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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

3分間限定で最強のイケメンに変身できる俺が美少女を助ける話

作者: 今川義郎

「げへへへ! おいお嬢ちゃん、お前めっちゃかわいいなあ!」

「俺らとお茶しねえか? おお?」

「そ、それが終わったら、ぜぜぜ是非ホテルに……」


 俺が学校からの帰り道を歩いていると、べたべたすぎるナンパのシーンに遭遇した。「仕込みか?」と疑うレベルのナンパだ。 


 俺は無視して帰ろうとしたが、彼ら三人組に囲まれている少女の姿を見て俺は固まった。


 腰まで伸びた黒い髪。

 雪を百倍美化しても及ばないほどの、遠目にも分かる白い肌。

 すらりと伸びた手足。



 間違いない。アイツは――高尾たかおあやせ!



 高尾あやせは俺と同じ栄星高校に通う一年生だ。眉目秀麗・文武両道ということで、入学してすぐに学校中の噂になった。彼女は入学して一か月も経たないうちに学校の高嶺の花として、われら学校の男子どもの上に君臨していた。

 美少女だから当然告白も受けまくるらしいよ。その数はすでに50に及ぶだとか。すごいね。この学校の生徒にとって友達同士の話題は「今日のニュースと昨日のドラマと高尾の色恋話」とまで言われている。


 そんな高尾が――見るも醜いオスどもに囲まれている!

 彼女の表情も強張っていることから、これが仕込みや撮影ではないことを物語っている。本気で怯えている。というか目を背けている。そこまで醜いか……。


 ともかく、こんな場面に遭遇したら助けなければ男が廃る。

 問題は敵の頭数だ。三人、それもいずれも巨漢。並の男なら一人でも歯が立たないゴリラが三人も並んでいると来た。


 しかし!


 俺ならこの状況でも余裕で介入できちゃうもんね。

 俺は小さい頃に観ていた仮面ラ〇ダーのような決めポーズを取り、一言。



「――――変身」



 次の瞬間、俺の身体は白い光に包まれ――



 全く別人のイケメンに変身していた。



 全く、こんなことを誰が信じるだろうか。俺のごとき冴えない高校生が、35億人の女性が振り向かずにはいられない水も滴るいい男に変身するのだから。

 しかもこれ、身体能力向上・思考・判断速度上昇のおまけつき。

 ありていに言えば、無敵。

 異世界から魔王でも侵略してこない限り俺は絶対強者なのである。

 ただし、3分という時間制限つきだが。これを過ぎれば元の俺の姿に戻る。どこぞのウルトラ〇ンである。


 さて、変身完了。



「男三人でか弱い少女を囲うとは……嘆かわしい」



 俺はきざったらしいセリフを言いながら彼らの前に登場する。三人の男と高尾が振り向き、そして全員一様に突如出現せしイケメンに目を奪われている。当然の反応だ。サインもあげるよ。


「て、てめえナニモンだ!」


 三頭のゴリラのうち最もガタイの良いゴリラが啖呵を切る。おーおー怖い怖い。


「俺は――イケメン仮面」

「は? なんだそりゃ」

「いくらなんでも、なあ……」

「ネーミングが安直すぎる、0点」

「全くね……」


 名乗った途端に全員からバッシングを食らう。くっ! なかなかのダメージ……けど負けないもんね。

 というか高尾さん、あなたは俺の味方しないと駄目でしょ。


「今すぐその子から手を引くんだ。そうすれば命までは取らない」

「な、なめやがって! やっちまえお前ら!」


 ボスゴリラの鬨の声とともに二頭のゴリラが左右から襲いかかって来る。やれやれ、血の気が多いな。

 俺は軽く――2メートルほどジャンプし、二頭の顔に同時に蹴りをお見舞いする。


「ぶへえっ!」

「うごぉ!」


 二頭はその一蹴りで沈没し、ノックアウト。

 その様を見ていたボスゴリラは、あまりにもあっけない幕切れに怯えたような表情を浮かべる。


「て、てめえ――化け物か!」

「失礼な、俺はイケメンマンだ」

「うるせえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 半泣きになりながらボスゴリラが向かってくる。うむ、そういう潔さ、嫌いじゃないぞ。一瞬で楽にしてやるからな。

 俺はゴリラの右ストレートをひょいっとかわし、カウンターに重い拳を一発腹にくれてやった。


「…………ッ!!」


 ゴリラの巨漢はくの字に折れ、やがて白目を向いて気絶した。


「ふう、一件落着ッと」


 いかんいかん、そろそろここを去らねば。

 俺は最後の一言のために高尾に向き直る。彼女はうっとりとした表情を浮かべて両手を組み、こちらを見つめていた。


「お嬢さん、危機は去った。俺はクールに去るぜ――」


「ま、待って!」

「え?」


 あろうことか、瞬時に距離を詰めた高尾に、俺は服の裾をぎゅっと握られてしまっていた!


「は、離してくれないかな、お嬢さん」

「せ、せめてお名前――お名前をお聞かせください!」


 ちょ、そんな時間もうないんだって! 離せマジで!

 とはイケメンが口を裂けても言えず。俺は焦る心を静めて笑顔をつくり、


「名乗るほどの者でもないさ……」

「で、でも――あっ!」


 俺は一瞬、高尾の袖を引く力がゆるまったのを突いてダッシュでその場を去った。そうして住宅街の角を曲がり、誰からも見えなくなったところで、ちょうど3分が経つ。

 俺の身体が再び光り、俺はきた博明ひろあきとしての俺に戻った。


「危なかった……」


 実際、高尾に捕まった時、変身してから2分30秒が経過していた。もしあのまま彼女に捕まっていたら、その場で光が溶け落ちてイケメンマンの代わりに冴えない男子高校生が現れていた。それを見たら高尾卒倒ものだろう。イケメンが助けるから女子はロマンスを感じるのである。

 そう、イケメンが助けるから――


「世の中、顔だよなあ……」


 俺は嘆息する。この能力を手に入れたのは幼い頃だが、イケメンマンとして人助けをするようになって分かったことが一つ。


 やはりイケメンだからこそ女子は惹かれる。


 実際、俺は北博明の俺として筋トレと運動を重ねたため、そこらの酒とタバコでボロボロのチンピラにはタイマンで負けたことがない。その力をふるい、チンピラに絡まれる少女を助けたこともある。

 結論から言えば、少女は「ありがとうございます」とだけ言い、名前も聞かなければ「あの、こ、今度お礼させてください!」と言って連絡先を聞いてくるようなこともなかった。


 そう、イケメンこそが正義。

 だから俺はイケメンマンとして正義を執行する。

 そのことに何の不満もない。


 が――


「やっぱり、この身体で恋してえなあ……」


 誰か、北博明という俺を認めて好いてくれる女子はいないだろうか。もしいればDMお願いします。

 トホホ。


 俺は引っ込んだ小路から出て何食わぬ顔でさっき騒動のあった場所へ歩いて行った。

 高尾はまだそこにいた。

 彼女はまだ熱に浮かされたような表情でイケメンマンもとい俺の去った方を見つめていたが、俺が同じところから歩いてくるのを見るや、


「ちょ、ちょっとそこの君! さっきイケメンがそっちへ来なかった!?」

「いや、来ませんでしたよ」


 俺は涼しい顔で答える。すると「そう……」とあからまさにがっかりしたような顔をして、高尾は地面に置いていたカバンを持っていそいそと帰宅した。


 こんなものだ。人生、こんな……


「ああ……」


 俺は誰もいない路地で一人、呟いた。


「恋がしてえ……」

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