76-デコピン。
「それじゃそれをとっとと箱にしまっちゃってくださいよ。もう終わりですよ」
「あいさ〜」
片付けをして作ったケーキを持って玄関ホールに戻る。
先生のお話を聞いて解散となった。
「今日はありがとございました。いい刺激になりましたよ」
「こちらこそ。お互い頑張りましょうか。高級ケーキの為に」
和西さんまでケーキのこと言いだしたよ……。
「僕じゃ無理ですよ。和西さんが優勝でも買ってもらえるようにしますか」
「それだと一緒食べられませんね。とりあえずお互い入賞目指して頑張りましょうか」
「そうですね。ありがとうございました。また会場で?」
「お疲れ様です。東京で」
玄関を出て学校を後にする。
今日は色々と話聞けてよかったな。レシピ早く作らないとやばいのはわかったよ。
家に戻ったら考案しないと。
それはともかく。
「何さらっと付いてきてるんですか?」
「え?!駄目なの?!いいじゃん同じ方向じゃんか!!」
「もう完全にストーカーですね?」
「褒めないでよ」
褒めてねーよ!!!どこをどう取ったら褒めてることになるんだ……。先輩の思考回路は今だに謎だ。
「はぁ、先輩には何言っても無駄ですね」
「そうそう!大人しく私に振り回されなさい〜」
「ほんと自由ですね」
「後輩くんはもう私の手中なのだ!」
いつ先輩のものになったんだ。自分は自分のものだよ?
「後輩くんは私のもの。つまり?後輩くんの作るスイーツも私のものに!なんと素晴らしい定理!アインシュタインもびっくりだよ」
「別にアインシュタインって数学者じゃないでしょ……?」
違うよね?数学者なのかな?発明家じゃないのか?
「ならガリレオでもピタゴラスでもメンデルでもいいよ。故人の内容までは別に大事じゃないし?」
メンデルは理科の人じゃないか?牧師だっけ?インゲンだかそら豆の人。
「この話自体無駄ですね」
「無駄とはなんだね!!可愛い美少女と休日の他愛のない会話だよ!読者が憧れてるシチュだからね?」
なんの話だ……。そもそも自分で美少女とか。
「読者ってなんですか読者って」
「知らないー。でも世界中の男子が夢見る光景でしょ。まぁその相手がわたしなのが残念なところだね」
そんな恋愛小説に憧れる中高生じゃあるまい。いや、高校生ではあるか……。
「自分でよくわかってるじゃないですか」
「後輩くんに言われるとなんかムカつくよねー」
「ムカつくも何も、1番体験してるの僕ですからね?」
貴重な現場の声だよ。最前線のね。
「なんだかんだ楽しい癖に〜」
「いい迷惑ですよ」
「またまたぁ〜?本当は満更でもないんでしょ?正直になりなよ〜」
周りにくるくると回りながら顔を覗き込んでくる。
割と鬱陶しい。そのくせ絵になってるからなんかムカつく。
「邪魔ですよ」
正面に来たタイミングでデコピンをお見舞いしてやる。
パチーン。と乾いた音が響く。
おお、いい音鳴ったな。痛そう。
「痛っい〜。何すんのさ後輩くん!」
おでこを抑えて涙目になった先輩が抗議してくる。
自業自得じゃないか。
「いい音でしたね」
「いい音じゃないよ〜!女の子に顔は駄目でしょ!」
「おでこですよ」
「一緒だよ!怪我したら大変だよ!」
「可愛い顔に傷でも着いたら先輩の唯一のアイデンティティーが失われますもんね」
「わたし別に顔だけじゃないもん!!てゆうか自分で可愛いって言ってるけどネタだからね?アイデンティティーっていうほど可愛いと思ってないもん」
可愛さを盾に今まで好き放題してきたくせに。憶測だけど。
「何言ってるんですか。先輩は十分可愛いですよ?顔だけならモデルになれますよ。そのためには手足を捥いで声帯を取らないといけませんけど」
動かない喋らないが条件なら多分世界で戦えるよ。
「手足捥がれてるのにどうやってモデルやるのさ……」
「可愛さだけは十分ってことですよ」
「だけじゃないからね?料理以外はなんでもできるもん……」
「まぁそんなことは置いといてそろそろ家に着きますよ?」
「後輩くんってSだよね……」
「ノーマルですよ」
「先輩は悲しいよ」
1人で悲しんでてくださいよ。
「そーいえば先輩バイオリンの大会いつです?そろそろ教えてくださいよ?もう近いですよね?」
「ん?一週間後だけど」
「え?なんで一週間前にこんな事してるんですか……。練習しましょうよ」
「とりあえず弾けるから大丈夫だよー。……多分」
今最後に小声でボソッと多分って言ったの聞こえてますからね?
「勝つ気あるんですかまったくもう」
「あるよ?勝たないとわたしの計画が崩れちゃうからね」
「どうせロクでもない計画なんでしょ。その計画のために練習はしなくていいんですか?」
「毎日夜してるし。いけるでしょ、来週からは放課後毎日やるしね」
「頑張り出すの遅いですね……。本人がいいならいいんですけども」
やっぱ天才は違うのかな?それともやり過ぎるのもよくないものなのか。音楽はちんぷんかんぷんだ。
「いいのいいの!てことだから毎日スイーツよろしくね?」
「
毎日試作でいいならいくらでも」
「同じのは飽きるじゃんー」
そうは言われても試作しないわけにはいかないんだもの……。
「それじゃ今日のケーキあげるんでこれで一週間頑張ってくださいよ」
ホールケーキなんて1人じゃ食べきれないから。どっちにしろ和菓子と一緒に届ける予定だった。先輩が来て予定がめちゃくちゃになったけど。
「保つわけないでしょ!貰えるならもらうけど」
貰うんかい。先輩の家の前に着いたのでケーキと和菓子を渡す。
「じゃあはい。蘭ちゃんと仲良く食べて下さいね?」
「本当に要らないんだね?何しに行ったのさ」
「ケーキメインで行く人なんていませんよ普通。ケーキは副産物じゃないですか。何回も言ってるけど和西さんと話しに行ったんですよ?」
「勿体無いの〜。せっかくのケーキなのに、ケーキよりもお話を取るのね」
ケーキを取るのは先輩くらいです。
「どうせホールなんて1人で食べ切れませんからね」
「それじゃ責任持ってわたしが食べといてあげましょう」
「ありがとうございます。それじゃまだ学校で」
「ばいばーい!楽しみにしてるからね〜」
やれやれ……試作とは別に何か作らないといけないな。
こういうところが先輩に甘いんだよなぁ。
簡単なやつで我慢してもらおうかな。とりあえずレシピを練るところから始めないと……。帰ったらアイデアをまとめよう。




