第18話一つの結論
「…やっぱり。」
「どうした?レイン。」
レインの意見により、俺たちは渋谷に向かい調査をしていた。
休日だからか、人が多いこと多いこと。
それでも、クリスタルモンスターに荒らされ、壊されたオブジェやら道やらの修復が間に合っていない。中にはその残骸が残っている物もあった。そのためか現場には黄色いテープが張られ、結界でもできたかのように俺たち以外そこには誰もいなかった。
その調査を始めてすぐにレインが呟くので俺がどうしたのか尋ねてみた。
「ここは、たぶん奴らが襲ったんじゃない。」
「でも、ここに現れたのにも、あの赤い結晶が中に入ってただろ?」
レインの意見に俺は異議を申し立てる。
そう。今までのクリスタルモンスター出現件数は17件、そのうち、あの化け物を操るための結晶が発見されたのは12件。
そして、ここも12件あった赤い結晶を使っての襲撃があった場所の一つであり、襲撃者が二度目に選んだと思われる襲撃場所だった。
「刃は経験不足。だから分からないだけ。」
「おっと、レインさん。痛い所を突きますね。」
「…でも、事実。」
経験不足なのは事実だが、実際に面と向かって言われるとちょっとだけ傷つくんだぞ?
まぁ、悪気はないんだろうけど。
だって少し申し訳なさそうに言ってるし。
「で?センパイはどう思うわけよ?」
「クリスタルモンスターというのは、どこでどうやって生まれるのかは分からない。」
「そりゃ、まぁ、そうだな。」
「でも、一度人前に現れると自身が壊されるまで暴れ、人々を殺し続ける。その凶暴さは、餓えた肉食獣以上。」
「餓えた肉食獣よりも凶暴ねぇ。確かに表現は間違ってない…のか?」
俺は今まで見てきたクリスタルモンスターのことを思い出す。
最近はレインが一撃必殺だったからあまり感じる暇がなかったけど、クリスタルモンスターというのは得てしてみんなそんなものだ。それに最初見た時は確かにレインの言うようなものを俺も感じたと思う。
でもなんだろう。その表現が正しいと断言できるかと言われれば怪しいな。
何せ経験が少ないから。
まぁいい。続きを聞こう。
「とにかく、奴らは物凄く凶暴。それは刃も多少は感じたはず。でも、昨日言ったようにクリスタルモンスターの中に入っていた結晶はその力か何かで奴らを操っていたから、敵の目的が何であれ、敵は意図的に死者を出さなかった。」
「ああ、人払いみたいなそんな感じだって。」
「ただし、一つだけを除いて。」
「は?何を言って…」
俺が言い終わる前にレインはそれを遮った。
「確かにその12件の事件では死者は出なかった。けど、たった一つ俺たちが捕まえ損ねたあの襲撃者たちのは、たまたま俺たちでなんとか出来ただけ。」
「どういうことだよ?」
「あの時のクリスタルモンスターは、強い殺気を放っていた。それを奴らが押さえつけてたけど、完全じゃなかった。抵抗があったからか動きが鈍かった。だから、あんな簡単に三体同時に倒せた。」
「そうだったのか?俺はてっきりあれが平常運転なのかと思ってた。」
「出来なくはない。でも、もっと気を引き締めてやらないと出来ないもの。」
そして、レインは、視線を壊されたオブジェに向ける。
「それに、ここの被害の出かたと、あの時のとでは明らかに違う。」
「被害の…出かた?」
「そう。ここのは壊されてはいるけど、優しい。」
「意味がわからん。」
「ホンマやな。」
「普通のクリスタルモンスターは人間だけに意識が向いてるから、建物とかなんてぼろぼろに壊して、その飛び散った破片が他のものにも更なる被害を与える。それなのに、ここの被害はそこまで激しいものじゃない。」
「…言われてみれば…そうかも…。」
「そして、あの襲撃の時以外のここを含めた11件はみんなここと同じように壊されてる。」
俺は、それを聞いて血の気がさーっと引いて行くのをはっきり感じた。
つまり…つまり……、つまりそれって
「…おい、まさか。二つの組織が同時に何かを仕掛けようとしてる…なんて、い、言わないよな?」
「可能性は高い。第一、手口が違う。」
「うーん、なるほどな。んで?レイン、自分は江戸川区以外の事件について、いつ調べたんや?実際に確かめに行かへんとそんなん断言できひんやろ?」
「仕事外の時間に調べて回った。各地の担当者にも聞いて証言を得てきた。何人かは、俺と同じように感じたらしい。これで、バッチグー」
レインは、親指を立てて言う。
「な…それなら俺も連れてってくれりゃあ良かったのに…」
「学校があるだろ?」
あー、まぁ、確かに。
って…
「おい、待て。レインお前、学校行ってないのか?」
俺の質問にさも当然だと言うように頷くレイン。
「大丈夫。義務教育で習う範囲の所は全部習った。高校なんて行く必要がない。」
「もう仕事にも就いてるし別に気にすることもないやろ?」
「刃はなんで学校に行くんだ?」
「なんでって…そりゃぁ…」
レインの質問に俺は返す。
「だってさ、俺は、俺にとっての普通の日常が送りたいから。特魔部隊の仕事はそれを壊されたくないからやってるだけだし、別になりたいのがそれじゃないんだ。」
そうだ。俺にだって日常があるんだ。今は、仕事が忙しくなってるけど、これが終わったら俺も日常を満喫してやるのだ。
少ないけど、友達だっている。レインや、たった1日だけど、不思議と仲良くなれたレーナだ。
「日常…。うん…。」
ん?レインが何か言ってるが、どうした?
まぁ、いいか。
「うんうん。さらっと格好いいこと言う辺り、刃君って主人公っぽいよね。」
「え?」
主人公?何を言ってるんだよ、止めろよ、急に恥ずかしくなって…なって…。…ん?
「…な、なにやってんの?レ、レーナ?」
「何って、通りかかったら二人がいたから話しかけただけなんだけど…」
「そ、そうか。ってそうじゃねぇよ!ここは、立ち入り禁止って黄色いテープに書いてたろ?」
そう。立ち入り禁止のテープで覆われているこの場所にレーナが知らない間に入っていたのだ。噂をすれば…というやつか?
「わかった、わかった。すぐに出て行くから。ちょっとだけ…ね?」
「俺たちが見てれば大丈夫。」
「まぁ、レインが言うなら…」
「ありがとう。」
ニッコリと太陽のような笑顔のレーナは、数日前に出会ったイタリア出身の金髪碧眼で笑顔が良く似合う可愛い女の子だ。
「久しぶりだな、レーナ。元気にしてたか?」
「もちろん!ねぇ、それよりもこの小さいのは何?」
レーナは、小型衛星を指差し尋ねてくる。もちろん、それはジンタのことだが。
「ああ、こいつはジンタって言う俺の仲間だよ。」
「仲間?これが?」
「お?なんやひどい物言いやな?ちょーーっと可愛いからってそれは失礼なんとちゃう?」
「あ、ごめんなさ…喋った!」
「当たり前やろ?俺は今はこんな小さいけどホンマは超クールビューティーなお兄さんの姿しとんねん!そこんとこ分かっといてや?」
「いや、お前ロボットだし、クールビューティーってなんだよ。お前、そんなに外見は格好良くないだろ。」
「うっわ。傷ついたわ!自分、ひど過ぎやん?俺ら仲間やん?少しはいたわってぇな?」
「だからAIのくせして「傷つく」って嘘つくな。」
「な…もう怒ったで今日という今日は許さへんで!」
俺の指摘にジンタはキレたようで、小型衛星を使って俺の頭に頭突きする。
もちろん、俺は避けるが諦めず、ジンタは何度も俺に向かってくる。
そんなことをしていると、
「ふふふ。楽しそうだね。」
レーナに笑われた。まぁ、バカなことしてた自覚はあるんだけど。
「えっと、ジンタ君…だよね?よろしく。私はレーナ。」
「お、おう。よろしくな。ジンタや。」
レーナはジンタとの挨拶が終わったあと、再度尋ねてきた。
「そういえば、三人とも何してたの?」
「調査だよ。」
「調査?何の?」
「それは秘密。」
「レインの言う通りそれは秘密だよ。」
「そっか。仕事だもんね?ごめん。」
「何や?興味でもあんのか?」
「え?」
「いや、そんな顔してたから。」
「なくはないけど、無理して知りたいほどじゃ…」
「ホンマか?怪しいな。」
「本当だよ。」
なんだ?ジンタの奴、疑り深いな。
「別に興味持つくらいいいだろ?あんまり俺の友達いじめんな!」
「い、いじめてへんし。」
「嘘つけ!」
「と、友…達…。」
「どうした?」
「え?あ、いや何でもないよ?」
「そうか?顔が赤いぞ?」
「そ、そうかな?き、気のせいだよ…」
「それならいいけど。」
うーん。今レーナが小さい声で何か言ったと思ったんだが。気のせい…なのか?
「あ、私これから用事があるんだった。じ、じゃ、またね?」
「またな。」
「また。」
「…」
レーナが手を振って俺たちと別れようと後ろを振り返った瞬間に俺は思い出したようにレーナに言う。
「そうだ。レーナ、今度暇ができたら、この前行きたそうだった遊園地に皆で行こうな。」
「…うん。」
レーナは振り向いてそう言う。しかし、嬉しそうなのに、どこか悲しげな表情を彼女はした。
たぶん思い過ごしだと思う。
さっきまで、真っ青だった空が少しだけ、黒い。
結局、今回の調査では、はっきりとした証拠は見つからなかった。
代わりに、いくつもの状況証拠が発見され、全貌は分からないものの、この東京で起こって欲しくない何かが起ころうとしていることが分かった。
「レイン、ジンタ。取り敢えず、今日分かったことをまとめて、報告書に書いとこう。」
「うん。」
「状況証拠と言ってもこんだけ集まれば、上も危機感感じて何かしらするやろ?」
「ああ。」




