77-アヒル。
「持ってきましたよ」
バイオリンの練習をしていた先輩はケーキの箱を見るや演奏を停止してティータイムの準備に移る。
区切りのいいところまでとか言う概念はないのか。それにしてもなんか久々にこの曲聴いたな。というか先輩のバイオリン自体が割と久々かも?
「よし食べるよー。今日は何かなー」
「今日は試作ですよ。割と食べ物じゃないかもしれないです」
「どゆこと……。わたし美味しいケーキがいいよ?」
「味のバランスがちょっとあれでして。一緒に食べると美味しいのかなっていうのが」
「試食した?」
「してません」
「なんで?」
「不味かったら別なの作るのめんどくさかったんでー」
先輩用に別に作るのはなんか気分じゃなかったんだよね。
「だからってそれはどうなのさ……」
「ちゃんとパーツ毎は美味しく出来てますよ」
合わせるとどうなのかはわからないよね?ちなみに蜜柑と桜とチョコです。
「毒味係かーわたしは」
「もちろん」
「まぁ、美味しいかもしれないからね!いただきまーす!」
「どうです?」
無言でこっちのケーキを指して食べるように促してくる。食べればわかるってか。まずいなら嫌だなぁ……。
一口掬って食べてみるとまぁなんとも微妙なマリアージュ。食べれないほど不味いわけじゃないけど美味しいケーキでも無いな。好みの問題かな?
「ハズレですね」
「そう?まぁ美味しい!ってわけではないかな。後輩くんの中で1番おいしげないのは確かだね?」
「僕は好きじゃないですけどね。これじゃだめですね」
「それじゃそれもわたしがもらおうじゃないか」
「別に良いですけど……」
「やったぁ〜。いただき!」
「先輩って食べかけのとか気にしないんですね」
間接キスなのにね、いつも気にしないけど。
「別に〜?後輩くんのだしね。はっ!唾液を交換する仲っ?!わたし進んでるかも!」
何言ってんだ……。交換ではないでしょうが。それに進んでるって、遅れてること気にしてるのか。
「進んでるんじゃなくてただの変態ですよ」
「変態じゃないから!いつも変態変態やめてよね」
だって発言が変態だし、女の子としては密着度とかたかいし。
「あ、でも進んでますね?変態具合が前より」
「結構真面目に言ってる?」
「いつだって真面目ですよ」
「まじか……。もっとお淑やかに生きた方がいいのかなー」
首を傾けて天井見る先輩。
悩んでるように言ってるけどそのケーキを食べる手を止めないと全然真剣さが見えない。
「そんなに悩んでないでしょそれ」
「あ、ばれた?まぁ言われたことないし別にいいかなって。後輩くんだけだしね言ってるの!」
そもそも絡む人がいないだけじゃないのかな?今はいいけど将来は大変そうだね。
先輩の将来なんて関係ないはずだからいいけど。可愛いし変な人に騙されそうだよね、そのうち近い将来ニュースで先輩の名前見るかも?
「先輩はバイオリンしてケーキ食べて生きてれば人生成り立ちますもんね。悩みとかないでしょう」
「悩みくらいはあるからね?」
「例えば?」
「バイオリン難しいやつとか。ケーキ作れば食べ放題なのに作れないとか。甘いもの食べ過ぎてるから痩せないとかいろいろ」
「先輩はもっと太った方がいいんじゃないですかね?」
「なんでさ!後輩ってもしかしてデブ専とか?」
「いや普通に細い方が好きですけどね」
「ならいいんじゃないの、別に」
「僕の好みと先輩が細すぎなのは関係ないでしょう」
「太らせて自分の好みにしたてあげるのかなって。フォアグラ用のアヒルみたいに」
「どんな例えですか」
「だからなんだかんだ言ってスイーツ作って来てくれてるのかなって思ったり」
「せっかく作ってるのにそんな不当な印象を抱かれてたんですか……」
「つまりダイエットし続ければ太らないから永遠に後輩くんのスイーツが食べられる!」
「例え太めが好みで先輩を太らせてるとして太ったら殺して食べるわけじゃないんですから別に食べれなくなるわけじゃないんじゃないですかね?」
アヒルじゃあるまい好みの問題なら太らせて終わりでしょうに。
「あ、ならダイエットしなくていいんじゃん」
「てか普通に太った先輩なんて見たくないんですけど……。そんな見た目まで残念な先輩なんて世界の需要がなくなりますよ?それに永遠って言ったって卒業までじゃないですか」
まさかその後も作って持ってこいとかは言わないよね?家近いからってさ。
「大丈夫。太ってもデブ専には需要でるから……っ!そうだよね、卒業後のことまで考えないといけないよね?どうしたら食べられるのかなー」
いや継続の仕方を考えなくてもいいんだけど……。打ち切りって路線でいけないの。
「そんなの考えてる暇あったら練習した方がいいですよ?」
「バイオリンの話はやめて〜。もっと有意義な事にしようよ!」
「今1番大事な話じゃないですかね?」
「はぁ……。練習すればいいんでしょ!練習すれば!!!」
「まぁ、しないならケーキ作ってこないだけですからね。ケーキ代分くらいは演奏聞かせてくださいよ」
「仕方ない、ケーキのために頑張りますか」
先輩の中では『ケーキ>バイオリン』になってるのか。
ご褒美のケーキじゃなくて、ケーキが目的になってるよ。
バイオリンを弾き始めた先輩を見ながらゆっくりと片付けを終わらせて、心地よい旋律に耳を傾けて放課後を過ごした。




