…嫌……もうこんなの…………………」
ここに来る途中、火ノ宮は俺達に彼女がどういった経緯で日本に来たのか、日本で何をしていたのか、拐われた後どうしていたかを聞いた。苦しんだだろう、辛かったろう。
それを助けに来た?
…助けられてないだろ!俺が守りたいと思った人は……助かるどころか泣いてる!
誰が泣かせた?お前だ桐島刃。
良いのか?
本当に、このまま終わってそれで良いのか?キサマハ。
良くない、ダメだ助けなキャ。
力ガ欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、……ホシイ………!
スベテヲ、マモレルヨウニ。
ホカデモナイ、
「オレガ…………ヤル…………………!」
強力な重力内で瀕死の桐島刃が立ち上がる。
血塗れで、動けるはずがないその体で。
紫がかった、まるでクリスタルモンスターの結晶のような膨大な魔力を桐島刃が纏っている。
「刃!」
「坊主!」
「坊主!」
仲間の呼び掛けにも応じず、赤く光る目で対象を睨み付けながら少年は進む。
敵の元へと、おぼつかない足どりで。
「これはもしや…この子供、凶魔か?」
桐島刃の体に異変が起きたのを全員が理解した。
このあとが気になるっ!という終わり方になりましたね。
作者も早く書きたいです!しかし、眠い!眠すぎるので一眠りしてからですね。いつも話のクライマックスになってくると徹夜で執筆してしまうので、もう本当キツイッ!徹夜とかアホか!なんて後で思ったりするのですが、不思議と書いてる途中は楽しくてしょうがないのでついやってしまいます。
本当は起きていたい!
最近、異世界モノの小説を読んでいたのでスキルとかどんなのがいいかなと思ったのですが、『不眠不休』とか『睡眠不要』みたいなスキルが作者は欲しいですね。
ちなみに作者が好きな異世界モノは『Re.ゼロから始める異世界生活(アニメを早く見たいのに延期になって辛いです…)』や『転生したらスライムだった件』、それと最近のマイ フェイバリット(イ・ケ・ボ☆)は『盾の勇者の成り上がり』です(是非読んでみて下さい。え?もう読んでる?それは失敬致しました)。
異世界モノもいつか書いてみたいなぁ、やはりハーレムが良いですよね?いや、しかしここは敢えてハーレムアンチの方々のためのヒロイン一筋で攻めるべきでしょうか?でも、異世界ファンタジーと言えばハーレムである訳だし…悩みどころですね。
まだ一作も終わらしてないし、なんなら、出してはいないけれどもう一作(異世界モノじゃないですよ?)も書き始めているというのに想像を膨らませる作者でした。




