第17話捜査開始
久々の投稿になりました。
どうぞお楽しみください!
「さすがに、」
「きつい。」
「ま、ガキにしては頑張ったし、そろそろ終わっても…」
「いや、」
「まだいける。」
「ホンマ、ようやるわ…」
レーナという少女と出会ってから数日。俺たちは特殊攻撃魔導部隊支部にて、とある調査をしていた。
4月から今までの間で、東京都内でクリスタルモンスターが異常な数出現している事についてだ。
「一応、分かってると思うけどな、別にこれは捜査班の勝手な憶測やで?」
「分かってる。」
捜査班の鬼塚さんの推測は、クリスタルモンスターを使って7月に行われる五か国会議で何者かがテロを起こそうとしているかもしれないというものだった。
それはあくまで憶測でしかない。もちろん、他の可能性がない訳じゃない。しかし、クリスタルモンスターの異常発生に加え、その多くから奴らを操ることが出来るらしい赤い結晶が見つかっていることなどから、現時点で可能性が高いのはそれなのだ。
「しかも明らかに自分らの仕事の範囲外のことやってるし、」
「いいんだよ、ジンタ。」
「自己満足でやってるだけ。」
ジンタの言う通り俺とレインの仕事は、江戸川区でのクリスタルモンスター出現時に現場に駆けつけ、討伐すること。
だが、聞かされたことがことだけに、何もしないことに罪悪感を感じてしまったのだ。レインもそう思ったのだろう、ここ数日は俺のとなりで一緒にずっと資料や監視カメラと睨めっこして、そのテロの可能性を示す証拠を探している。
「はぁ…分かった。せやけど、あと一時間くらいにしとき、仕事してて気づいてへんやろけど、10時や、10時。」
「別にいいだろ?明日休みなんだし。」
「…自分ら、労働基準法て知ってる?」
「あ、そうか忘れてた。」
時計を見ると、ジンタの言った通りすでに午後10時を過ぎていた。
「じゃ、今分かっていていることを整理したら終わりにするか?」
「そうだな。」
そう言って、俺は紙を机から取り出し、情報整理のためペンを動かす。
「えー、まずはクリスタルモンスターの出現件数だけど、今日までで17件。さらに増えたな。」
「その内、12件で赤い結晶を発見。」
「出現した場所に印をつけてみると江戸川区と練馬区を除けば、だいたい千代田区を囲むようにして出ているな。」
「ふーん。まぁ、テロをするかはさておき、なんかありそうやでな?」
「ああ、それに監視カメラと資料を見て思ったんだ。操っている奴らは、ただ暴れさせているだけじゃなさそうだって。」
「俺も刃と同感。」
俺たちの発言にジンタは首を傾げる。
「ん?どういうことや?俺には普通に暴れてるようにしか見えへんで?」
「えっと、こことここなんだけどな…」
俺は、ジンタに二つの映像を見せる。どちらも監視カメラに映っていたクリスタルモンスターが暴れている映像だ。
「左は通常の、右は赤い結晶が入っていたクリスタルモンスター。」
「動きをよく見てみると、左のやつはめちゃくちゃに暴れているけど、右のはなんて言うか、人を殺すために暴れているようには見えないんだよな。」
さらに、資料を見せて俺とレインの意見を言ってみる。
「資料でも、かなり違いが分かるぞ。今年と去年の同時期のクリスタルモンスターによる死傷者を比べたら、今年は出現件数の割には死傷者が少ないんだ。」
「基本、特魔部隊がいれば、一般市民の死亡率は、ぐんと下がる。けど、駆けつけるまでに何人かは殺されるケースが多い。」
「にもかかわらず、結晶が入っていたクリスタルモンスターは俺たち特魔部隊が駆けつけるまで、誰一人として殺していない。怪我人はいるけどな。」
「なるほどな。これは結構怪しいな。映像見る限りは単なる破壊工作ちゃうし、何か目的があるから人払いやってるように見えるな。ホンマよう調べたな、捜査班に入れるくらいやで?」
そう言われると悪い気はしない。実際、鬼塚さんにも「へぇ、これなら捜査班でもやっていけそうだな。」と言われた。
もちろん、捜査班には入るつもりはないけど。
「まぁ、全部状況証拠だけだし、」
「「子供が調べたことや」って、まともに取り合ってくれへん…か?」
「たぶん。だから、俺たちが欲しいのは、はっきりとした証拠なんだよな。どうする?レイン。」
俺がそう尋ねると、レインは顎に手を当て、少し考えてから言う。
「今まで調べたことは取り敢えず置いておくとして。あとは明日、現場を見て手がかりを探す…くらいだと思う。」
「分かった。うん、じゃあそうしようか。レイン、ジンタ、集合は朝9時でいいか?」
「そうだな。それでいい。」
「え、俺も?正直、俺は何もしてへんで?ええんか?」
自分を指差して、俺に驚くように言ってくるジンタ。
まったく、分かってない。
仕方ない、言わないと一生分からなそうだから…といってもロボットであるジンタに寿命があるのかは知らないが、言ってやろう。
「当たり前だろ?俺ら、仲間だろ?」
「えっ…そ、そうやった仲間か仲間な。忘れてたわ。」
なんでちょっと嬉しそうなんだ?照れくさそうに、別に痒くもないだろうに金属でできた頬をかいている。まぁいいか。
というか、
「AIなら忘れてたってことはないだろ…」
「ええやん、細かいことは気にすんなて。」
「はいはい。面倒だからもう突っ込まないぞー。」
「じゃあ刃、明日。」
「ああ。また明日な、レイン。あと、ジンタ。」
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翌日、午前9時。
特魔部隊支部前で俺とレインは集合しており、あとはジンタを待つのみだった。
今日は、雲ひとつない日本晴れだ。体に当たる日光が程よく温かくて気持ちいい。
「おう、悪いな。ちょっと遅れてもうた。」
視線を声の主のほうに向けると、そこには小型の衛星が宙に浮いていた。
これは、ジンタだ。といっても本体は支部の中だけどな。
ロボットが街を歩いていたら目立つということで、ジンタには小型衛星でついて来てもらうことになった。
「んで?まずはどこから調査すんのや?」
「まずは、あの襲撃を…まぁ、つっても、被害は建物の損壊を除いたら皆無なんだけど…その事件を引き起こした襲撃者を捕らえた現場からだな。」
俺の初めての討伐任務であり、同時に初めてレインと共闘をした現場だ。
レインは納得したように頷き言う。
「実際、クリスタルモンスターを操っていたらしいと分かっているのはあいつらだけ。多少相手を知ってる分考えが読みやすい。」
「と、俺とレインは思うんだが。」
「まぁ、ええと思うで。そうやって何かの証拠かその手掛かりを見つける訳やろ?」
「ああ。じゃ、そこに決定だな。」
というわけで、俺たちはその現場へ足早に向かったわけだが…
「ま、そう簡単には何かが見つかるわきぁないわな。」
すでに捜査班が散々調べたところを、俺たちのような素人が調べ直して何かを発見出来るわけでもなく、ただ時間が過ぎていくだけだった。
「捜査班が事件のあと調べに調べて赤い結晶以外何も見つからなかったんだから、無駄なことかもしれないのは知ってるだろ?」
「そもそも、さっき考えを読むことで情報を得るって言ったはず。」
「そやな。自分らでも普通に調べてみて何か見つかったら儲けもんみたいに考えて一応調べただけやしな。」
俺たちが調べても見つからない可能性は高かったから、別に絶対に何か見つかると期待してた訳でもない。
「そんなわけで、俺は気づいたことがある。」
俺の言葉に二人とも…本当は一人と1機もしくは一人と一体というのがベターなのだろうが、そこは気にしない。とにかく、二人とも頷いた。ま、ジンタの方は、小型衛星を浮かせたまま、機体を前に傾けただけだがな。
俺は、レインの言ったように相手がどういう考えでここを襲撃してきたのかを調べながら考えていた。
そして、
「俺、調べててあいつらは、やることがあるって言ってたことを思い出したんだ。あの時は、あいつらの目的なんてどうでも良かったけど、考えてみたらあいつらの行動、おかしかったんだよ。」
「おかしい?目的があることの何がおかしいねん。」
「だってほら、何か目的があって、それを達成しようと思うなら俺たちと遊ぶなんてバカなことしないはずだと思わないか?」
「あー、なるほどな。そら、確かにそうやな。」
「まるで目的はあるけど、適当に…なんて言うか、」
「仕事みたい?」
俺が言い終わる前に、レインが言う。
だが正解だ。
「ああ。雇われたみたいな。そんな感じだ。」
「ここに来て俺もそう思った。」
「理由は?」
尋ねると、レインは視線を建物に移し、その建物に指を指す。
「あの建物がなんや?」
「あそこから奴らの仲間が俺たちを狙ってた。」
「いたな。他にも二人ほどいたっけか?」
「うん。あそことあそこ。」
俺が言うと、レインは他の二つの建物を指す。
「正直、悪くない腕だった。けど、それなら建物から逃げるよりも、中で隠れながら隙を狙えばよかった。」
「でも逃げた…か。でも、それってレイン、お前があまりにも強すぎるのに気づいたからじゃ…。」
「いや、スナイパーは三人。一斉に撃たれたら避けるのは難しい。相手もそれくらい分かる。」
「なるほど。」
「鬼塚は確か、クリスタルモンスターを操る結晶については、あいつらは詳しいことを聞かされてなかったって言ってた。」
「それと、逃げる手伝いをした奴もいたし。」
「たぶん、あいつら何かの組織に雇われただけ。そして命令を受けたから逃げたと思う。」
「うーん。でも、それも憶測の域出てへんやろ?」
「分かってる。だから、奴らをとり逃がしたその4日後にクリスタルモンスターが出現したところに行きたい。」
「ん?何か心当たりでもあるのか?レイン。」
「ある。こことその現場を見比べたら分かることがあると思う。」
「分かった。じゃ、行こう。」
その意見に俺も賛成する。
こうして、俺たちは、次の現場である渋谷へ向かったのだった。




