第15話 無力
明けましておめでとうございます!
「お、おい。やばくないか?」
「…いや、魔力感知にはこちらを狙っているような奴はいない。」
「そうか…。」
俺はレインの言葉を聞き、そっと肩を撫で下ろす。
目の前の赤く光る結晶を見る。
その赤からはなぜか不気味さが感じられた。まるでこれから俺たちの身に何か嫌なことが降りかかるような、そんな不気味さだ。
「取り敢えず、回収。」
「ああ。」
そう言って、俺は結晶を回収する。
「ええと…。どうしたの?」
「ん?あ、いや、何でも。もう大丈夫だから安心して。」
「そっか。」
俺たちに尋ねて来たのはさっきクリスタルモンスターから守った女の子だ。
普通に日本語を話しているけど外国人だ。腰まで伸ばした金髪はさらさらで、かなりの美少女だ。身長は俺より低いがレインよりは高いな。
「でも、本当に凄いね!離れたところから見てたけど、やっ!とぉっ!って。私、剣…じゃなくて刀だったね。それで戦う特魔部隊の人なんて初めて見たよ。」
女の子は、両腕を使って刀を振るような動きをして見せて言う。
「いや、見てないでちゃんと逃げてくれないと危ないんだけど…」
「それはそうだけど、隣の青髪の子がすぐに現れて一撃で倒したんだしバッチグーよ!あれも凄かった!」
「バッチグーってもう死語なんじゃ…いや、そうじゃない。どっちにしても逃げてもらわないと…。」
「バッチグーって?」
「えっ、そこ大事か?」
「まだ日本語は難しい。」
「いや、十分喋れてるから問題ねぇよ。」
と言いつつ、100年以上前に流行った万事良好の意の言葉だと伝えてやる。
「なるほど」なんてレインは言うが、万事良好が分かるんなら、もう十分なくらい日本語をマスターしているように思うのは俺だけか?
「ん?もしもし……うん、終わった…えっ、分かった。」
突然鳴った携帯電話を取り出し、電話に出たレインは通話を切った後、女の子に言う。
「悪いけど、着いてきてもらう。」
「え?」
「なんだ?命令か?」
「ああ、クリスタルモンスター出現の時にその場に居合わせた人間を適当に連れて来るよう言われた。」
「うん。分かった。あ、そうだ、まだ名前教えてなかったね。レーナ・アルファーノ。レーナでいいよ。これも何かの縁なんだし、よろしくね。」
「ああ、よろしく。俺は桐島刃。」
「レイン・バレット。よろしく。」
互いに自己紹介をし、レーナと何人かの人を支部に連れていく。
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「なるほど、そうですか。ありがとうございました。」
特殊攻撃魔導部隊支部にて、俺たちはレーナを含めた任意で同行してくれた人たちを応接室まで送り届け、その外で待っていた。
中では捜査班の鬼塚さんが取り調べを行っており、事件から3時間ほど経った今、鬼塚さんの挨拶が聞こえた後すぐに部屋から最後の人が出てきた。
ちなみに、結局俺たちは見ようと思っていた映画を見ることが出来ず、俺は無駄な労力とお金を使ってしまったなぁという無念さいっぱいの状態でこの3時間を過ごしていた。
「おお、二人とも。悪いな、待たせちまって。」
取り調べを終えた鬼塚さんが部屋から出てきて言う。
「問題ない。」
「そうか。じゃ、入ってくれ。」
部屋に入り、席につくと鬼塚さんが真面目な顔で俺たちに向かって話し出す。
「これはまだ臆測でしかないが聞いてくれ。今回のことも踏まえた結果、俺たち捜査班はこれが、テロ事件の前兆だと睨んでいる。理由はこの前捕まえた奴らがマントを被った奴に転移させられる前にとった証言で、あの赤い結晶はクリスタルモンスターを操るためのものだと言うことが分かったって言うのが一つ。」
「クリスタルモンスターを!?」
「ああ、奴らも詳しいことは知らさせていなかったらしいが、それは確かだ。」
「それってかなりまずくないですか?」
「で、それとテロがどう関係してくるんだ?」
「まぁ二人とも、続きだ。二つ目だが、今年は、7月に世界的に重要なことが行われる。知っているよな?」
「世界的にって言うと…」
「五か国会議だな。」
「正解だ、レイン。その五か国会議が二つ目の理由だ。五か国会議。アメリカ、中国、イタリア、ドイツ、日本の首脳が集まり、世界の様々な問題を話し合う会議。そして、今回、会場として選ばれたのが、日本の首都、東京都千代田区にある日本最大の建物、魔王城だ。たぶんここが襲われる。これを見てくれ。」
鬼塚さんは魔道具で立体的に日本地図を映し出す。それと同時に、赤い点のようなものがいくつか地図に記された。
「これは?」
「先月と今月にクリスタルモンスターが現れた所を表したもんだ。見てみな?東京だけがずば抜けて出現回数が多い。12回だ。たった1ヶ月と少しでだ。」
「12回も!?」
「異常、今までこんなこと無かった。」
「ああ、東京だけこんなにも回数が多いとまるでテロのテストをしているみたいだ。」
「じゃあ、すぐ報告しないと!凄い被害になるんじゃ…」
「したさ。でも、これはあくまで臆測なんだ。もしも違ったらどうする?さっきの取り調べでは、何の手掛かりも得られなかった。だから、明確な証拠が出るまでは会議自体は中止にはならない。」
「いや、でも…」
「確かにすべきじゃない。」
「そうだな。でも、簡単な話じゃない。この会議のためにきっと、とんでもないほどの金と人が動いているはずなんだ。この程度の情報じゃ中止には足りない。」
「「……。」」
きっと、鬼塚さんの言うように憶測で物事を決めることなんて出来ない。
だが、歯痒い。明らかに異変が起こっている。
知っていて、なにも出来ないというこの歯痒さをどうすればいいのか分からない。
レインもそうなのだろう、黙ったままだ。
「ま、お前らは気にするな。出来ることなんてない。」
「そう…ですよね…。」
「……。」
「じゃ、解散だ。悪かったな、時間掛けさせて。」
「いえ…。聞かせてもらえただけでも嬉しいです。」
「……。」
俺たちは、心のモヤモヤを抱えたまま、部屋を後にしたのだった。
今回は何だか暗い感じの話になってしまいましたが、大丈夫です。きっと二人は乗り越えます!
それでは、次回もお楽しみに。見逃さないで!レイン的に言うとDon't miss it!この台詞気に入っています。




