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82-変化。


 夜22時。目が覚めて二度寝しようとしたけど寝れなくて仕方なく起きることにした。


「やらかしたなぁ……。完全に寝すぎた」


 これ明日起きれるかな。寝坊したらごめんね?蘭ちゃん。

先に心の中で謝っておく。


「散歩がてらコンビニでも行くか」


 軽く着替えてサンダルを履いて外にでる。

レシピのことでも考えながらゆっくりと歩こう。警察に見つからなきゃいいけど。

しばらく歩くと前に蘭ちゃん達と入った森の入り口を見つけた。


 懐かしいなぁ。つい最近のことなのになぜかもう懐かしく感じてしまう。

この時も先輩の誕生日パーティーも楽しかったけど先輩の家族を見てると家庭の暖かさが沁みるというか刺さるというか。

別に1人でも寂しくはないんだけどね?

感傷的な感情は捨ててとりあえず穴の中に入ってみる。


 ゆっくり川でも眺めながら星でも見たらなにかいい案が浮かぶがしれない。

森を抜けて川へ出る。


「懐かしい。あの時食べたお肉美味しかったな」


 川の横まで行きそのまま川に沿って上流に向かって歩き出す。


「どこまで続いてるんだろうかね」


 次第に細く浅くなっていく川を眺めながらゆっくりとゆっくりと。


「ここ蛍が見れるんじゃないのか。1匹もいないぞ」


 暫く歩くとちらほら蛍見えてくる。

「蛍もいて静かで星もよく見えるって絶景のスポットだよなぁ」


 天体観測とかにぴったりの場所だね。

やっぱりみんな知らないからこんなに誰もいないんだろうか?


「こんな時間に普通出歩かないか」


 この街には風流を求める人はいないらしいね。

川もかなり浅くなり深くてもすねの途中くらいまでになっていた。

結構歩いたね。少し休憩で大きめの石に腰掛ける。

そろそろ戻らないと本当に明日起きれなくなるし少ししたら引き返すか。


「星なんてわからないけど本当に綺麗だな」


 首を上げで満天の星を眺める。

夏の星座ってなんだっけ?デネブ?アルクトゥルス?理科の授業でやった気がするけどなんだっけなぁ……。夏の大三角の3つって。


 心地良い風を浴びながら目を閉じて色んなことを考える。

レシピの事や昔の事とか。先輩はもう寝たかな?なんて考えたところで目を開けて小さく笑う。


「こんな時まで先輩の事か。案外思ったより毒されてるのかも?」


 蘭ちゃんが喜びそうな話だ。別に恋愛感情じゃないけども。面白ければなんでも良いんだろう蘭ちゃんは。


 そろそろ戻ろうと立ち上がって伸びをすると何処からか音が聞こえてくる。


「携帯?じゃないよな。てゆうかバイオリンか?こんなところで?」


 音の発生源に向けてゆっくりと歩きだす。

先輩とか?まさかね。こんな時間にここにいたらどうかしてるよ。

更に上流に向かって歩いて行くと次第に音は大きくなり、川の上に何かが動いているのが見えた。


「川に入って弾いてるのか……?」


 ちょっと先輩感でてきてる。

姿がわかる距離まで近づくとそこには案の定、足首まで川に浸かり月明かりに照らされながら沢山の蛍と一緒になって演奏する白いワンピース姿の先輩だった。

目を閉じてゆったりと静かなメロディーを奏でながら身体を揺らす先輩は今までで1番幻想的で綺麗だった。


 何故こんなところで。とかいう考えは何処かに飛んでしまい、ただ先輩を眺め続けた。

演奏が終わってもその余韻に浸り動けなかった。

すると先に先輩が目を開けてこちらに気づいた。


「ありゃ?後輩くんじゃありませんか。後輩くんもこの子達と一緒に音に釣られてきたのかな?」


 月明かりの逆光に晒されながら首を傾けて不思議そうな顔をする。

右手の人差し指を曲げて関節に蛍をとめて眺め、ふぅ。っと息を吹きかけて蛍を飛ばす。

川からあがりバイオリンを置いて放課後にあげたマカロンをつまみながらこちらにやってくる。


「どうしたの?黙っちゃって」


「あ、いや別に……。先輩本物ですか?」


 当たり前のことを言ってしまった。


「ぷっ。本物以外にどこに偽物がいるのさ。幽霊でもおばけでもなくて本物だよ?」


 ですよねー。本物ならなんでここにいるんだ。寝なくていいのか?


「なんでこの時間にこんなところにいるんですかね?」


「それは後輩くんもでしょう。わたしは毎回大会の前日の日課だよ。ここにいると落ち着くしリラックスできるし」


「僕はただの散歩ですよ」


「ふーん?まぁせっかくだしこっちにおいでよ」


 先輩はこちらの手を取ってそのまま川の中に入って行く。

え?ちょっと濡れるって、サンダルだけど……。


「冷たくて気持ちいでしょ」


「別に入る必要なかったですけどね」


「たしかにね」


 先輩は上がって足をタオルで拭いてサンダルを履く。


「明日大丈夫なんですか?」


 続いて自分も上がって先輩に疑問をぶつける。


「ん〜。なるようになるんじゃない?後輩君からケーキとかも貰ったしね」


 マカロンを齧りながら微笑む。



「別になんの効果もありませんよ」

「そうかもね〜?たしかに結果にはなんも関係ないかも」


「当たり前ですよ」


 バイオリンを片付けた先輩は思いついたような顔をして提案してくる。

この顔の時はろくな事をしない。


「それじゃ後輩くんから頑張れるようになんか貰おうかな」


 もうケーキあげたじゃん。ついでに今食べてるマカロンも。


「後輩くん目を瞑って」


「なんでですか?」


「いーからいーから」


 なんも良くないんだけど……。先輩のことだから大体は予想つくけどマカロンでも口に突っ込む気だろう。

でもそれだと貰うことになるのか。

目を瞑ってそんな事を考えていると唇に何かが当たる感覚があった。

ほらやっぱりマカロ……じゃない柔らかい感覚が一瞬だけあった。


「ケーキのお礼も兼ねてね!それじゃわたし帰るから!!あ、これで足拭いていいよ?」


 目を瞑ったまま固まっている顔に自分が拭いたタオルを投げて石を鳴らしながら駆け足で遠ざかっていった。


「先輩の足拭いたやつじゃん……」


 顔からタオルを外してそう零す。

そしてそのまま唇に指を当てて感覚を確かめる。

今のってマカロンじゃないよね……。

先輩のすることにいちいち考えてたらキリがないけどさ……。


「ジャスミン苦手なんだけどなぁ……」


 仄かに感じるジャスミンがいつまでも口の中に残り続けた。




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