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81-ト音記号。


 金曜日。先輩のバイオリンのコンクールの前日。今日くらいは試作じゃなくて応援でも兼ねて先輩用のケーキでも作ってあげようと早起きしてケーキ作りに励んだ。


「って言ってもなんの変哲も無いただのチョコレートケーキなんだけどね」


 おまけで紅茶のマカロンも作ってラッピングをして学校へ向かった。



 放課後ケーキを持っていつもの場所に向かう。


「早いかな?」


 最近は作ってから持っていってたから結構時間の差がある。


「あ、扉開いてるじゃん」


 教室の扉が開きっぱなしになっている。バイオリンも聞こえてこないし来たばかりなのかな?

中に入ると窓を開けてさんに腰掛け風に髪を靡かせもたれ掛かる先輩の姿があった。


 何してんだろう?寝てるとか。瞑想?黄昏かな?

なんにせよ、小説のヒロインのいちシーンみたいだ。

とりあえず可愛いから写真撮っとくか。

携帯を取り出してカメラを起動する。

あ、誰かからメールきてる後で確認しよう。


 カシャリ。

シャッターを切る乾いた音が教室に響く。

それに気がついたのか先輩はゆっくりと目を開けてこちらを見る。


「今撮ったでしょー?」


「なんのことですかね?」


「まぁいいや。待ち受けにしといてね」


 誰がするか!

先輩は窓から降りてゆっくりと机に向かいカモミールティーを注ぐ。


「今日は随分のんびりですね」


「ちょっとねぇ〜。大会の前日はいつもこんな感じだよー」


 静かな先輩の方が見た目には似合ってる。けどなんか違和感しかないなぁ。


「まぁいいです。それよりケーキ持ってきましたけど食べますか?」


「ん〜どうしようかなー」


 え?先輩が渋るだと?!


「熱でもありますか?」


「ないよ!」


 食べるというまでゆっくり待ちますか。

椅子に座ってメールの確認をしようとしたら電話がかかってきた。

蘭ちゃん?なんか急ぎの用かな?


「ちょっと電話してきますね」


「はいよ〜」


 相変わらずぐってりとした先輩をおいて廊下にでて

電話にでる。


『はいもしもし?」


『あ、小鳥遊さんこんにちわー』


『こんにちは蘭ちゃん。どうかしたの?』


『いえ、小鳥遊さんって明日のおねぇちゃんのコンクール行くんですよね?』


『行くよ』


『よかったら一緒に行きませんか!』


『いいけど蘭ちゃんも行くんだね?』


『もちろんですよ!!それじゃ明日11時に小鳥遊さんの家にいきますね』


『了解。きたらインターホンならしてね』


『わかりました!それじゃ失礼しましたー』


『ばいばい』


 電話を切って先輩のところへ戻る。

この後先輩から場所とか聞き出さなくてよくなって手間が省けた。


「先輩ケーキ食べないなら持って帰りますよ?」


「食べる!食べますよ!もちろん!!」


「はいどうぞ」


 箱ごと先輩に渡す。


「お皿に乗せてよ〜」


「先輩の分しかありせんから。自分でどうぞ」


「食べないの?」


「今日は要らないです」


「ふーん?だとしても乗せてよ!」


 全くわがままな先輩だな。

口元をほんのちょっとだけ綻ばせて箱を手繰る。


「ん?後輩くんなんかいいことでもあったの?」


「え?どうしてですか」


「いやなんか笑ったように見えたから」


「気のせいじゃないですかね?」


 ほんの少し口角が緩んだくらいでわかるわけないのに先輩こわ……。


「そーかなー?てかわたし後輩くんの笑った顔見たことない気がする……?」


「先輩といて呆れることはあれど笑うこと無いですからねー」


「馬鹿にされてるよねそれ?!わたしだって笑わせることくらいできるから!!」


 いつもの先輩テンションに戻って来たみたいだ。こっちの方がなんか落ち着くな。


「何もないところで転ぶとかですか?」


「あ、それもう今日やった。小学生にパンツ見られたよ……」


「黒のパンツですか?」


「違うから!!毎日黒履いてると思うなよー。今日はみずい……」


「みずい」


「はぁ〜。危ない危ない。いうところだった」


 いやもう答えじゃないかそれ?


「みずい。まで言ったら1つしか無いですけどね」


「確かに……。ま、いいや別に色くらい一回見られてるしそれに比べたらね」


「そうですか。みずい」


「……」


「どうしました?みずい……。先輩」


「あ〜もうしつこいな!!!それならもう最後まで言っちゃいなよ!!」


「まぁ先輩のパンツが黒だろうが緑だろうが金だろうがどうでもいいんですよ。はい、これケーキですよ」


 紙皿に乗せたケーキを先輩に渡す。


「どーでも……。ってなにこれ?!凄い!音符の形してる!」


 よかった。思ったより喜んでくれてる。


「明日コンクールですからね。細やかな餞別?です」


「後輩くんって意外にマメだよね。お菓子も作れてマメでモテそうだね?彼女とかいないの?」


「いたらこんなところで先輩のお守りなんてしてないですよ」


「もーお守りって……。そっかぁいないんだ?寂しい青春だね?」


「先輩だっていない癖に人のこと言えないじゃないでしょ」


「まぁーそーだけどね〜。これ食べるのもったいないなぁ」


「見た目以外は普通のチョコケーキですよ。とっとと食べちゃってください」


「せっかく作ってくれたんだし食べちゃいますか。いただきます〜」


見た目はおしゃれだけど空白があるから中身は少ないんだよねこれ。


「うん。当たり前だけど美味しいね?ありがとっ!後輩くん」


「どういたしまして。僕はもう帰りますけど先輩は最後に練習してくんですか?」


「んー少しだけやろうかなぁ?めんどくさかったけど、ケーキ貰っちゃったからねぇー」


「それじゃ頑張ってくださいね?僕は眠いんで帰って寝ますよ」


「夜更かしは駄目だよ〜?」


 夜更かしじゃなくて早起きですけどね?


「気をつけますよ。あと先輩これ夜にでも食べてください」


 鞄から募集紙袋に入った紅茶のマカロンを取り出して先輩に渡す。


「なにこれ」


「紅茶のマカロンですよ」


「マカロンまで作ってくれたの。今日の後輩くんはなんか怖いくらい優しいね」


「怖くて悪かったですね。それじゃ帰りますよ。さようなら」


「さよなら〜。ばいばい!!」


 ちょっと甘やかしすぎたかな?なんだかんだいって先輩のことほっとけないんだよなぁ。お節介なのかな?明日失敗したら困るしね?




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